【東京フィルメックス2021】香港民主化を圧倒的な視点で描く『時代革命』映画祭が政治色強い作品の受け皿に

カンヌ国際映画祭をはじめ世界の主要映画祭の現場を取材し、TOHOKU360にも各国の映画祭のリポートを寄せてくれている映画評論家・字幕翻訳家の齋藤敦子さんの連載。コロナ禍で先の見えない中準備した、今年の東京フィルメックスの舞台裏とは?

11月7日夕、授賞式が行われ、以下のような受賞結果が発表になりました。今年は市山尚三さんがプログラミング・ディレクターに就任した東京国際映画祭コンペティション部門を中心に追いかけたので、フィルメックスでは数えるほどしか作品を見られませんでした。以前にもレポートの中で触れましたが、会期がぴったり同じだと、見たい作品の上映が重なる機会が多く、どちらかを選ばなければなりません。これはプレスの問題ですが、TIFFが日比谷・有楽町に出てきた結果、互いに観客を食い合う部分が少なからずあったように思います。

今回、私が最も衝撃を受けた作品は、特別招待作品枠で上映されたナダヴ・ラピドの『アヘドの膝』でした。ラピドは前作『シノニムズ』がベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞したイスラエル出身の新鋭監督で、『アヘドの膝』も7月のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しています。『シノニムズ』はパリにやってきた青年がイスラエル人のアイデンティティに翻弄される姿がユーモラスに描かれていましたが、今回は、自作を砂漠の中の小さな町の文化会館で上映することになった映画監督が表現の自由を求めてあがく姿を通して、イスラエルの文化政策および政治を痛烈に皮肉っていました。

授賞式で賞の説明をする諏訪敦弘監督

さすがフィルメックスと思ったのは、最終日に上映されたキウィ・チョウ監督の『時代革命』でした。つい先月、山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞した『理大囲城』同様、2019年の香港民主化デモをドキュメントした作品で、『理大』がすべて匿名で制作されていたのに対し、『時代革命』はチョウ監督だけが名前を出しています。妨害を怖れて直前まで上映が伏せられていましたが、チケットは完売となり、カンヌ以来、世界2度目の上映となる問題作を満員の客席で見守りました。

『理大囲城』も衝撃的なドキュメンタリーでしたが、『時代革命』はデモに参加した人たちを個々に追う形でデモの経過を克明に描き出していくので、理工科大学でのデモ隊の籠城がどういう経過で起こったのかがよく分かるし、2年前の香港で何が起こっていたかを当事者の立場から立体的に知ることができました。香港人達が命を賭けてまで自由を求めるエネルギーと、それを外の世界に知らせようとする映画人の使命感に圧倒されました。ちなみに、チョウ監督は5人の若手監督が10年後の香港の姿を描いた『十年』の1篇<投身自殺者>を監督、その後、他の4篇の監督達と共に、中国政府から徹底的にパージされた方です。

『時代革命』のような政治的な意味合いの強い作品、公式な映画祭では上映しにくい作品の受け皿としてのフィルメックスの役割を痛感。今後、フィルメックスがTIFFとの共存を図るうえで考慮すべき重要な点ではないかと思いました。

受賞結果

コンペティション部門

今年は、審査員賞はなく、以下の2作品に作品賞が贈られました。(審査員:諏訪敦弘、ウルリケ・クラウトハイム、オリヴィエ・デルプ、小田香)

最優秀作品賞

『見上げた空に何が見える?』監督アレクサンドル・コバリーゼ(ジョージア)
『時の解剖学』監督ジャッカワーン・ニンタムロン(タイ)

オンラインで受賞の喜びを語る作品賞のニンタムロン監督

学生審査員賞

『見上げた空に何が見える?』

観客賞

『偶然と想像』監督 濱口竜介(日本)

タレンツ・トーキョー・アワード2021

『Your hair is come from blue-green fruits』木村あさぎ(日本)

タレンツ・トーキョー・アワード2021の木村あさぎさん

スペシャル・メンション

『A useful ghost』ラッチャプーン・ブンブンチャチョーク(タイ)
『Ria』アルヴィン・ベラルミノ(フィリピン)

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