街の表情どうつくる?仙台の卸売問屋街・卸町の試み

梅雨空が一息ついたかのような6月25日夜、仙台市若林区卸町で一風変わったイベントがあると聞き、行ってみた。会場は卸町会館5階にある「TRUNK(トランク)」。協同組合仙台卸商センターが開設したクリエーター支援の貸しオフィスだ。1965年に仙台市中心部の卸売業者が移転して一大拠点とした卸町のど真ん中に位置する。(平間真太郎)

何が起こる?「あなたの知らない世界」

イベントは題して「あなたの知らない世界」。そっくりそのまま、1970~80年代に人気のあった心霊・怪奇現象を紹介する民放テレビ番組のタイトルだ。番組を見ておびえ、そのころはまだ汲み取り式だった暗い便所に行く足がすくんだ小学生時代を思い出す。いい歳になった今でも気持ちがすくむ。

気を取り直して会場に入ると、50ほどあるイスはあらかた埋まっていた。案内のペーパーを見ると、開催は6回目で、今回のテーマは「企みの実践」とある。主催は「とうほくあきんどでざいん塾(以下あきんど塾)」。あきんど塾は、東日本大震災後の2012年以来、地元の中小企業とクリエーターをつなぎ、新たな価値創出の伴走支援をしている。すると、これは起業家支援やビジネス関連のセミナーのようなものなのか?それにしては、ビジネスマン風は数人程度、20~30代ぐらいの男女や大学生とおぼしき人たちもいて多様な年齢構成だ。

「とうほくあきんどでざいん塾」が主催したイベント「あなたの知らない世界」(仙台市若林区卸町、平間真太郎撮影)

戦慄の筆書き、ゆる~いトーク

いくつもの「?」を浮かべていると、人形劇に使う人形を持った女性が登場。客席の正面に張られた紙に「あ の 世」と筆で大書し始めた。会場がざわつく。しかし筆は止まらない。「あの世」の3文字の間にある空白を次々と埋めていく。完成したのはタイトルの「あなたの知らない世界」。会場に安堵の笑い声が満ちた。

タイトルを書いたのは工藤夏海さん。仙台でミニコミ紙をつくったり、人形劇の劇団を結成したり。ともに1970年生まれのパートナーの澁谷浩次さんと、2011年から仙台市内で喫茶ホルンを経営している。北海道出身の澁谷さんは、ミニコミ紙の編集や即興音楽活動をして、1998年から音楽グループ「yumbo」を結成。この日は、そんなユニークな活動を展開している二人を迎えてのトークイベントだった。

工藤さん、澁谷さん、司会の長内綾子さん(あきんど塾コーディネーター)の三人によるトークも独特の雰囲気。三人とも、工藤さんが顔を描いたお面を頭につけて話を繰り広げる。民家やラーメン店に壁画を描いたり、店や公園で思い思いの楽器を持ち寄って即興演奏をしたりといった二人の歩みを動画を交えながら振り返った。どうしてもお面に目が行く。無表情に近い顔が描かれているはずが、話を聞いているうちに微妙な表情を見せ始めたように感じるから不思議だ。

一見「緩い」トークなのに、気がつけば引き込まれている。その核心は「どんな小さなことでも、ひらめきを形にし続けている」二人の行動にあるのだろう。企画する(企む)人は数あれど、実践するまでに至る人はなかなかいない。そんな現状に一石を投じる企て、それが今回の「企みの実践」なのだろうと勝手に納得した。

卸町を多様な人の磁場に

この企画の仕掛け人で司会も務めた長内さんによると、あなたの知らない世界は2016年1月から毎月1回を基本に実施している。ひとつのことを深く探求している人をゲストに迎えて、世界の「知らない」ことに想像を巡らせることが狙いだ。

これまでのテーマは、カタール、ラトビア、亜炭を採掘するための坑道を探る「仙台の穴」など多彩だ。ビジネスとは関係なさそうなテーマをなぜ継続しているのか?長内さんは言う。「いろいろなタイプの人が集まり、混ざり合えば、もっとおもしろい街になると思うんです」

卸町も古くからある街の例に漏れず、世代交代の時期を迎え、産業の転換期の只中にある。ビジネス面での展開は言うまでもないが、それにとどまらず街としての魅力を磨くことでユニークな人たちが集まり、活力を生み出す。それは文化を育むことにもなるのだろう。

同じくあきんど塾コーディネーターの佐々木美織さんは、卸町を「白いディナープレート」に、自分たちの役割を「黒衣」に例える。「多様な人たちが入ってきやすい状況をつくり出す。卸町がそんな磁場になれれば」と語る。

古くからの仙台市民には、夜になると人影がなくなる街とみなされていた街に新たな表情が加わろうとしている。