食といのちを問う 批評家週間で富田克也監督の『典座-TENZO-』/第72回カンヌ国際映画祭レポート(4)

【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=フランス・カンヌ】去年は是枝裕和監督の『万引き家族』が今村昌平監督の『うなぎ』以来、21年ぶりに日本映画にパルムをもたらしましたが、今年はコンペに作品がなく、監督週間に三池崇史監督の『初恋』と、批評家週間に宮田克也監督『典座 – TENZO』が上映されるということは前に触れました。実はもう1本、カンヌ・クラシック部門で藪下泰治監督のアニメーション『白蛇伝』のデジタルリマスター版が上映されました。最新の技術で見事によみがえった美しいカラーもさることながら、主人公から脇役まで、あらゆる声を二人で演じ分けた森繁久弥と宮城まり子の芸達者ぶりを堪能しました。写真は15日に行われた上映前の挨拶の模様です。

 20日には批評家週間で富田克也監督の『典座-TENZO-』の上映が行われました。この映画が作られることになったきっかけは2011年の東日本大震災。未曾有の被害を前に、日本人は、仏教界は変わらなくてはならないと感じた全国曹洞宗青年会の倉島隆行前会長、河口知賢前副会長が、『サウダーヂ』、『バンコクナイツ』で知られる富田監督に映画制作を依頼したもの。典座とは、禅寺の食事をつかさどる役職のことで、曹洞宗の開祖道元がその役割の大切さについて『典座教訓』という書を著しています。映画には倉島、河口両氏が自ら出演、現在の僧侶が抱える問題や、「いのちの電話」への取り組みなどを取り上げながら、食の大切さを訴える、上映時間59分と富田監督の作品としては短いですが、内容の濃いドキュ・ドラマでした。

 写真は上映前の舞台挨拶で、左から富田克也監督、倉島隆行、河口知賢の両氏、右端で通訳を務めているのは、フランス語字幕の翻訳も担当したレア・ル・ディムナさんです。レアさんはナント在住。思えば、富田監督の『サウダーヂ』が金の気球賞(グランプリ)を獲ったのも、彼女や、「シネマに包まれて」を創られた河北新報の故桂直之さんと出会ったのも、ナント三大陸映画祭でした。レアさんは三大陸映画祭で日本映画の字幕と通訳を担当されていましたが、今では優秀な通訳としてカンヌでも大活躍。昨年の是枝裕和監督の通訳を務めたのも彼女でした。初めで出会った頃は、まだ学生だった彼女が、今では多くの日本人映画監督に信頼され、日本映画のために尽くされている姿を見るのは、昔からの知り合いとして、とても嬉しいです。桂さんもきっと喜んでおられることでしょう。

第72回カンヌ国際映画祭レポート第一回第二回第三回

【齋藤敦子】映画評論家・字幕翻訳家。カンヌ、ベネチア、ベルリンなど国際映画祭を取材し続ける一方、東京、山形の映画祭もフォローしてきた。フランス映画社宣伝部で仕事をした後、1990年にフリーに。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。労働者や経済的に恵まれない人々への温かな視線が特徴の、ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」なども手掛ける。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)、「奇跡の海」(幻冬舎文庫)、「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書もある。

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