【続・仙台ジャズノート#14】現役のレジェンド、デビッド・マシューズさんと仙台

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】先日、仙台市内で開かれていた古いレコードの販売会で、掘り出し物を見つけてしまいました。「デビッド・マシューズ ビッグバンド・ライブ・アット・ファイブ・スポット(DAVID MATTHEWS Big Band Recorded Live At the “FIVE SPOT”)」(MUSE RECORDS)。1980年代半ばから2000年代にかけて活躍した人気グループ「MJQ(マンハッタン・ジャズ・クインテット)」と「MJO(マンハッタン・ジャズ・オーケストラ)」のリーダーとして知られるピアニストのデビッド・マシューズさんがプロデュースし、演奏者としてだけでなく作編曲にフル回転している作品です。

たまたま、その前日に仙台市青葉区の山野楽器仙台店で、マシューズさんと地元仙台のジャズミュージシャンが共演するライブを聴いたばかりでした。マシューズさんの演奏を生で聴いたのは3回目。仙台のミュージシャンのみなさんも、それぞれに力を発揮し、長いキャリアのマシューズさんが自然に醸し出す雰囲気を楽しむかのようでした。

仙台のミュージシャンと共演するデビッド・マシューズさん              

マシューズさんは現役で活躍している数少ないレジェンドの一人です。ここ30年ほどのジャズファンなら名前ぐらいは聞いたことがあるはずです。このバンドの最初からのメンバーの一人でトランペット担当のルー・ソロフが、学生時代によく聴いたブラスロックの人気バンド「BLOOD  SWEAT &TEARS(BST=ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ)」のメンバーだった関係で、聴くようになりました。

コンサートやライブになるべく足を運ぶようにしているとはいえ、マシューズさんの場合も、もっぱらレコードやCDによる体験にすぎません。それでも、MJQやMJOの演奏を通して、いわゆるスタンダードを現代的で、かっこいいアレンジで楽しむことを教えられたような気がします。マシューズさんの作編曲について評価できる力がもう少しあればと思いますが、それはまた別の話。この日は地元のミュージシャンとの共演というメーンディッシュ付きのプレゼントのような、楽しい時間でした。

さて運命の出合いがあったレコード販売会。東京ならともかく、地方都市ではレコードの販売数や種類自体が少ないうえ、ロックやポピュラー、クラシックに比べて量が限られます。こちらの趣味嗜好が狭すぎるせいでもあるのですが、レコードがびっしり入った箱の前で1時間過ごしても、これはと思う作品に出合えないことが少なくありません。この日は、なぜかマシューズさんの作品が指先に引っ掛かってきました。気に入ったミュージシャンやグループを長い間、追いかけていると、こんな出合いもあります。

「デビッド・マシューズ ビッグバンド・ライブ・アット・ファイブ・スポット」には、当時、第一線で活躍していた、腕っこきのスタジオミュージシャンが参加しています。ライナーノーツを書いているジョー・フィールドさんによると、腕の確かなスタジオミュージシャンの仕事は昔も今も幅広いもので、リハーサルなど、さまざまなニーズに合わせて動きます。その結果、商業的な事情に追われたり、「dumb session(くだらないセッション)」(「ジャム・セッション」のもじり)にも付き合う必要があります。マシューズさんのビッグバンドは、そうしたスタジオミュージシャンたちが参加し、創造性を発揮できる機会になったそうです。

マシューズさんの作編曲をビッグバンドで楽しめる「デビッド・マシューズ ビッグバンド・ライブ・アット・ファイブ・スポット(DAVID MATTHEWS Big Band Recorded Live At the “FIVE SPOT”)」

レコードのA面はマシューズさんのオリジナル曲が、B面には「Nardis」「Round Midnight」などのスタンダードが収録されています。古いジャズレコードを聴く楽しみの中には、作品に関するデータを可能な限り調べるということがありますが、今回の最大のトピックはB面の4曲目に収録されている「Penny Arcade」でした。作曲者が「J BECK」となっていたので、「ひょっとしたらジェフ・ベックの曲?」と勘違いしました。

この時代、ジェフ・ベックといえば、ロックギタリストの大物です。その彼が作曲した曲をマシューズさんが取り上げているとなれば、それだけで楽しい。ネットや雑誌文献などを探った結果、結局、「J」は「ジェフ」ではなく「ジョー」・ベックであることが分かりました。ジョー・ベックは当時、活躍していたジャズギタリスト。チック・コリア初期のグループ「return to forever(リターン・トゥ・フォーエバー)」のメンバーだったジョー・ファレル(サックス、フルート)のリーダーアルバムにも参加しています。その際、ジョー・ベックが提供したのがオリジナル「Penny Arcade」でした。

それがなぜかジョー・ファレルのアルバムタイトルになっています。普通はしないよね。こういうこと。その理由は不明ですが、いろいろあった末に、マシューズさんの編曲による「Penny Arcade」とジョー・ファレルのアルバムに収録されている「Penny Arcade」を聴き比べる楽しみができたのでした。ざっと聴いた感じでは、マシューズさんのアレンジの方がジョー・ファレルものよりアップテンポに設定されています。スピードと切れがすさまじい演奏からはスタジオミュージシャンたちの意地が伝わってくるようです。

ちなみに「Penny Arcade」とは米国で流行った1ペニーで楽しめるゲームセンターあるいはゲームコーナーのこと。米国の歌手ロイ・オービソンにも同名のヒット曲があり、多くの歌手がカバーしていますが、もちろん、まったく別物でした。                                                         

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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