【第7回】「野球にもまちづくりにも、挑戦が必要だ」色川冬馬監督×加美町・猪股洋文町長対談

仙台出身の元野球パキスタン代表監督・色川冬馬さん(26)が若者の悩みに答えるポッドキャスト番組「若者よ、悩みを語れ!」。今回は、エフエムたいはく(78.9MHZ)毎週火曜夜8時放送のラジオ番組「鈴木はるみの“ソーシャルで行こう!”」からの特別提供で、色川冬馬さんが出演した1月3日放送分を配信させていただきます。新春に、色川さんと加美町・猪股洋文町長が若者に伝えたいメッセージとは。

※記事内容は放送内容の一部であり、正確な書き起こしではありません。全編はpodcastをお聞き下さい


加美町・猪股洋文町長:町のシンボルは音楽施設バッハホールや薬莱山(やくらいさん)。4月には国立音楽院宮城キャンパスが加美町に開校予定。昨年春にはアウトドア用品大手モンベルの「モンベルフレンドタウン」に登録されるなど、音楽と自然の豊かさを生かした街づくりを展開している。

色川冬馬:1990年仙台市生まれ。野球選手としてアメリカ・メキシコ・プエルトリコ等のリーグでプレーした後、イランやパキスタンで国家チームの代表監督を歴任。指導者として国際的に活躍しながら、仙台で中学生野球チーム「南仙台ボーイズ」を創設。野球だけではなく英語教育やプロのトレーニングなどを取り入れた、スポーツクラブの新しいあり方を発信し続けている。


夢への道が「一本道しかない」は間違い

猪股:色川さんが、いろんな選択肢を示していきたい話していたことに同感です。日本社会にいると、どうしても「一本道」しかないように思ってしまう。いい大学出て安定した就職して。野球にしても強い学校に行って、プロになって…。その道を外れると夢を諦めざるをえないという風潮がありますが、それは違うのではないかと日ごろ思っています。私も一本道を歩んできていませんし。

加美町は、4月に音楽の学校を立ち上げます。音楽の道も、普通は子供のころからピアノやバイオリンを習って、音大へ入って、実力があればオーケストラに入ってごく一部が国際的に活躍する。しかしその道はものすごく細くてごく一部に限られます。その道を外れると諦めざるをえないという環境です。実は、音楽を仕事にする方法はある。例えばピアノが弾けるなら、音楽療法という仕事もある。それはこれからの超高齢化社会で役に立つ技術です。演奏家になれないからと諦めて音楽と縁を切るのではなく、好きな音楽の道で社会貢献できる道がある。加美町にオープンする国立音楽院では音楽療法や子供の情操教育、楽器の制作や修理、調律など、音楽を仕事にしていけることを後押しする。音楽を仕事にする選択肢を示す、それを町としてサポートする、という日本初の試みなんです。

「する野球」だけが野球ではない

色川:僕が野球を通してやりたいことを、音楽で実現されていると聞き、感動しています。これからの野球は「する野球」だけではない。社会を支える野球も存在するはずです。僕はイランやパキスタンで代表監督を務めてきましたが、僕自身が野球を通して挑戦するのは、子供達の身近ないいロールモデルにならなければいけないという思いです。苦しかった経験を子供達にリアルな話として伝えたい。違う国で、違う言葉で野球を教えるのはとても大変で逃げ出したくなることもありますが、子供達にこの道を僕は作ったんだって胸を張って言えるように、そして子供達の勇気や覚悟につながるように、と自分自身が挑戦しています。

先日、子供達とアメフトを観に行ってきました。野球だけではなく、こういうスポーツあるんだ、と知ることが子供たちにとっての新しい扉になる。これから2020年に向けてスポーツが盛り上がるときに、スポーツを通してこういう選択肢があるんだ、という可能性を示したい。私も将来学校作りたいと思っているくらいなので、いろいろ勉強させていただきながら話を聞かせてもらっていました。

挑戦し続けている限り、失敗はない

猪股:色川さんの挑戦する姿勢が本当にすばらしいですよね。大人が子供達に示せるのは、挑戦する姿。大人が見せなければ、子供達も挑戦しない。挑戦する中で失敗することもある。失敗も含めて人生。失敗で終わったら失敗だけど、挑戦し続けている限り、失敗は、本当はないんです。フィギュアスケート選手の鈴木明子さんが「失敗は成功のためのプロセスのひとつだとわかった」と言っていました。我々大人が子供達にそれを示すことがとても大事だし、子供たちが新しいことに挑戦するきっかけをつくることがとても大事。色川さんのように子供達を海外に連れていったり、アメフトを見せたり、違う世界を見せることで、子供達の一歩につながるのでは。素晴らしい活動だと関心しました。

