新聞記者から社労士へ #19 定年後も働き続けますか

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

気楽と孤独が同居する自営業

地方新聞社を60歳で定年退職し、畑違いの社会保険労務士となって9年が経過いたしました。記者稼業が37年でしたから、合わせて46年。年月だけは長く働いたことになります。

社労士になったのは、第1章で記したように当てにしていた再就職先が駄目になり、このまま老人になりたくないという思いからです。と言っても、生活の主たる糧は年金であり、30~40代で中途退職して開業する人とは決意のほどが違っていたでしょう。

それでも、仕事は顧客開拓の営業、様式に則った書類作成、労務、年金の訪問・電話相談、帳簿の記載までほとんど1人。顧問先やスポットでの仕事が入れば、調べたり、聞いたりしながら集中し、早急に対処します。逆に仕事がなくなると、無為に過ごしている感があり焦りました。

収入は、契約した顧問先から顧問料をいただきますが、後は依頼される仕事の有無にかかっており、サラリーマンのように安定した収入はありません。経費がそうかからないのが救いでした。

自営業ですから、会社勤めのように会社、上司からの指示を受けることなく、人間関係にも気を遣わなくて済みます。朝寝坊をしようが昼寝をしようが自分で時間を管理するので一向に構いません。気楽です。その半面、頼るところがなく孤独を強いられます。

前身の記者の仕事とは、内容に決定的な違いもありました。報道機関は秘匿されている事実なども調査し、報じますが、社労士は会社の事務代理人としての守秘義務を課せられており、顧客第一でその依頼、要望を叶えていきます。

「あなたは、いつまでも記者時代のことを忘れられないようだ」

ある年配の社労士にこう言われたことがあります。   

確かに記者の習性が残っていて、労務関係などのリスク管理を優先し、助成金の申請などが後回しになり、実利という点で顧問先から満足してもらえなかったかも知れません。

少々のストレスが健康の素

仕事を続けて良かったと思うのは、第一に生活のリズムができることでしょうか。役所に提出を義務付けられている諸書類には提出期限があり、それは絶対に守らなければなりません。依頼され、契約を交わし、報酬をいただく。やり遂げる責任があり、1日の時間配分が決まって来て、メリハリが出て参ります。

多少のストレスも加わって心身が活性化し、健康にもつながると考えておりました。小心者ですから「もし仕事がなかったらどのように過ごしていたのだろう」と思います。

第二は、記者を続けていたら恐らく会うことがなかったさまざまな生活者と接する機会を持てたことです。一人何役もこなす零細企業の社長さん、恵まれているとは言えない処遇にもかかわらず、経験を積み実務に長けた非正規社員、生活のため働かざるを得ない一人暮らしの高齢労働者等々。第二の職業に就いたお陰で、世の中の現実を少し知った気がします。

さらに、一人で仕事をしても会社勤めしていた以前と同じく変わってはいけないこと、一人で仕事をする上で変わらなければならないことが見えたのは収穫だった、と感じます。

継続勤務が第一の選択肢

さて、社会保険労務士として、定年退職後の生活設計のご相談に預かることがあります。そうした場合、これまでの話しと矛盾するようですが、まずは継続勤務を考えてみるよう提案しております。

継続勤務の場合、一般的には給与が60~70%になり、会社によっては、ボーナスまで含めると、40~50%ぐらいまで下がることもあります。定年後もほとんど同じ仕事をするのに処遇があまりに低くなると、とらえる向きもあるでしょう。

しかし、現実にはよほど優れた技術や抜群の営業実績、特別なつてなどがない限り、条件の良い職場というものはそうありません。特に、65歳を過ぎると求人の範囲はぐっと狭くなり、身体にきつく賃金も低い仕事が多くなります。

長年会社勤めをしていると、どうしても思う通りにならないことが多々あり、不平、不満が募って参ります。人事、待遇、上司や部下との人間関係。はた目にはうらやまれる会社役員に昇進した人でさえ、「誰でも替われる歯車だった」と聞いたことがあります。サラリーマン社会はそんなものだと割り切ることが必要です。

一方、30年、40年いた会社は、その方の人生そのものであり、否定的な面より肯定的な面を有し、愛着もあるはずです。齢を重ねて退職を迎えるのは順繰りで、その際、働き続ける意思があるのであれば、継続勤務を第一の選択肢として考慮しても良いと思うのです。会社からの継続勤務の意向調査は、「あなたを必要としています」というシグナルですから。

そして、今までがむしゃらに働いてきたのでしょうから、今度は余裕を持って仕事を楽しむような働き方をしたらどうでしょうか。役職や給与なども変わり、ある意味で一からの出直しです。

生計面では、例えば60歳で定年退職し65歳まで働く場合、新賃金の減り具合によって支給される「高年齢雇用継続給付」や、65歳を過ぎて働く場合の年金との組み合わせで、収入減の一部をカバーすることもできます。

定年退職後、継続勤務する人、再就職する人、起業する人、趣味の世界に没頭する人、それぞれの選択です。ともあれ、皆さまが日々充実した暮らしを送れるよう願っております。 

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. 心身を壊してまでする仕事はありません
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. 時代に置かれていくのを感じつつ
5. 平凡な暮らし 大切に
第3章 避けられぬ加齢が進む中で
1. 健康だと過信することなく
2. 焦ることなく気長に
3. はめを外して大ごとに
第4章 先に退職した者の一言
1. 定年後も働き続けますか
2. 打ち込めるものがありますか

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