【松村翔子通信員=宮城県仙台市】NPO法人仙台夜まわりグループは毎週木曜日の午前9時半から11時まで、サロン「ゆっくりすごす会」を開いている。このサロンは、路上生活を余儀なくされている「ホームレス」の人たちを対象に、仙台市宮城野区にある「みやぎNPOプラザ」で開かれ、食事や休息、娯楽の機会を提供している。ゆっくり過ごしてもらう支援にはどのような思いが込められているのか。3月8日、サロンのボランティア活動に参加し、支援者の思いに耳を傾けた。
雨降り前の、つかの間の安らぎ
サロンがはじまる30分以上前から、会場に集まる人たち。夜まわりグループのスタッフが来ると、「おはよう」と親しげに挨拶を交わす。サロンの荷物が届くと、スタッフとボランティアが一斉に会場に運び入れ、「おもてなし」の準備をする。ご飯を盛り付ける、ケチャップでハートマークを書く、カイロ、マスクなどの備品を受付に並べる。どれも簡単な作業だ。
食事は、みやぎ生協やフードバンクから寄せられた食材で、料理が得意なボランティアが作っている。今日のメニューは、ごはん、ほうれん草とソーセージのソテー、きんぴらごぼう。おかわりもできる。皆さんゆっくり食事を食べ、コーヒーを読みながら新聞を読み、映画を楽しんでいた。
集まったホームレスの方たちは、15人。いつもの半分だという。「今日は午後から雨が降るからね」。スタッフの言葉に、路上生活者にとって雨に濡れることがどれだけのリスクになるか初めて想像した。
「ゆっくりすごす」支援の意味とは
夜まわりグループは、2000年1月から仙台市を拠点にホームレスの自立支援をしている。「路上で命が失われるのを見過ごせない」と、目の前の命に寄り添ってきた。団体調べによると、2018年時点で市内にいるホームレス状態の人たちは130人程。そのうち、路上ではなくインターネットカフェやファミリーレストランなどで夜を明かし、路上では確認できない人たちが30人程いるという。
実は、ずっと思っていたことがある。「ゆっくりすごすこと」が、なぜ自立支援になるのか。カイロなどの物資支援や炊き出しなどの食事提供も、その日の命をつなぐためには必要なこと。でも、次の日は?1週間後は?「自立」への道のりを想像すると、このサロン活動にもどれだけ意味があるのか疑問だった。
夜まわりグループ代表の青木康弘さんは、「彼ら、彼女らが“この先、自分はこんな人生を送りたい”、“こんな生き方がしたい”と自発的に言ってくれたとき、はじめてその人に必要な支援が分かる」と話す。明日の食べるもの、今晩の寒さをしのぐ場所、毎日そんなことを考えなくてはならない過酷な状況にある人たちが、将来について考えることは難しい。
誰しも、辛い時や忙しい時は、目の前のことしか見えなくなる。一人で抱え込み、周りにいろいろな解決策があるにも関わらず、八方塞がりに感じてしまうことはないだろうか。
お腹を満たし、これからを考える「余白」を
大切なのは、自分を肯定し、自分で自分の将来をちゃんと考えてあげられるようになること。「そのためにはまず、自分を大切にするところから」と青木さん。よく見れば、スタッフが、受付にやってきた一人ひとりに、カイロを手渡しながら「足の具合はどう?」「あのバイト行ってみた?」など声をかける。「今日も寒いね」と雑談しながら、スタッフが丁寧にコーヒーを淹れる。かわいそうな人に手を差し伸べるサロンではなく、当たり前に相手を思い、労る。そうしていくうちに、ふと自分の不調に気が付いたのか、「風邪気味かもしれない」と申し出た人がいた。スタッフは「頭痛は?食欲はあるの?」と気にかけ、一緒に薬を選んだ。
生活困窮者支援法が施行され、ホームレス自立支援法の10年間延長が決まった昨今、公的な支援が充実していくように感じる。しかし青木さんは「制度を活用できるのは、当事者の自発的な思いがあってこそ」と、制度に無理やり当てはめることのできない一人ひとりのケースに目を向ける。
お腹を満たし、リフレッシュした方の気持ちに、先のことや自分のことを考える余白が少しでもできていたらと願う。