色川:私も日本で野球を続けているとき失敗が怖かったので、子供達の気持ちはわかります。今、今週どれだけ失敗した?というのを子供達に聞く会を開いています。そうすると、やっぱり出てこないんですよ。情報はたくさん知っていても、子供達が頭でっかちになり、知ったつもりになって挑戦しないでいる。僕は子供に、こんなに失敗したと伝えている。失敗は挑戦した人しかできないし、その過程を楽しむ、楽しくていいんだ、ということを海外で教えてもらいました。挑戦することが子供達の価値観としてかっこいい、ということになればいいなと意識しています。

「現状維持」では地域も選手も衰退する

猪股:トライアンドエラーですよね。トライするからエラーでるし、トライアンドエラーを重ねることで成功につながる。日本人は失敗を恐れるし、一回失敗すると修復できないという錯覚に陥る。でも本当は、エラーすればするほど成長し、成功につながる。子供達にそれを示しているのはすばらしいことです。私も町長になる前、二度落選しています。二度目で諦めていたら今の自分はない。国立音楽院のことも、行政と音楽院が一体になって学校つくるのは初めての試みです。現状維持しようと思うとエラーを恐れて、実はその地域は衰退していく。役所は「前例踏襲」をしがちですが、そうすると人口も活力も魅力も減っていく。エラー恐れずチャレンジすることが、街づくりでも非常に大事だと思います。

色川:自分が選手としてアメリカに挑戦したとき、現状維持できないとずっと思っていました。選手は怪我すると何ヶ月前に戻りたいと言いがちですが、僕はむしろ怪我をすることで昔の超えてグラウンドに戻りたいと言っていた。同じ位置に戻る必要は全くないし、新しいものをどんどん作って挑戦し続けていくというのが、同じだと感じて嬉しい。

猪股:私たちはとかくあの時代よかったよね、と思いがちです。でも、鈴木明子選手が興味深いこと言っていました。摂食障害になり、野菜などしか食べられなくなった。5ヶ月で10キロやせ、32キロまで痩せたという。周囲の支援や努力で復帰した。彼女が言うに、ジャンプが苦手だったらしい。でもなかなか一旦ついた癖が直らなかった。ところが筋肉が全部落ちてゼロからやり直さなければいけなくなり、鍛えなおしたら、自分の悪い癖がなくなってジャンプがやりやすくなったと言っていました。彼女もブランク前の2年前の自分に戻りたいと思ったことないそうです。ブランクは成長のための大事な時期だったのだということですね。我々も暮らしていく中でいろんな大変な時期があるけど、前に戻ろうとする必要は全くない。大変な時期が次の成長にとっての大きなステップになると思うんです。まちづくりもそう。今大変な状況だが、あの時代戻りたい、ではなくてこの時期はこれから町がよくなるための財産だったんだよね、と捉えて新しいことにチャレンジする方が素晴らしい地域になると思うんですよね。

自分で、自分の道を選択できるように

色川:自分で挑戦して自分で失敗したことは自分に返ってくる。子供達に「いい失敗」と「悪い失敗」という話をしています。いい失敗というのは、自分でした失敗。例えば学校の授業でふいに先生にあてられて答えを外した時、人にやらされた失敗は人のせいにできるぶん、自分に返ってこないと話しています。野球エリートは高校を選ぶ必要がありません。高校から声をかけられて、親もいいんだ、となって。その子が指導や監督と肌が合わなかったとき、野球をやめて学校もやめてやんちゃ坊主になってしまう、という流れが日本にある。僕は原因は子供自身が選択しなかったからだと思っていて、僕は呼ばれてきた、お父さんが決めた、という風に陥ってしまうのを、高校生の指導を通じて見てきた。だから中学のころから、自分で選択することが楽しいし意味があるという教育をしていきたい。町長さんのまちづくりの話は勉強になると思って話を聞かせていただいていました。

猪股:私たちは日々何かを選択して生きています。自分で選ぶという小さなことを積み重ねないと、大きな決断のときに決断ができない。人づくりという意味で、色川さんの指導のように、子供達に選ばせるのはとても大事だし、我々はこの道しかないよ、ではなく、いろんな選択肢を用意することが大事。子供達が自分で道を選択し、大人が暖かい目で見守っていく。茂木健一郎さんは人間は安全基地がないとチャレンジできないと言っていた。だから我々大人が「できるよ」と精神的な安全基地を作り、選択肢を用意して子供たちに選ばせることで、子供達が私ごとに挑戦できるのかなと思いますね。

色川:挑戦した人にしか失敗はできない。挑戦することはかっこいいことだと思う。僕の世代や下の世代は一生懸命挑戦してほしいし、困ったり苦しかったら僕のブログやラジオに来て、直接コンタクトを取ってくれてもいいので、安全基地に僕がなれたらいいと思っていますので!

猪股:これからも加美町はチャレンジしていきたいと思っています。大人のひとりとしてもチャレンジする姿を見せていきたいし、若者たちのチャレンジを町としても応援していきたい。4月に国立音楽院が開校しますので、音楽を仕事にしたい方々、ぜひ加美町にいらしてください。加美町としても全面的にサポートしていきたいと思っています!