【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!)
【佐藤和文】ジャズ・アドリブの初歩をなんとか演奏できるようになりたい-と本気で考えたのはほぼ5年前です。縁あってたまたま手にしたのがアルトサックス。当然のことながらアドリブのこつを身に着けるには、手に余るほどの課題を乗り越えなければなりません。演奏技術の習得は奥が深く課題山積です。正直なところ、どこまで行ってもぬかるみが続く感じもあります。一方で、ジャズリスナーとして気に入っている曲にあらためて巡り合う楽しみは格別です。周知の人の感性や近況をより詳しく知るのに似ています。たとえその道がぬかるみでも、ジャズ志願が楽しい秘密はこのあたりにあるような気がします。
「SUGAR(シュガー)」という曲があります。スタンリー・タレンタイン(Stanley Turrentine、サックス)が1970年に発表したアルバム「SUGAR」のタイトルチューンです。筆者のように60年代から70年代にかけてジャズの魅力にとらわれた世代にはよく知られているはずです。いわゆる「ソウル・ジャズ」の代表的な曲でもあり、ジャズの世界とソウルの懸け橋にも見えます。
リズム隊の小気味のいいイントロを手始めに、熱量の高いテーマが冒頭から流れます。あっという間にメロディが身体にしみとおる感じです。個人的な関心事でもあるドラムソロから入るスタイルが多いのも好感が持てます。リスナーとしては懐かしい「ソウル・ジャズの香り」をいっぱいに吸い込めばいいわけですが、この曲を題材にアドリブソロのこつを手探りするというシチュエーションは初めての体験。3年ほど前に「SUGAR」に出合ったときのことを思い出しながらメモを整理してみようと思います。「SUGAR」体験がなぜ重要だったのか?
手元にある楽譜によると、「SUGAR」のアドリブパートは4×4の16小節。ソロイストが何回繰り返してもいい構造になっています。この懐かしい曲にアルトサックス初心者として出合ったときは、「ペンタトニック」と呼ばれるスケール(音階)だけでもアドリブ可能-というのがうたい文句でした。その考え方で練習したはずです。
アルトサックスでは、Aマイナーペンタトニックスケールを基本に、Aのブルーススケールを適宜、使ってソロをとるという考え方だったと思います。とても懐かしい曲をなるべくハードルを上げずに楽しめるのはうれしいことでした。ここではペンタトニックを呼ばれる5音階スケールについて知ることができます。マイナーペンタトニックの第5音を半音下げて追加すると「ブルーススケール」になる、という非常に重要な場面も実感できます。AマイナースケールとCメジャースケールが「平行調」という関係にあり、構成音が同じであることも、「SUGAR」体験で知ったのでした。
ジャズアドリブの素晴らしいところは、同じ曲をアドリブする場合でも、考え方が幾つもあって、それらすべて(?)が許される点にあります。「SUGAR」の場合も「マイナーのツー・ファイブ・ワン」と呼ばれるコード(和音)進行が3か所出てきます。特にジャズ・スタンダードでは「ツー・ファイブ・ワン」が頻発するので、メジャー、マイナーの別を問わず、「ツー・ファイブ・ワン」が出てきたときのアドリブ処理の方法を、この曲で徹底して練習するのはいい考えかもしれません。ジャズ・アドリブ志願者にとっては絶好の機会になるでしょう。
「SUGAR」のテーマ部ではスイング系の16分音符を繰り返し吹く練習が可能です。似たリズムパターンで何度も、16分音符を繰り返すうちに、繰り返し練習と指の動きの深い関係が次第にしみ込んでくるような気がするから不思議です。曲が比較的単純なのに、懐かしく味わっているうちに、ポイント満載の勘所に触れることができるわけです。
【写真】ソウル・ジャズ「SUGAR」にはジャズならではの特徴が満載
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