【続・仙台ジャズノート#111】スタジオ経営と音楽教室を両立。ミュージシャン石ケ森宗悦さんに聞く(上)

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】仙台市から国道4号を車で1時間ほど北上すると右手に音楽スタジオ「ピックアップ」(大崎市古川福浦)が見えてきます。ギタリストで、ベース、キーボード、ドラムなどをマルチで演奏する地元生まれのミュージシャン石ケ森宗悦さん(72)の経営。

石ケ森さんは高校卒業と同時に上京し、プロのスタジオミュージシャンとして20年にわたり活動しました。その後、35年前に故郷に帰り、音楽好きの青年たちや中高年世代を指導し続けています。音楽環境に恵まれているとは言えないふるさとを強く意識しながら、音楽好きなさまざまな世代をさまざまな形でサポート。自らの音楽人生のラストランにもパワーを入れ始めたようです。石ケ森さんのローカルに根差した活動を通じて見えてくるのはプロの演奏者としての長い経験を地域のために生かそうとする思いです。

スタジオ名の「ピックアップ」はエレキギターの弦の振動を電気信号に変換するパーツ「ピックアップ」からとっています。一人でも多くの音楽好きがここに集まる場となるようにとの願いをこめているそうです。

高校を卒業した石ケ森さんは東京の大学に進学、やがて音楽の世界に魅了され、プロのギタリストとして活動するようになりました。「大学では実家の事情もあり経済学部経営学科で学んでいました。当時は学生運動が盛んな時代でした。大学紛争で機動隊と学生が衝突し授業が出来ないこともよくありました。大都会は見るものすべてが新鮮でした。そんなある日、新宿のジャズ喫茶『ピットイン』にたまたま入り、自由で創造的なジャズの生演奏に初めて出合いました。高校生のころにエレキバンドをやった程度で譜面も読めませんでしたが、音楽の道を歩んでみたいと心から思いました」

音楽スタジオ「ピックアップ」で演奏する石ケ森宗悦さん(写真はスタジオ「ピックアップ」の提供です)

顔なじみになった「ピットイン」の2階の倉庫を借りて練習していると、どこかからジャズの曲をアドリブからコードワークまで見事に演奏するのが聴こえてきました。「あまりに上手なので名前を聞くと、その人は渡辺香津美ですと名乗りました。年齢は2歳下の17才。当時、わたしは渡辺香津美のことを知りませんでしたが、少ししてレコード店に行くと渡辺香津美のファーストアルバム『インフィニットinfinite』が発売されていました」

自分が19才でジャズのイロハからやろうとしているときに17才の天才との出会いは衝撃でした。「嫌というほどにぶちのめされジャズの世界に行くことは諦めました。考えた末に選んだのはギターを職業とするスタジオミュージシャンでした」

スタジオミュージシャンは、さまざまなジャンルのさまざまなニーズに即時にこたえられる腕っこきでないとやっていけません。音楽業界に多様なコネを持たないと仕事をこなす機会さえ見つけられません。エレキギターなど見たこともない青春期を地方で過ごし、やっとのことで東京に出た石ケ森さんにとって、スタジオミュージシャンとしての15年は生きるために必要な厳しい日々の連続でした。その苦しい日々の積み重ねがやがてふるさとの音楽環境を支えることになろうとは、石ケ森さん自身も知りませんでした。

さまざまな楽器や音響装置が並ぶスタジオ「ピックアップ」(写真提供:スタジオ「ピックアップ」)

 「他のギタリストの代役(トラ=エキストラの略)を頼まれ、スタジオミュージシャンとしての仕事をしたのは、ちあきなおみのツアーが初めての仕事でした。ちょうど『喝采』がヒットしていました。ダン池田とニューブリード、有馬徹とノーチェクバーナなどのフルバンドに属した事もありましたが、ギャラや自由度の違いからい単独のフリーになりました」

当時は景気がよく、フリーのミュージシャンとしても仕事に恵まれました。特にツアーの仕事が多く、アイドル系ではフォーリーブス、三原順子、石野真子、小泉今日子、柏原芳恵、早見優、高田みづえ、 近藤真彦、田原俊彦、シブガキ隊等。歌謡曲系では、ちあきなおみ、研ナオコ、菅原洋一、勝新太郎等など昭和の香り漂う歌い手が目白押しだったそうです。(つづく)

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