コロナ禍の「無観客ライブ」で見えた新しいつながりと希望 仙台出身のシンガー・佐野碧さん

【寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】新型コロナウイルス禍の下、大勢のファンの歓声と熱気と融合するステージから遠く離れ、これから進むべき道を暗中模索していたという。東京で活動する仙台市出身のシンガーソングライター、佐野碧さん。今年3月1日に予定していた東京・よみうりホールでの「1000人ライブ」への中止圧力に苦悩した末、無観客での決行を選んだアーティスト魂を「TOHOKU360」で紹介した。

それから約半年後の8月23日、佐野さんは再びオンライン有料配信の無観客ライブを敢行した。「誰と向き合うか」の問いを背負いながらも、そこから「新しい形のつながりと希望が見えた」という今の思いを語った。=9月8日、仙台市内でインタビュー=。

一緒に分断の壁を壊して

―8月23日の無観客ライブ「今伝えたい想い」を、佐野さんは東京・神楽坂のライブハウス「The GLEE」で演奏した(ピアノ伴奏は岡島沙予さん)。握手もハグも、笑顔も交わすことができない「無観客」の世界に、今回はどのように入っていったのか?

「ピアノ伴奏だけで歌うことを最初から考えた。オンラインで配信されるのに、その上にまたデジタルの音を重ねたくなかった。だから、オープニングの曲はアカペラにしました。それは当然なことで、こちらが丸裸でなくては聴く人につながれないから。ごまかしができないから。リアルの会場とは違い、お客さんはクリック1つで『場』を消し、関係を切られてしまう。だから、いつもとは違う緊張感でした」

―ステージではなく、オンラインで「つながり」をつくることの難しさをどう感じたか。

「いつもなら自分が発したメッセージにお客さんがさまざまな反応を返してくれて、リアルな交流や共有の体感があります。けれど、演奏の出来が良くても、オンラインの向こうからどう聴かれるのか、そして誰に向かって歌っているのか、分からなくならないか。自分でも後で第三者的な視点で映像を見ることにならないか。3月のよみうりホールとはまた違う、初めての試みに不安はありました」

8月23日、東京での無観客ライブで熱唱する佐野さん(Hiko Hosi さん撮影) 

「でも本番では、(有料配信を予約し)ライブに参加してくれる人の名前が分かった。途中で感想のコメントを読むことができ、聴いてくれる側を理解しながら、私も『この言葉を伝えよう』と考えながら、その人たちの顔をお思い浮かべながら歌うことができた。歓声と拍手はないけれど、顔を思い浮かべれば一緒にいられた。『自分の力で…』と頑張らなくても、お客さんとコミュニケーションできる感覚があった。これは、新しいコミュニケーションかもしれないと思いました」

―なるほど、「すごく緊張するけれど、いつも以上に皆さんを感じるようにすることも確か」と、佐野さんは無観客ライブで語り掛けていた。そして、インパクトがあったのが「世界は分断されている」という言葉。参加した聴衆には、佐野さんが2015年のネパール大地震以来、現地で催す支援コンサート「HIKARI SONG GIFT」(開催4回)で絆を結んだネパールの人たちもおり、自ら訳した国民歌謡『レッサン・フィリリ』を、海を越えた「ファンとの思い出の曲」として歌った。

「つながりたい思いが一層強かった。ネパールでもコロナ禍のため半年くらい国内でロックダウンが行われ、日本から『行けない場所』になっていた。それが、オンラインでつながれているのを確かめ、私がパワーをもらったし、一緒に分断の『壁』を壊して進みたいと思いました」

模索の末に見えた道筋

―今回の無観客ライブで歌って、初めて見えてきたことはあるのだろうか。

「私は、どこかで愛されたくて歌っていたんだということ(笑)。多くの人からたくさんのものをもらってきたことを、コロナ禍になって気づいた。今回は、無観客という見えない壁の向こうにいる人たちを、愛したいから歌を届ける。一緒に愛おしい時間を過ごしたいから。そんな思いでした」

―「今伝えたい想い」というタイトルが物語っているよう。その思いもつながったのではないか。コロナ禍の中で暗中模索する佐野さんを応援するファンの声で、この無観客ライブの開催を決めたと聞いた。

「ファンクラブ『あおい空』の方々から、居酒屋の社長さんからテイクアウト販売を始めたとか、塾経営者からは生徒さんが引きこもりになったとか近況を伺ううち、『それより碧さんはどうなの?』、『リアルのライブはいつやるの?』と問われた。私自身は、お客さんにフェイスガードを付けてもらってまでやりたいとは思っていなかった。そこから、『有料配信ライブをやってみたら?』という話が出て背中を押され、決心しました」

―「開運 癒しの音楽」というYouTubeのDJ番組を、佐野さんは思い立って3月17日から12回、ファンクラブを超えたリスナーに届けた(佐野碧OFFICIAL SITE)。その第1回は「あなたの悔しかったことを歌にします」。自身の1000人ライブ中止を振り返り、自分の思いを犠牲にして進まざるを得ない人たちの思いをSNSで寄せてもらい、分かち合える場をつくった。

番組はその後も、「踏み出せない想い」「不安に思うこと」「伝えたいこと」「苦しい時」などを特集し、それぞれに1曲の歌にしてリスナーに贈った。無観客でも人がつながれる道筋を、佐野さん自身は既に見つけていたのかもしれないね。

もう「数」が成功ではなく

「1000人ライブとか、10000人ライブとか、今までは『数』を呼べてこそ―が成功だった。でも、コロナ禍でそんな価値観は壊れてしまった。私にとっても大きな転機になった。誰かを頼んでの“愛されたい”から自立しないでいたら、そのままずっと生きていくところでした(笑)。無観客ライブで見つけたものを育てていけば、次のライブの在り方も見えてくるし、曲作りのアプローチも変わってくるかもしれません」

無観客ライブのステージで、佐野さんはこう語った。コロナ禍の試練を経た言葉は強さを増し、苦境の痛みを抱える人の心をつなぎ励ます歌が生まれてくるに違いない。耳を傾けてみたい。

久しぶりに帰郷した仙台の駅前で、次への思いを馳せる佐野さん=9月8日

「(1000人)ライブで歌いたいことをなかなか受け入れてもらえず、悲しかった。だけど、その感情を(涙とともに)出したら、次のステージに行く道が見えた。暗いニュースも流れているけれど、ネガティブな感情の自分を分かってあげたところから、その先に見えるものがあります」

「コロナ禍じゃなくても、皆さんもいろんな時にいろんな苦しいことを乗り越えて、今の皆さんがあると思う。こうしてオンラインで結ばれていることも奇跡です。だから、この今という時間をこれからも、これまでと同じように乗り越えていけたらな、と思います」

さの・あおい仙台市出身。宮城学院大学を卒業し上京、1年後に自身のスタジオを開く。大震災からの故郷再生への祈りを込めた『虹色のひとみ』でデビュー(ケーナの田中健さんと共演)。以後、東京を中心にライブを続ける。2015年4月のネパール大地震をきっかけに地元の音楽家らと「HiKARI SONG GIFT」を催し、ソーラー・ランタンを贈る活動を続ける。アルバム『NAMIDA』、『夢』、シングル『ただある声』や、8月23日の無観客ライブの配信映像『今伝えたい想い』を発売中(いずれも 『佐野碧OFFICIAL SITE』)。

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