新聞記者から社労士へ #21(最終回)寂しいですが元気を出して

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

入社同期もそれぞれの生活

藤沢周平の時代小説「三屋清左衛門残日録」。仲代達矢や北大路欣也が演じるテレビドラマでご存知の方も多いと思います。用人として仕えた先代藩主の死去を機に息子に家督を譲り、隠居生活に。

老境に入る寂しさを吐露したり、若い頃の悔いに思いをはせたりする一方、藩内で起きる事件の解決や、藩を二分する抗争にも巻き込まれるストーリー。老いても仲間との絆は強く、家族からの信頼は一層深まる。老後はかくありたいものです。

それに比べ、60歳で定年退職し社労士業に転じた当方の10年余は、「このまま老人になりたくない」と、もがく一方だった気がします。

第2の人生を始めた際、挨拶回りをしたある弁護士さんに「記者から転身とは珍しいですね。仕事は息長く、70歳になってもできますよ」と言われました。

その70歳もとおに過ぎ、この10月に72歳になりました。髪は薄く、白髪がぐっと増え、顔はたるみ、姿勢もシャンとせず、見た目は悪くなる一方です。体力も落ち、加齢に伴う病気も出て参ります。収入も減ってあまり良いことはありません。

新聞社同期入社組は、既に1人が鬼籍に入り、他の人も第2、第3の会社を終え、それぞれの生活を送っているようです。今年は新型コロナウイルスの感染拡大のため中止になりましたが、年に1回大崎市で開かれる高校の同期会に出席すると、その年に亡くなった人がいて、冥福を祈る黙とうから会が始まります。

いつまでも現役でいられるわけはなく、若い方が前に出、齢を取った者が退くのは順番だということは理解していますが、寂しいものです。

多様な意見を伺いつつ

家族に「段々寂しくなってきた」と愚痴ると、「そんなこと言っていると皆に嫌われるよ」とたしなめられます。2人兄弟の末っ子だった当方は、厳しく育てられ、苦労も多かった東京在住の兄と比べ甘いところがあります。兄には事あるごとに何かと相談し、助けてもらっています。

しかし、頼ってばかりでもいられません。人生80数年時代であり、現時点は定年退職して人生を全うするゴールまでの折り返し地点。この10年間は、ある種恐れを抱いていた「爺さんの世界」に入るための準備期間でもあったと解釈しています。

今後は、まずは、他人の言うことに耳を傾けたいと思います。以前、「キレる高齢者」の問題が騒がれておりました。心身の老化とともに、抑制力が効かなくなる、との医学的な指摘もされています。

世の中にはいろんな人がいて、意見、考えがあるのが分かっているはずなのに、自身の意に沿わないと、腹を立てて怒鳴り散らす。相手の立場を慮ったり、素直に聞いたりする力が落ちてくるのでしょう。柔らかく、ゆったりと、自身の頭が固くなってきたことを自覚しながら、静かに聞ければ。

話しは飛び、過熱する一方の米大統領選。過激に罵り、煽り、嘘も交えて、排除と分断を加速させる候補の言動。一部に本音を語っているという評価もあるようですが、とても受容できるものではありません。絶大な権力への固執、進む老化。誰の意見も聞かなくなるのでしょう。危ないですね。

孤独になることを恐れずに

もう一つは、孤独に耐えることでしょうか。振り返れば、記者はチームを組んで取材しますが、取材対象には、ほとんど1人で会います。相手に不利な、嫌なことを聞く場合も多く緊張を強いられました。誰も助けてくれません。

社労士も1人で行う仕事でした。うまく行くかどうか、責任は全て自分にかかって来ます。過去の経歴など変なプライドを持っていると支障を来たします。

今度は日々の暮らしでも圧倒的に長い時間を1人で過ごすことが多くなりそうです。自分のことはできる限り自分でする。孤独力が求められそうです。

最後になりますが、この「定年10年ドタバタ記」を書き続けている間にも、コロナの影響で社会が変貌してきたことを実感しています。景気悪化の下、中小企業の倒産や閉鎖、解雇による失業者が増大する半面、株価はコロナ以前に戻り、理解不能な世界が出現しています。

一部富裕層と働いても年収200万円に達しないワーキングプアに断裂し、中間層が薄くなる格差社会がより進行しているのでしょうか。われわれの団塊の世代の時代は少なくとも、目標を立てて努力すればある程度叶う、チャンスだけは平等な社会でした。

最初から動かしがたい差があり、生涯にわたって上下関係が固定される社会はご免です。そうした点で、若い方々は厳しい状況に置かれていると察します。分断やギスギス感が高まることを懸念します。

一方、震災や台風の被災地へのボランティア活動の様子などを見るにつけ、支援や共感の輪は枯れていないと頼もしく思っています。人と人がつながれば、豊かに、多様に、素晴らしい知恵も浮かぶことでしょう。対立や分断で良い果実が生み出されるとは思えません。皆さまのご健闘を願ってやみません。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. 心身を壊してまでする仕事はありません
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. 時代に置かれていくのを感じつつ
5. 平凡な暮らし 大切に
第3章 避けられぬ加齢が進む中で
1. 健康だと過信することなく
2. 焦ることなく気長に
3. はめを外して大ごとに
第4章 先に退職した者の一言
1. 定年後も働き続けますか
2. 打ち込めるものがありますか
3. 寂しいですが元気を出して

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