新聞記者から社労士へ #18 はめを外して大ごとに

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

二重に見えることはなかったが

「現役時代と同じく仕事をし、これから遊びもめいっぱい」。秘かに慢心してせいかも知れません。今年2月、自らの不注意で外階段から転落、左顔面を強打し、骨折してしまいました。70年以上も生きていて、たくさんの方にご迷惑を掛け、お恥ずかしい限りです。

以前一緒に仕事をしたグループから酒席への誘いを受け、懐かしい思い出話などをして、あまりに楽しく我を忘れ、ついつい度を越しました。

病院に搬送され、救急外来で診察を受けた翌日、形成外科、眼科、耳鼻科、口腔外科の各科を回り、左顔面の眼窩底の骨折や前歯の折損などがありました。

眼窩底は、眼球が収まっている頭蓋骨の丸い窪みに当たる部分。眼の辺りを強打した場合、眼球の破裂を防ぐため、骨が折れて衝撃をやわらげる役割を果たすのだそうです。

先ごろ、遠征先のマレーシアで交通事故に巻き込まれたバドミントン男子シングルスの桃田賢斗選手が手術を受けたことが報じられ、知っている方も多いことでしょう。放置すると、骨欠損部の穴を通じて眼窩脂肪などが上顎洞に落ち込み、眼球が後退し、眼が落ちくぼむ症状が出るリスクがあるといいます。

眼窩底骨折では物が二重に見えるそうです。当方は元々近眼で焦点がぼやけており、医師が自らの手指を左右、上下に動かし、こちらがそれを眼球で追っていく検査では二重見える気はしませんでした。それでも骨はCT検査などで複雑に折れており、後遺症のことを考慮し、人工骨移植の手術をお願いした次第です。有難かったのは、医師が手術のリスクを含め、3度も丁寧に説明してくれたことです。

入院して1週間後の手術当日の午前9時頃。手術室に入ると「大丈夫ですよ」とお医者さん。全身麻酔されると、コロッと寝てしまい、起きたのは午後1時過ぎ。「うまくいきましたよ」。お医者さんが食堂で待機していた家族に話している声が聞こえました。

頭下がる看護師さんの働きぶり

土、日曜を挟んで救急に5日、手術した形成外科に9日、2週間の入院生活でした。後で事故当日の様子を聞くと、2階にあるお店を出て、外階段で下りる途中5段目当たりからダイビングするような格好で転落。搬送先はなかなか決まらず、12か所目でやっと収容してくれたようです。

救急搬送の入院後2日間は絶食。1日目は尿道カテーテルがされ、カテーテルが外された後もナースコールで看護師さんを呼び、車いすを押してもらってトイレに行かなくてはなりません。手術後もナースコールだけが頼りで、情けない状態。2週間で体重も4㌔ほど減ってしまいました。

看護師さんには頭が下がります。朝の検温、血圧、酸素濃度測定から始まって、朝昼夕3回病院食の配膳、痛み止めと抗生物質の点滴の取り換え、入浴への案内。夜中もそっと来て点滴。何かお願いごとをすると即座に応えてくれます。夜勤明けでさぞ疲れているだろうと思っても、朝はシャッキとして「おはようございます」。高齢患者の話しを聞いたり、進まない食の介添えをしたり。

先月、形成外科に出向いて最後の診断を受けました。顔面に少々違和感を覚えるときがありますが、忘れた頃に回復することでしょう。

それにしても馬鹿なことをしたと悔いています。残念ですが、齢を取るとともに体力は衰え、身のこなし方なども鈍くなります。飲み過ぎてもすぐ回復した若い頃のようにはいきません。あらためて加齢の現実を受け止めているところです。

入院患者さんから見た社会

2週間の入院は、4人部屋。形成外科病室の隣の方は60代ぐらいの建設会社の管理職さん。頸椎を手術し、リハビリ中ですが、携帯電話で下請さんに仕事の段取りを指示したかと思うと、今度は顧客からも連絡が来ます。入院していても忙しそうです。

朝バイクで通勤中、突然猫が飛び出し、それを避けようとして車道に転倒した別の男性。このままだと、車にひかれてしまうと思い、必死で這って道の脇に逃れたところ、後ろを車で走っていた人が119番。鎖骨と肋骨が何本か折れていました。会社への欠勤の連絡、会社からの労災関連の問い合わせ。最低半月ほど休むことになり、「すみません」と謝っていました。サラリーマン社会は大変です。

入院当日、入院者のほとんどが大きないびきをかき、昼夜眠り続けます。普段追いまくられている仕事のプレッシャーから解放されているからでしょうか。かく言う私も、普段は嫌な夢ばかり見ていますが、不思議と夢を見なかったのです。

一方、救急の病室は当方より年上のお年寄りの患者が多かったようです。80代のおじいちゃん。夜中に奥さんの名前を30分も40分も呼び続けます。「○○子、○○子」。認知症の予防のためでしょうか、日中は看護師さんが本を読んで聞かせていました。

「人工透析か腹膜透析か、選ばなければいけないようになるかも」。

70代と見られる男性は、こう言われショックを受けておりました。血糖値が高く、インシュリン注射をしており、足が痛くなって搬送されたようです。

入院生活は、健康がいかに大切であるか教えてくれています。他人の手を借りずにできる生活は、当たり前のように思っていましたが、怪我をするとそうではなくなります。健康寿命を延ばしたいものです。加齢と向き合い注意しながら、気持ちを明るく、生活のリズムを規則正しくでしょうか。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. 心身を壊してまでする仕事はありません
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. 時代に置かれていくのを感じつつ
5. 平凡な暮らし 大切に
第3章 避けられぬ加齢が進む中で
1. 健康だと過信することなく
2. 焦ることなく気長に
3. はめを外して大ごとに
第4章 先に退職した者の一言
1. 定年後も働き続けますか

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