第69回ベルリン国際映画祭レポート(5完)/荒廃する国土、映画館の修復描くドキュメント。ガスメルバリ監督の「トーキング・アバウト・ツリーズ」

【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=ドイツ・ベルリン】  今年の収穫は、コンペのドイツ人女性監督2作の他に、パノラマ部門で観客賞を受賞した『トーキング・アバウト・ツリーズ(木々について語ること)』と、フォーラム部門でカリガリ賞を受賞した『祖国(ハイマート)は時の空間』という2本のドキュメンタリーでした。

『トーキング・アバウト・ツリーズ』上映後、観客の質問に答えるガスメルバリ監督(右端)とスーダン・フィルム・クラブのメンバーたち。

『トーキング・アバウト・ツリーズ』は、映画の火を絶やさないようにスーダンで活動を続ける映画人グループ“スーダン・フィルム・クラブ”のメンバーたちが古い映画館を修復する模様を撮ったもの。スーダン出身で、フランスで映画を学び、フリーのカメラマン、ジャーナリストとして活躍してきたスハイブ・ガスメルバリ監督初の長編ドキュメンタリーです。スーダンは1989年にクーデタで成立したバシール政権の独裁が30年にわたって続いており(有権者の数より投票の数が多いという独裁ぶりです)、アフリカ内部の紛争もあいまって、すっかり国土が疲弊、スーダン映画自体も消滅してしまいました。フィルム・クラブのメンバーは皆、30年前には世界の映画祭で作品を発表してきた映画監督たち。今ではすっかりおじいさんになった彼らが、互いに老体をいたわりあい、おしゃべりを楽しみながら、映画館を修復する様は、映画への愛と滋味にあふれていました。

●激動のオーストリア近代史浮き彫りに

『祖国は時の空間』は、トマス・ハイセ監督が3代にわたる自分の家族の歴史を手紙や日記の引用で構成した3時間半のドキュメンタリー。ごく普通の家族の会話の中に、オーストリアの激動の近代史が浮かびあがり、世界の歴史と家族の歴史が重なりあって見えてくる、とても知的な作品でした。

シネ・スターのスクリーン前で開場を待つ人々。

●テーマ性にこだわった映画祭運営

さて、19年間ディレクターを務め、ベルリンを“世界で最もチケット販売数の多い”映画祭に育てあげた功労者、ディーター・コスリック氏が今年で勇退し、来年からはロカルノ映画祭のカルロ・シャトリアン氏が新ディレクターに就任することになっています。コスリック氏がディレクターに就任した頃は、コンペにハリウッド映画が顔を出し、明らかにスターで観客を呼ぼうとしていた節もあったのですが、最近はテーマ性の強い作品を意識して選び、冷戦時代に東西対立の犠牲となったベルリンらしい、政治的な映画祭へと舵を切っていたように思います。来年の70周年から、新ディレクターの手でベルリナーレがどんな映画祭になっていくのか、興味を持って見守りたいと思います。

ポツダム広場のソニー・センターにある副会場のシネ・スター
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