テナーサックスを演奏する鈴木さん。スタンダードに持ち味を発揮する。

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】ニューヨークでも東京でもなく、仙台のような地方都市でジャズ音楽の来し方行く末を考えてみたい-。この連載を思いついた理由の一つです。その点で、「ビバップス」が個性的に見えるのは「ジャズ演奏を通じて地域活性化をめざす」とうたっている点でしょう。自分たちが暮らし、演奏し続ける地域との関係=「行く末」を強く意識すること自体、ニューヨークや東京にもっぱら依存するジャズ的にぎわいからは生まれない発想です。

アマチュアバンド、特に仕事を持ちながら音楽活動を続けている社会人バンドの場合、自分たちの音楽や活動に合った演奏機会をさまざまな形で求めています。ジャズに限らず、どのジャンルの音楽でも見られる傾向です。実際は、自治体や非営利団体などが主催する音楽祭や地域のイベントへの出演、福祉施設での訪問演奏などを通じて、地域の盛り上げに一役買う形になっていますが、「ビバップス」のように「地域活性化」に貢献する、と明確にうたっている例はそれほど多くはありません。社会人のバンドのメンバーたちは仕事や家庭での役割をさまざまに担う、30代から50代が多いため、「地域への貢献」を宣言しながら活動するのはそんなに簡単な話ではないからです。

こうした問題を一気に解決するのはなかなか難しいことですが、せめて、地域から発し、地域の発想で運営されるジャズメディアを実現できないだろうか、と思います。

そんなことを考えながら仙台市太白区長町のコミュニティFM局「エフエムたいはく」を訪問しました。在仙のアマチュアジャズバンド「ビバップス」の代表であるゴードン鈴木さんこと、鈴木誠一さん=会社社長=(68)が、毎週水曜日の午後6時から6時半までジャズ音楽番組「ジャズを身近に」のパーソナリティを務めています。地場の企業経営者でもあり、ただでさえ多忙を極める鈴木さんが「ジャズを身近に」を担当するようになって、間もなく丸12年。「ビバップス」はバンマス自身がジャズメディアとして振る舞う、ユニークな事例といえるでしょう。

自らパーソナリティを務める「ジャズを身近に」を収録中のゴードン鈴木さん(コミュニティFM局「FMたいはく」で。
自らパーソナリティを務める「ジャズを身近に」を収録中のゴードン鈴木さん(コミュニティFM局「エフエムたいはく」で。

「若いころに(FM東京で)聴いた油井正一氏の深夜ラジオジャズ番組『アスペクト・イン・ジャズ』が忘れられない。ジャズ音楽についてもっと深く知ってもらいたい。そのためには体系的にジャズを理解することが大切なので、ミュージシャン編をまず企画した。ビッグバンドに焦点を当てたり、テナーサックス、トランペット、トロンボーン、アルトサックスなど楽器別に解説したりしている」

1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、春夏秋冬の各シリーズ13回で年間52回の収録・放送になるそうです。スタジオに入るときはいつも大学ノートを持ち込みます。見せてもらうと、ジャズ関連のデータが手書きでびっしり書き込んでありました。

「仕事とのバランスをとれるし、何よりも楽しい。ジャズ音楽の背景であるアメリカ社会の問題に触れながら放送コードに触れないように注意しなければならない。1回の収録で、演奏時間の関係で、3曲から7曲ぐらいかける。解説のバックでも低音量で2曲から6曲使う」

「自分が好きなのは1940年代Big Band、Bebop、1950・1960年代Hard Bopのジャズ。70年代、ファンの間で賛否が分かれたマイルス・デイビス(トランペット)の『ビッチェズブリュー』以降は得意ではない。ジョン・コルトレーン(サックス)では、『ジャイアントステップス』(1959年)、マイルス・デイビスとの『カインドオブブルー』が最高だ」

テナーサックスを演奏する鈴木さん。スタンダードに持ち味を発揮する。
テナーサックスを演奏する鈴木さん。スタンダードに持ち味を発揮する。

若い人たちに「古いジャズ」の魅力を説明してほしいと水を向けてみました。

「うたごころだね。きもは。40年代前後のいいジャズはとにかく美しい。もちろん、ディキシー(ランドジャズ)が好きなメンバーもいる。それぞれだ。個人的にはモダンジャズが好き。デクスター・ゴードン(サックス)が好き。生き様もすごいんだ。麻薬の問題もあったし、アメリカで食えなくなってヨーロッパに渡り、バド・パウエルと「Our MAN IN PARIS(アワマン・イン・パリ)」を吹き込んだ。コペンハーゲンなどでの演奏もすごい。コルトレーンのメカニックなフレーズもすごいけど、ゴードンの一音、一音に心がこもっている。それにしびれるな。うたごころなんだ。大切なのは」

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス

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