【連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。
前回は、秋田県・男鹿半島に建設が計画されている、陸上大型風力発電所に対し、「男鹿の里山と生きる会」のメンバー(共同代表)がそろって、歌舞伎の口上よろしく挨拶を述べましたが、今回からの3回は、危機感を持って結成した会のメンバー6人、ひとりひとりの思いを、伝えます。「問われて名乗るもおこがましいが……」。それはもういいです。
「男鹿の里山と生きる会」のメンバーのうち、佐藤毅さん(47)、船木一人さん(42)、福島智哉さん(39))の3人が、男鹿の生まれ育ち。大橋修吾さん(28)=静岡県出身、大西克直さん(25)=東京都出身、保坂君夏さん(24)=秋田市出身の3人は、縁あって男鹿に引っ越してきた人たちである。メンバーは全員、自営業なので比較的動きやすいが、毅さんの「風力発電所はいらない」の思いを、素早く共有し、会を結成した。最初に、風力発電所が建設された場合、「何を壊し、何を生み出すのか」という、直球の質問に対する答えを紹介する。
毅さん=「男鹿の魅力、未来への可能性はなくなっていく。私にとってはすべて壊されるような。生み出すものは一時的なものだけのように思う。結局失うものばかりだ」
一人さん=「男鹿の自然への一体感がなくなる。同時に、生命を維持するための装置の電源を切られるイメージです。生み出すのは将来的には、大きな産業廃棄物です」
智哉さん=「電力とお金を生み、国としては総体的に公益性があると言えますが、国を支える母体を削るようなもので、一瞬の利益のために、その先に続く価値ある部分を考えていない、と言える」
修吾さん=「景色は間違いなく変わります。その景色が変わった後が良いと思うか、悪いと思うか―は、各々感覚の違いはあるかもしれませんが、現状では、生み出された電力は秋田ではほとんど必要なものではなく、工事に関わる業者の利益、税収と、土地所有者の収入ぐらいしか利益が見当たりません。一部の人の利益のために、みんなの共有財産である景色を変えて良いのか? という点が大きな疑問です。
克直さん=「再生可能エネルギー自体は可能性としてあると思います。ただ、琴川という地域は関係人口の創出地点になりつつあり、その理由の一つとして『里山の原風景』があると思います。実際に、琴川の里山を舞台にした農業、研究、新規プロジェクトなどが出てきています。僕がかかわっただけでも3件はあります。風力発電によって、こうした関係人口創出の機会が、減少してしまうと感じています。エネルギーや地球温暖化の問題は深刻ですが、対応策としての風力発電のメリット・デメリットを、その土地で息づいている人たちと対話をすることで、丁寧に進めた方がいいと感じています」
君夏さん=「壊されるのは、これまで築き上げられた自然が織りなす風土であり、それを生かして暮らしてきた人たちの思いです。その結果、この地区の魅力が減って、将来は消滅の可能性をたどるだけになってしまう。生み出されるのは、地域づくりや地域資源保全の諦めであり、都市のために発電する地域として、一時的なお金と雇用と大きなゴミです。男鹿市全体で再生可能エネルギーに対しての議論・勉強する場が創出されることも考えられます」
男鹿半島の自然への信頼度は高い。それぞれに違った言葉で表現する。「寂れていく地域だから」などの卑下とも無縁。風力発電所は「行く手を阻もうとする」存在と映る。みんな、男鹿半島が、男鹿半島で生きていることが好きなんだなあ。そのままで十分に美しい、変わらないでいてほしいと、ラブソングを歌っている。(つづく)
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