【続・仙台ジャズノート#113】「コード」に寄り添う。改めての基本確認

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】野外フェスの季節がやってきました。ここ数年、縁あって、とっておきの音楽祭(6月)や定禅寺ストリートジャズフェスティバル(9月)に出演してきたアマチュアの社会人ビッグバンドを長期休業させてもらっているので、今年は野外フェスなどへの参加は恐らくありません。さすがにやや物足りない感じはしますが、人前で演奏するよりも優先しなければならない課題が山積してしまったのでやむを得ません。ことしはなじみのあるグループを応援する側に回るとともに、課題あれこれに時間を使おうと思います。時のたつのは速いもので、会社組織を卒業し、フリーになってからでも10年になります。自分のために使える時間の量と質にも見当がつくようになってきました。大事にしたいと思います。

自分のレベルから見える課題には大事なものが幾つもありますが、なかでも「コードトーン」(和音を構成する音)を踏まえてアドリブ(即興演奏)できるようになるのが楽しいし、課題解決に近付く早道なのではないかと考えているところです。「コードトーン」はたとえば「Cメジャーセブンス」(「CM7」あるいは「C△7」など)のコードが指定されている場合、アドリブで使える音は一応、コードトーンの「ド・ミ・ソ・シ」であると、理解します。使う音の組み合わせや並びについては演奏者が自在に決めていいことになります。

コードトーン以外の音は一切使えないのかと言えば、そうでもなく、ごく一部、不自然なハーモニーに聴こえるケースを除いて何を使おうと自由です。コードトーンについて文字で説明すると、以上のような形になるわけですが、実際にやってみると、使える音の組み合わせには限りがなく、ルールが決まっているのかどうかさえ、怪しくなるところがあります。ジャズは楽譜通りに演奏すればいいタイプの音楽ではないので、演奏者自身の感性や技術が直接反映します。

アドリブ学習者の初期的な態度としてはまず基本を大事にすべきなのは言うまでもないのですが、筆者の場合、どちらかと言えば、楽しさ重視でやってきたせいで、基本をかなり逸脱した、指まかせテキトー流が先行しました。指まかせテキトー流は、他の演奏者への迷惑を考えなければ非常に楽しい。楽器から音が出るだけで楽しい時期があるものだし、何かの拍子に「これっていいんじゃないか?」と思うような偶然もあったりします。指まかせのテキトー流は似たフレーズが頻発しがちで、すぐに行き詰まるという、致命的な問題もあります。

初心者でも参加できるセッション会を選んで参加してみて実感することなのですが、ジャズ志願中の人々の表情はさまざまです。しっかりしたコード理解の上に立っている人のアドリブは整然としていて、雑味が少ない感じがします。あらかじめ自分でアドリブを楽譜にしてきたと思われる、迷いの少ない演奏には感心させられます。自分も、簡単なアドリブならあらかじめ譜面にするのは可能ですが、セッションの場では楽譜の通りにはいかないことの方が多いので、事前準備に力が入りません。

どうするかといえば、アドリブに関する基本的な知識や理解を身に着けたうえで、セッションの場の雰囲気次第で即興するスタイルになります。どんな楽譜に出合っても、自分なりの音を並べられるような感覚を身に着け、技術的な準備を急ぐ方が性に合っているようです。

もちろん指まかせテキトー流の弊害は必ずあるし、自分なりのアドリブといっても、レベルが問われる話でもあるので簡単ではありません。自称アドリブの音の連なりを少しでも聴くに耐えられるものにしたり、力の配分に注意したりするにはどうすればいいか。その意味でコードトーンの習得は必須の条件です。

Unsplash/Pedro Netto

60代半ばでサックス教室に通い始めました。コロナ禍もあって、活動のペースが落ちました。今でも、あまり多くのことを望んでも仕方がないのですが、どの課題も集中して取り組めばそれなりに成果は上がるもので、経験が蓄積されるに伴い見えてくる風景が少しずつ変わるのは、なかなかうれしいものです。コードトーンの習得で言えば、たとえばメジャー(長調)と3種のマイナー(短調)を一気に視野に入れると、煩雑過ぎて嫌になりますが、基本中の基本であるメジャーコードを頭に入れてしまえば、マイナーはメジャーの変形として理解することはできます。

頭に入れるだけではもちろん使い物になりません。時間をかければ理屈は分かるというレベルでは使い物にならないのです。譜面を見たり、頭の中の情報に基づいて瞬時に演奏したりできなければなりまえせん。ピアニストがコードやスケールをサラサラと弾いてしまうのを見て、一体どうやったら、あんなレベルになるのだろうか、と何度ため息をついたことでしょう。

そんな環境を手に入れるにはコードトーンを覚えるのが必須。漫然と覚えようとしても無理なので、サックス教室の先生を真似て、メジャーコードのタイプ別にグループ分けする作業を急いでいます。きっかけを意識的に作ることによってコードトーンが1個でも2個でも自然に出てくるようになれば御の字です。

課題によっても事情は異なるのですが、何度も覚え、思い出し、何度も吹く練習を繰り返すことで、頭は頭で、指は指で、記憶の痕跡のようなものが残ることもあるようです。そんな実感を、どうやって獲得できるかが重要なので、とにかく頭も技術も、入力と出力を繰り返す以外にないようです。初期的な段階ではそこのところが分からない、視界が狭いために目前の課題がやたら大きく見え、その先の広がりが見えないためです。

*この連載が本になりました

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