【仙台ジャズノート】「古き良き時代」を追うビバップス

佐藤和文=メディアプロジェクト仙台】仙台で活動を始めてから2020年で30年になるアマチュアバンド「ビバップス」を紹介します。「ビバップス」は特に1950年代、1960年代の「古き良き時代のジャズ」を演奏します。フロントは、テナーサックス、トランペット、トロンボーンの3管。リズムは、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスのセプテット編成です。懐の深い、キャリアを感じさせる演奏ぶりに定評があります。ジャズの世界で特に親しまれてきた「スタンダード」の表現が得意なグループです。

「ビバップス」の代表を務めるサックス奏者、ゴードン鈴木さんこと、鈴木誠一さん=会社社長=(68)は、地元の仙台二高を卒業後早稲田大学のビッグバンドジャズ「ハイソサエティ・オーケストラ」のバンマス(バンドマスター=代表)を務めました。「ゴードン」の呼び名はジャズサックスの大御所、デクスター・ゴードンからとったものです。

「ラグビーをやりたくて早稲田に入ったが、ハイソのコンサートを聴いて夢中になった。その場で楽屋に行って『俺を入れてくれ』と頼んだんだ」

ビバップスの全体練習。レパートリーを本番形式でどんどん演奏するスタイルです。

楽器の経験は全くありませんでした。「『何やれるんだ?』と言うから『今はできないが、俺は体育会系なので根性には自信がある。練習するから入れてほしい』」と相手を説得したそうです。「早稲田のハイソ」と言えばすでに演奏レベルの高さで知られていました。今日までプロ、アマ問わず多くのミュージシャンを輩出しています。

「ラグビー」からジャズの世界へ。楽器の経験もない、素人同然で入部してからバンマスまで務めるのは並大抵のことではなかったはずです。鈴木さん自身「練習したからなあ」と当時を振り返ります。

鈴木さんは大学卒業後、仙台に戻り、家業だった会社を継ぎました。仕事に追われる傍ら「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」誕生に関わり、自ら出演するために、地元の友人らとビバップスを結成しました。以来、一度も休むことなくジャズフェスに出演してきました。

グループ名の「ビバップス」は、1940年代のジャズにつけられた呼称「ビバップ(be-bop)」にちなんでいます。ビバップ以前、1930年代に親しまれたのが「スイングジャズ」で、楽しく踊れる音楽「ダンス音楽」として米国民に広く支持されました。一方、ビバップは個人的な感覚や創造性を重視するスタイルでした。演奏者同士の競争的な要素が多く、演奏しながら、その場で曲を作るのに似た、即興演奏(アドリブ)を大事にしました。今日まで大きな流れとなって続く、いわゆる「モダンジャズ」の始まりといってもいいでしょう。演奏者が自分の個性を生かしたソロ演奏を繰り出す場面からは強烈なエネルギーを感じます。チャーリー・パーカー(サックス)、ディジー・ガレスピー(トランペット)、セロニアスモンク(ピアノ)、ケニークラーク(ドラムス)らがビバップをジャズの一大運動として押し上げました。

今回の取材の感触をちょっと先回りして書いてしまえば、現代の若いジャズミュージシャンたちは、ロックやファンクなどの分野にも強い関心を示します。いわゆる「古いジャズ」については「職業として考えられない」「自分の音楽ではない」と感じる向きが多いようですが、それでも「ビバップ」の時代に起きた事柄については「やはり押さえておくべき」「ジャズの基本や原則がある」と言う声が少なくありません。

ビバップスに参加して20年になるという今野勝範さん(67)は仙台市の隣町、名取市でサンドイッチの専門店「ヴィクトリー名取店」を経営しています。トランペットとボーカルを担当し、ショーマン精神たっぷりの楽しいステージづくりが得意です。バンマスの鈴木誠一さんが仙台二高と早稲田大学商学部の1年先輩であることもあり、同郷ならではの「同じ釜の飯」的な雰囲気を感じさせます。

「(バンマスの)誠ちゃんはマイナーの暗めの曲が好きで、わたしは明るい調子のメジャーが好きなんです。選曲もふたりそろってちょうどバランスがとれる。アマチュアは、なんでもやらないと、客に受けるのは難しい、明るい笑いとか、しゃべりのネタ、ラッパを吹いて『タッタカ タッタッター』とおふざけ的に吹くとかね」

練習場所はトランペットを担当する今野さんの店。営業を終えてから楽器持参で集まる。

アマチュアの悩みの一つでもあるアドリブについて話が進みました。「専門の学校で理論から徹底的に学んだり、毎日、練習したりできればいいんですが、アマチュアの場合、なかなかそこまではできないので、とにかく自分のパートを反復して練習する以外にないように思います。繰り返し演奏していると、ここはこうやりたいな、ということが必ず出てきます」

「ビバップス」の懐の深い演奏はさすがに長い経験を感じさせます。ジャズ特有の即興演奏や聴衆とのコミュニケーションをこなす秘訣について鈴木さんに聞きました。

「私の場合、演奏するに際して人からどう思われるかはあまり気にしない。演奏するときの自分の気持ちが演奏に反映する。そのときの気持ちが一番大事かなあ」

「うちのラッパ(トランペット)の今ちゃんは、客に受けなければ駄目だという気持ちで演奏していると思う。演奏だけでなく、ステージを盛り上げるためのパフォーマンスも含めて楽しんでもらいたいと思っているはず。それが演奏者としての彼の生きがいなんだ。人それぞれに自分の個性を生かせればそれでいいんじゃないか」

ビバップスの練習はトランペットを担当する今野さんの店で行われます。営業終了後、楽器持参で三々五々・・。ノーマン・ロックウェルの「シャフルトン旦那の理髪店」を思い出します。仲間ともに音楽を演奏する楽しみを知ってしまった者たちの理想の暮らしを目の当たりにするようで、思わずうれしくなるのでした。参考までに府中市美術館のサイトのリンクを張っておきます。ビバップスの風景と比べてみてください。
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/Rockwell.html

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」