【東北大発】「ボール状のセンサ」で、人の病気から宇宙資源までセンシング ボールウェーブ

東北大学・山中一司名誉教授の物理学上の発見を応用した独自のセンサ「ボールSAWセンサ」を開発。センサを用いて、ガス中に含まれるわずかな水分を感知できる高感度で小型の微量水分計「Falcon Trace」を開発・販売している。さまざまなガスやガス中に含まれる有機物を検知できる小型の「ガスクロマトグラフ」の開発も進めており、宇宙探査から家庭での病気の早期発見に至るまで、あらゆる用途での活用が研究されている。

独自開発の「ボールSAWセンサ」を搭載し、製品化

東北大・山中一司名誉教授の物理学上の発見を球状のセンサとして実用化することを目指し、大手企業が立ち上げた共同研究に社員として参加していた赤尾慎吾代表。高感度の微量水分計を開発したが、販売寸前で企業が研究の中止を決めた。赤尾代表は研究を続けるため会社を辞めて東北大へ所属。文部科学省・科学技術振興機構の大学発新産業創出拠点プロジェクトの支援を得て2015年、山中教授らとともにこのセンサを用いた製品を開発する「ボールウェーブ」を立ち上げた。

まず開発した製品は直径3mmの水晶の球をセンサ(ボールSAWセンサ)にした、高感度かつ小型の微量水分計「Falcon Trace」と、さらに小型化した「Falcon trace mini」。ガス中のごくわずかな水分も検知することができ、製造過程で微量な水分が命取りになる半導体やリチウムバッテリー、LEDや有機ELなどの製造現場で導入が進んでいる。赤尾代表は「市場ニーズが非常に明確で大きい」と、主に製造業からの引き合いの強さを語る。

医療や環境測定、食品分野まで、あらゆるガスの検知に応用が進む

同社の「ボールSAWセンサ」の新たな可能性を切り拓く製品として期待されているのが、ガス中のさまざまな有機物を検知できる「ガスクロマトグラフ」だ。2019年にJAXAの宇宙探査のための研究の一つに採択され、月や火星で大気中のガスや土壌の有機物を検知し分析するための小型センサとしても開発研究が進められている。

ガスクロマトグラフは天然ガスのほか、生体ガスやシックハウスガス、食品の劣化成分などあらゆるガスを検知し分析することができる。そこで同社は、人の呼気からガンなどの病気を早期に検知できる家庭用医療機器や、ドローンに搭載してガスから火山の噴火の予兆を検知する機器など、医療、工業、地球環境など多分野にわたる活用を研究中だ。最近では醤油の香り成分から酵母の種類や熟成の度合いを分析し、おいしさを数値化する研究も進めているという。

赤尾代表は「大気汚染をモニタリングしてマップ化する『地球の健康診断』や、毒ガスの事前回避などにも活用していきたい。科学者として、ボールSAWセンサが世の中のどこで究極に役立つのか?を常に考えている。さまざまな業種の企業と一緒に商品やサービスへの応用を考えていきたい」と意気込む。

「ボールSAWで産業を作り、全地球的な課題を解決していく」

「ボールSAWが世の中のどこにピースとしてはまるか、それを科学者としてどこまでできるのか。ボールSAWで産業を作り、全地球的な課題を解決していくのがミッションだと考えている」と語る赤尾代表。「東北地方、特に東北大学は黙々とこつこつとやり続ける縁の下の力持ちの研究者が多い。山中教授が何を見ているのか?そのビジョンに共鳴して一緒にやりたいと思うような人がこちらに来てくれたら、きっと東北は盛り上がるはずです」

山中教授は「JAXAのプロジェクトを担当してくれる人を募集しているので、宇宙で使う計測器を作るという夢のあるプロジェクトに、ぜひ意欲のある人に応募してほしい」と呼びかけた上で、「物理学上の発見から生まれたボールSAWは、それ自身が発見のツールでもある。企業の研究者や技術者がボールSAWセンサを使うとさまざまな『発見』ができるので、そういった発見のツールとしても広めていきたい」と、この技術から広がる未来に期待を込めた。

東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。

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