【加茂青砂の設計図】男鹿里山6人男㊦それでも、ひとは里山に向かう

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

土井敏秀】「男鹿の里山と生きる会」が、その活動の基本に据えているのは、次の世代、子供たちの世代に、何をどう伝えていくか、である。船木一人さんの「自分が生かしてもらっている環境(生存装置)を後世に、綺麗なまま残すことが人としての役割だと思っています」が、それを代表する。役割を果たすには、「地域全体を考えること。関係する人たちだけのネットワークで、都合よく生活するのは、どこか切り捨てごめん、みたいでおかしい」と福島智哉さん。「同じ空気を吸うひとりひとりが築いてきた結果、自分とは合わないのも含めて、さまざまな価値観が一緒にあるのが地域です。豊かな海山の幸のベースになる水や土がきれいで、その最高の母なる大地の手伝いをしたい」と強調する。

保坂君夏さんは「20代前半の人として、農に携わる者として、農業従事者の減少や耕作放棄地の増加に対応しながら、地域コミュニティーの維持形成を担うのが役割」と言い切る。

「移住者の立場で言えば、地域に受け入れてもらっているのが、何よりもありがたい。地域のために何かできればという想いは強くあります」とは大西克直さん。大橋修吾さんは「多様性を担保し、次の世代が選択しようとしたときに、決められる状態を残す。技術や新しい考え方を取り入れていくのはかまいませんが、自然や暮らし方を残さないといけない」

里山での田植えは、やりたい仲間で一緒に(男鹿市五里合琴川)

「里山の会」は、価値観や立場の違う人たちと「批判や否定することは不要です」(智哉さん)という立ち位置にいる。「里山的な暮らしが残る場所と、大規模農業が向いている地域とは、分けて考える必要がある。人手も少なく、後継者や移住者を多くは見込めない中では、頼れるところは頼る。最先端技術や機材導入は進めていいと思う。私自身は地域でコツコツと働き、地元のために泥臭く、ひたむきに頑張れる方が向いている」(君夏さん)、「機械を使わないでやると、楽しい」(佐藤毅さん)から、里山に暮らす。その暮らしがあるから「里山の会」という共同体に、人が集まってきているのだ。毅さんは「若い世代がやりやすいような地域にしたい。自分は自分で、ものづくりに真剣に取り組み続けるけれど、子供たちや若い世代が成長していけることを中心に、考えていこうと思う」と「地域の設計」は明快である。

その里山に、大型の羽根を回し続ける風力発電所は、どうしたって「あってほしくない」人工物として、立ちふさがってしまうのだ。「風車ができたら、どうしますか」。この仮定の質問に、毅さんは「子供たちのことを考えても、琴川(男鹿市五里合琴川)は出ることになると思う」と答えた。克直さんはその答えに「寂しいことだけれど、自分の好きな場所がなくなる、自分の守りたい景色がなくなるなどの理由があった場合、男鹿を出るということが、選択肢の一つとして浮かぶのは、自然のことだし、責めを負うべきことでもないと思います」と話した。修吾さんは「先輩たちは、事業や生活が変わってしまえば、男鹿を出ると決めるかもしれない。そうなれば自分も、場所を移すだろう。自分たちの意見や想いが大切にされず、必要な時だけ使われるのであれば、協力関係とは言えない」、一人さんは「自分ができるギリギリまでは、ここに寄り添いたい」、君夏さんは「農に携わる中で分かることは、地が違えば土が違うということです。これを踏まえると、私自身はここを出るという考えが、そもそも出てきません」と、それぞれの考えを述べた。

琴川の里山の冬は、雪遊びの子どもたちの声がこだまする

智哉さんは「人間が暮らすうえで必要な開発と、それによる自然破壊は、産業革命(18世紀から19世紀半ば)以降ずっと繰り返されてきています」と前置きして、その視点から見ると「その時その時の民意の結果なのか、権力者や利権の判断の結果なのかは別にして、何を大切に生きるかに、善悪も正しいも間違いもないのだな」と知ったという。「(大型陸上風力発電所が建設された)男鹿からあえて、少し離れて、アンチテーゼをがっちり世に打ち出すことはあってもいいと思います」と結んだ。

毅さんの小学5年と2年の子供は、田んぼや畑で一緒に作業したり、そこで遊んだりしている。大型風車建設計画には、かなりショックを受けているという。上の子は炭素の循環とかにも興味を持ち、それが山の生態系にどうかかわってくるのかとか、人はどうかかわっていくべきなのか―の話に発展する。下の子も風車に関する新聞記事を、必死に読んでいるという。山の生き物のこと、微生物のことなどを話し合っている。自分の将来像をどう描いているのか、上の子は「風車が立たなければ、琴川に戻ってくる」と約束した。

毅さんが伝えたい男鹿の魅力は、一編の詩となって、男鹿の青空に、緑の山々に、青い海に飛んでいく。言葉ひとつひとつが、ぴったりと納まる場所を知っている。

微生物が生き生きしている
季節ごと、その日ごとに変化する風景が最高だ
空気がいい
草や木と一緒に生きている感じがする
自然の生態系の中で生きているような
人も生態系の一部だと感じる
生態系が多様で自然とバランスがとれてくる

(つづく)

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