【続・仙台ジャズノート#10】ジャズコミュニティ行きの切符

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】新型コロナウイルスの感染拡大を機に、演奏者のネット利用が目立つようになっています。ジャズとネットの関係について動画共有サービスYouTubeを手掛かりにもう一点、強調するなら、それは演奏者自身がプロデュースするオンラインコミュニティへの期待です。拙著「仙台ジャズノート」の取材でも感じたことですが、ジャズ演奏家の話は面白いので、演奏コンテンツをうまく組み合わせる形で設計すると、聴き手やファンにとっては楽しく有意義なオンラインコミュニティになるはずです。

コロナの感染拡大に伴い、多くの演奏家が演奏機会をどんどん失った事情を考えると、ネットを活用したジャズコミュニティは、まず演奏家の収入の道につながるような仕掛けを備える必要があるでしょう。レコードやCD、既存メディアなど、従来型の枠組みしか使えなかった時代とは明らかに状況が異なります。コロナ以来、試行錯誤が始まっている演奏家のネット利用は簡単に道が開けるとはだれも思っていないでしょうが、従来型の枠組みに重ねる形で、新たなジャズコミュニティの可能性を模索しないと、何も始まりません。

ミュージシャンが演奏とネット配信の二役をこなした「まるっとジャズ」シリーズのVol.3=2021年5月29日、山野楽器仙台店=。コロナにやられるだけではないミュージシャンの動きも目立った。

拙著「仙台ジャズノート」で、「ニューオリンズでも東京でもない、身近なジャズの現場」といったニュアンスのテーマを思いついた途端に新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。対面でのごく普通のインタビューを申し込むのさえためらわれ、取材予定は大幅に修正を余儀なくされました。そのため、ある時期、「仙台ジャズノート」の取材はミュージシャンのネット利用を丹念にフォローする作業が中心になりました。ミュージシャン自身が企画する配信ライブやオンラインの音楽イベントはもちろん、ミュージシャンの個性あふれるYouTubeチャンネルを見る機会が一気に増えました。ネット取材に重点を移したことで、地元仙台圏だけでなく、ジャズミュージシャンのネット活用事例を全国に求めるきっかけにもなった点が重要です。

その結果、ネット上に広がる「ジャズコミュニティ」の様子を少しずつフォローできるようになりました。ジャズ演奏家の人柄や音楽に対する考え方、共演関係など、ジャズコミュニティをフォローしていると、運が良ければいろいろなエピソードに接することができます。たとえば、今は東京で活動しているベーシスト津川久里子さんと夫のギタリスト阿部大輔さんのYouTubeチャンネル「セッションの心得」。二人は米・バークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークで20年以上プロとして活動しました。YouTubeチャンネルでは、その経験談やデモ演奏を披露しています。ニューヨークで活動するうちに二人が身に着けた経験そのものが、ジャズ音楽に関心のあるリスナーにとっては興味深いものですが、大輔さんと結婚する前の久里子さんが「仙台出身のジャズピアニスト片倉真由子さんと部屋をシェアする間柄だった」-と話すのを聴いて、俄然、親しみを覚えたものです。

この種のエピソードは演奏家自身が話題にしない限り、知りえるものではありません。音楽的には決して重要とは言えないエピソードだけれども、ファンにとっては親近感を増すもので、ジャズ音楽の楽しみに彩を添えてくれます。

演奏者も聴き手も、本音を言えば、「1日も早くコロナが収束して、直接対面で演奏したい」ということになりますが、従来型の枠組みに加え、「地元のジャズ空間」「地元のジャズコミュニティ」が、より親身な環境になって初めて、ジャズ音楽の新しい楽しみ方が生まれ、ビジネスチャンスや非営利分野の仕掛けにもつながるのではないでしょうか。

©️cafeBeulmans  ネット上でもジャズコミュを運営する阿部大輔さんと津川久里子さん(右)。写真は阿部さんを通じて提供してもらいました。

YouTubeでは、デジタル化され、共有化されたジャズ関連の音楽や動画を、権利関係をクリアしたものとしていつでも検索できます。YouTubeの初期には、権利関係をクリアできていない音楽や動画も目立ったものです。100年超の歴史を刻む新聞社の仕事に携わる感覚からすれば、利用するのがためらわれることも多かったものですが、事例が数多く積み重なるに伴い、著作権や個人情報に関する利用上のルールが次第に明確になりました。今では、YouTubeがあまりに手軽なので、長い間かけて自分で集めたレコードやCDの出番が相対的に少なくなっているほどです。

最後にYouTubeを利用するには著作権や個人情報に関するルールに注意する必要があります。幸い、ネットには関連する情報が山のようにあります。ぜひ熟読してください。YouTubeで閲覧可能なコンテンツとしては、ジャズドラマーの黒田和良さんの「2022年版YouTuberのための音楽著作権まとめ」がおすすめ。特に、ミュージシャンがYouTubeを活用する場合のポイントを実例に即して具体的に理解できます。音楽と映像を一体のものとしてとらえる「シンクロ権」までカバーしていることもあって、とても有意義です。

▼黒田和良さんの「2022年版YouTuberのための音楽著作権まとめ」
https://www.youtube.com/watch?v=MVwbT3XaWSw
▼ベーシスト津川久里子さんとギタリスト阿部大輔さんのYouTubeチャンネル「セッションの心得」
https://www.youtube.com/watch?v=zUlg0fHQFCU&t=221s

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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