電波科学の権威である東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授が開発した地雷検知システム「ALIS」と、地滑りなどをモニタリングする「GB-SAR」の2つのレーダー技術を事業化し、製品として販売。ALISは紛争を経験した世界各国の地雷除去のために導入が進むほか、GB-SARも防災や建設現場での事故防止など幅広い用途に活用され始めている。
約20年研究した2つのレーダー技術を製品化
レーダーを用いた地中や地表の計測技術の研究を続け、あらゆる社会課題に研究を生かそうと取り組んできた佐藤教授。地滑りなどの予兆を検知するレーダーシステム「GB-SAR」は1997年から、地雷を検知するシステム「ALIS」は2002年から研究開発に取り組んできた。
「ALIS」はこれまでアフガニスタン、クロアチア、カンボジアの現場でも開発に向けた研究が行われ、2018年に民間企業とともに開発したハードウェアが完成した。「GB-SAR」も建設会社との共同研究が進み、「どちらもここ2、3年で急激に実用化段階に達してきた」と佐藤教授。「研究のスタンスでやるのではなく、ある程度の数を社会に出していかないと意味がないものになってきた。現場で本当に役に立つものを作るには、製品化が必要。そのしくみとして『ALISys』を2019年に立ち上げました」
地雷除去にかかる膨大な作業時間を「地中の可視化」で短縮
現在は地雷の除去作業はほとんどが「金属探知器」で行われており、金属を検知して音が鳴ると作業員がその地面を掘り起こす、という手順で進む。しかし金属探知器は金属を全て検知するため、掘り出される地雷以外の金属と地雷との比率は紛争地帯でも「1000対1」ほどなのだという。そのため、地雷以外のものを掘り起こすのに膨大な作業時間がかかることが大きな課題となっていた。
ALISは地雷の検知に「レーダー」を使うことで、地中に埋まった物の形を「画像化」して判別することができる、世界で唯一の地雷検知器だ。搭載する金属探知器で金属を検知して音が鳴ったとき、ALISを地面にかざしてボタンを押すと、小型端末に地中の画像が送られてくる。作業者は掘り起こす前に地雷かどうかの判別ができるようになるため、作業時間を短縮することができる。現在カンボジアのNPOとチームを結成し、現地でのフィードバックを反映しながら、ALISを使った地雷除去作業が実際に始まっている。
被災地の地滑りの検知や、土木工事の事故防止に強い引き合い
同社のもう一つの技術「GB-SAR」は、地表の状態をレーダー装置で遠隔からモニタリングできるというもの。0.5mm単位のわずかな表面の変化を検知し、地滑りや土砂崩れの予兆を知ることができる。熊本地震で土砂崩れが起きた南阿蘇村の斜面や、岩手・宮城内陸地震の被災地・栗原市などで用いられ、国や地方自治体に早期警報情報を提供する役割も担う。
民間からの引き合いも強い。国内の大手建設会社と実証実験を進めているのが、トンネルの掘削などの土木工事で、崩落の危険性などをいち早く検知して未然に事故を防ぐための装置の活用だ。ダムや高層ビルといった建造物の老朽化のモニタリングにも用いることができ、土木・建設業界を中心に大きな需要を感じているという。砂や雪が多いなど環境的に長期間の稼働が難しい地域にも設置できるような、独自のレーダー装置の開発も進めている。
「自治体の災害対策やテロ被害国の地雷除去に」
地雷の全廃に向けた国連の会議でALISを各国に紹介する機会を得るなど、同社のレーダー技術は世界に認知されつつある。佐藤教授は国内外での地雷の除去や災害の予防にこの技術が広く用いられることを願っている。
「GB-SARは将来的にもっと自治体レベルで災害対策として使ってもらえたらと思っていますし、ALISは南スーダンやソマリアなど、アフリカの国でも地雷問題がある、国連が活動を展開している場所でも利用されるようになればと思います。地雷被災者はずっと減少傾向にあったのですが、ISなどの影響で街中や民家に地雷に似た爆発物が置かれ、実は被災者がここ5年くらいでまた増えてきている。そういった場所での地雷検知にも活用が進めば、と思います」
【東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。
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