【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)=山形県三川町】鳥海山や月山、米どころとしても知られる山形県の庄内地方に、女性のためのウェブメディア「FLOAT SHONAI(フロート ショウナイ)」を運営しているウェブ編集者を訪ねました。山科沙織さん(31)=山形県三川町=。「FLOAT SHONAI」は2017年2月にスタートしたばかりですが、「子どもと一緒」「女子会向け」「ヘアアレンジ」「メイク」「ヨガポーズ」などの情報メニューからも分かるように、庄内の女性たちを応援する思いが強く伝わってきます。サイトの名称の「フロート」は、メロンソーダやコーヒーの上に乗るアイスクリームのふわふわ・ワクワク感を、庄内地方のさまざまな魅力になぞらえたものだそうです。
「女性に優しい庄内」をアピールしたい
山科さんは酒田市と鶴岡市にはさまれた三川町の生まれ。仙台の大学を卒業し、横浜で就職した後、郷里に戻り、東京や地元のメディアに記事を書くライターとして仕事を続けてきました。2017年2月に「FLOAT SHONAI」を立ち上げ、ウェブサイトの開発から取材、編集まで幅広く活躍しています。「FLOAT SHONAI」を始めた理由をたずねると、「女性に優しい庄内」をアピールしたいから、との答えが返ってきました。
「子連れでランチしたくて、『庄内』『ランチ』でネット検索すると、美味しそうな『ラーメン』がいろいろ出てきます。子育て中の女性なら、これに加えて授乳室のあるお店やキッズメニューがあるかどうかなどの情報が欲しい。常に子どものことを考えているお母さんたちにとっては重要な関心事です。女子会プランがあるお店やカクテルが豊富にそろえているお店を知りたくても、残念ながら情報が少なかったのも事実です」
国の平成24年就業構造基本調査によると、山形県の共稼ぎ率は57.4%と、福井県に次いで高くなっています。「賃金が低いので夫婦とも働かなければならないという事情もありますが、女性も稼いでいるので、自分で使えるお金を持っていると思います。だからこそ、庄内にある素敵なスポットを紹介できればと考えました。例えば、女子会でランチに行く場合なら、ゆっくり話せるレストランを知りたいと思います。そういうことを「FLOAT SHONAI」を通じて提案できればと思っています。根底にあるのは、庄内の暮らしを楽しくしたい、ということです。私自身も、もっといろんな楽しみを知りたいし、独身の人も、結婚している人も、子どもがいる人も気軽に遊びに行ける環境がそろえば、庄内はさらに良くなるはずです」
「庄内に住んでいる人が、庄内の魅力を発信しないでどうする」
山科さんの話をうっかり聞き流すと、若者や女性たちにとって、庄内地方は魅力がないと受け止めてしまいがちですが、実際はその逆で、庄内に魅力がない、のではなく、庄内の本当の魅力を知り、伝える仕組みや人材に乏しいだけだと指摘しています。庄内地方が「女性に優しい」ことを示す事例は実は数多くある。庄内に生まれ育ち、現に住んでいる人や庄内を遠くから見守っている人たちも、そのことは分かっているはずなのに、メディアを通じてなかなか見えてこない。目に見えなければ、必要としている人たちにも、その情報は伝わらないというわけです。
「庄内地方の食べ物はおいしいし、自然も美しい。でも、住んでいると案外、その魅力に気づかないかもしれません。外部から移ってきた人たち、移住者が増えていて、そういう人たちに聞くと、庄内はいい土地だ、と言います。元から住んでいる人よりも、よそから移り住んできた人たちの方が庄内の魅力に気が付いているかもしれません。そのせいか、庄内に既にあるウェブメディアを外から引っ越してきた人が頑張って作っていたりします。私自身は、庄内にずっと住んでいる人が、庄内の魅力を発信しないでどうするんだよ、という思いがありました。ずっと住んでいるからこそ、いろいろな人を知っているし、いい点も、もちろん悪いところも知っています。そういう地元の人間でなければ知りえない『本当のリアル』を追求したい」
女性が活躍する時代に必要なメディアに
「FLOAT SHONAI」の地域メディアとしての歩みは始まったばかりです。
「概ね20代から30代がターゲットです。美容やファッションへの関心が高いので、コンテンツを増やしています。美容師さんとのコラボで、ヘアアレンジ企画を手掛けました。美容院の名前だけを載せても、女性は行きたがりません。美容師さんの人柄や、注文にどうこたえてくれるかを気にします。美容室って、そこではきれいになるけれど、家に帰ると、自分だけではうまくできないことが多いです。アフターフォローも含めて、家でもできるヘアスタイルを美容師さんと話しながら教えてもらいました。そのお店はここですよという感じで記事を仕上げます」
「FLOAT SHONAI」を維持・運営するためのポイントについて山科さんは「全国のローカルメディアで、サイトの収益だけで成り立っているところは少ないと思います。店舗からお金をもらう方式だけを考えると、お金のあるお店はたくさん払えるけれど、そうでないお店はお金を出せない。結果として、情報の偏りが生じてもまずい」と強調しながら、独自のスポンサー制度の導入を模索しています。
「FLOAT SHONAIの運営スタイルのひとつとして、スポンサー制も取り入れています。女性を応援する企業のバナーを1年間掲載することで一定のお金をもらいます。企業のPR記事を引き受ければ、また相応のお金をもらう方式です。個人でもスポンサーになりたいという人がいて、実際に問い合わせがあります。庄内で作られている女性向け商品を、スポンサーになってくれる人たちにお返しにあげられればいいかな」
女性の視点に立った地域メディアの可能性について山科さんは「最近、赤ちゃん連れの人と話をしたら、わたしが書いた記事を見て、授乳室があるカフェに行ったそうです。子育て中は外に出ること自体、難しいと思っていたけれども、授乳室のあるカフェやレストランがあると知って、外に出る気になったと言っていました。女性は、そういうメディアを求めてきたし、これから女性が活躍する時代では、『FLOAT SHONAI』のようなメディアがより重要なきっかけを提供できるはずです」と締めくくりました。
「FLOAT SHONAI」のURLはhttp://float-shonai.com/です。