【加茂青砂の設計図】青い海と水平線を望む開墾教室。耕作放棄地を畑にするまで耕すとは?

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

【土井敏秀(もの書き)】開墾教室が開かれたのは、県道59号・男鹿半島線沿いの耕作放棄地である。道路を挟んで向かい側に「男鹿リゾートホテルきららか」があり、その先は日本海。「オーシャンビュー」なので、とりあえず「リゾート農園」と呼ぶ。すでに草刈りを済ませた約600㎡の地に、秋田県内から集まった参加者12人(3人欠席)、講師2人、私を含む地元側3人と県の「あきた元気ムラ」担当者2人の計19人がそろった。20代から80代までの幅広い層の男女が、作業に当たった。

作業は4班に分かれている。①刈り取った草集めと裁断②堆肥場の穴掘り③あら耕起と根の裁断⓸堆肥仕込み―である。講師を務める「境界なき土起こし団」の齊藤洋晃さんと佐々木友哉さんが、お手本を示しながら作業が進んだ。横倒しになった草を、両腕で抱きかかえ一輪車へ。一輪車で一カ所に運ぶ。すっきりした「跡」には、地下茎、根がしっかりと張りついている。細いのから太いものまで引っこ抜き、鎌やシャベルで裁断。一輪車がフル回転し、これも一カ所に集めた。何回か休憩し水分補給、ハードなのに誰もへばった表情を見せない。耕作を放棄してから、10年以上たっている。作業を繰り返す。やっと土の大地が見えてきた。

耕作放棄地をこれだけですが、開墾しました。教室初日の作業を終えても、ワクワク感は残ったままです(撮影・柳館美佳子)

よく目にする出来上がった畑とは違う。種を蒔き、苗を植える場所では、まだない。草を刈ることから始め、つまりは開墾してやっと土と出合う。そこで初めて、講師の斎藤さんが言う「一から始める畑作り」のスタート地点に立てる。鍬を振り下ろす。「肩に力を入れない。鍬の重さで自然に土に刺さる感じで。そこを手前に引けば耕される」。初心者も参加しており、斎藤さんの口調は柔らかい。「横に歩きながら耕すのが基本。一カ所に立ったままだと、周りを丸く耕してしまう」。これもまだ、「あら(粗)」耕起である。

開墾してやっと土と出合うのは、喜びなのかかどうか。面倒くさいと思う人がいても、不思議ではない。手作業で、「最初の最初から、畑ができるまで」の過程の一つ一つを体験することで、「畑はこうやってできるのか」を知る。これが、新鮮な喜びにつながるのかどうか。「重機を使って一気にやった方が効率いい」と、判断する人たちはもちろんいる。

「畑ができるまで」の途中経過。マンパワー、ウーマンパワーを発揮して整地作業

なのに誰も手作業を嫌がらない。初日が終わったばかりだというのに「次回がとても楽しみ」と言い切ってしまう。「昔の人はこうやって頑張っていたのかな」と、考えるきっかけとなった人も。約600㎡の広さしかないとはいえ、午前中2時間だけの作業では片付かない。まだ終えていないので、次回は繰り返しの作業も多い。なぜだろう? 「根っこが多いという畑の特徴を、生かせるような場所にできたらいいな」。おいおい、「根っこが多い」は畑の特徴じゃない。畑作りを邪魔する欠点でしかない。待てよ、そう言い切っていいのか。全然、思いつかないけど「根っこのある畑の特徴ねえ……」という発想。もう一人いました。「開墾地はつる植物、根が多いようで、これからの作業が楽しみです」

参加者の感想を書き留めていると、自然とほおが緩んできた。書いていて楽しい。ムチャ言うなよとは思っても、気持ちは軽やかである。参加者は今、初めて出会った人たちと、初めてだけれど、同じ作業をしている。

1年前、照れ隠しで「開墾できる耕作放棄地あります」と大書したTシャツを着て「耕作放棄地」をアピールしたときには、半ばシャレの気持ちがあった。それが今、恥ずかしい。ここに集まった人たちは「冒険です」と言いながら、真剣に開墾と向き合っている。「ソバの白い花が段々畑に広がれば、きれいだろうな」と、想像している映像は、色彩豊かな「現実」なのだ。参加者の中には、「いぶりがっこ」を作りたくて、盛岡市から本場・横手市山内地区に移り住んだ人もいる。講師の2人は、自然由来以外の農薬を使わない自然農法で、生計を立てている。「白い花の段々畑」は実現するに違いない。

作業が一段落したところで、米ぬか、野生酵母菌を使った堆肥作りの講義を受ける

佐々木友哉さんが全員を集めた。掘った穴の周りに並んだ。刈り取られた草を堆肥にする手順を説明する。「まず草を入れます。ある程度たまったら、そこに米ぬかをまきます」佐々木さんはコメ袋を抱え、中の米ぬかをばらまいている。さらに水で溶いた野生酵母・白神こだま酵母を振りかける。「米ぬかはバクテリアのエサです。酵母は発酵を促進させ、草が堆肥になるのを助けます」そこに再び草を入れ、米ぬか、酵母液、また草……。「サンドイッチを作る要領です。穴を埋めるまで、次々重ねていきます。夏場なら1カ月で堆肥になります。ここは種まき、植え付けが来年の春ですから、十分間に合います」

現物を目にしながらの勉強は、分かりやすい。佐々木さんの「授業」を終え振り向くと、青い海、日本海の水平線が広がっていた。

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