新聞記者から社労士へ #17 焦ることなく気長に 

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

普通に暮らし仕事や旅行も

前立腺がんの確定診断が下った後、近くの泌尿器科に戻り、最初に始めた治療はPSAの数値を下げることでした。月に1度医院を訪ね、採尿するとともに、お腹に男性ホルモンを抑制する注射をします。

注射をした後入浴制限などはありません。お医者さんからはバランスの良い食事や適度な運動などを通して「身体と心の平静を保つように」と、ごく普通の指導。ともあれ、じっとPSAの数値が下がるのを待ちます。

治療が効いたのでしょう。2、3か月経つと、PSAは計測不能のゼロ近くに。一方、夏の暑い頃になると、体がほてり、発汗する「ホットフラッシュ」と呼ばれる症状が出て来ました。

仕事で込み入った書類の作成や、小難しい労働、社会保険関係などに関する本を読んでいると、突然じわりと汗が出てくるのです。汗をかき、夜中に起きることもしばしばです。発汗の可能性については、事前に説明を受けていました。ホルモン注射で男性ホルモンが低下し、体温調節にかかわっている自律神経のバランスが崩れ、不具合が出てくるといいます。

ホルモン注射に加え、家族が探してくれた近くのクリニックで温熱療法を受けました。がんが熱に弱い性質を持つことから、ラジオ波で患部を43度程度まで加温し、腫瘍をアタックするとともに、体を温め免疫力を増強するとされる治療です。月3回程度、1回40分。時々熱くなり過ぎたときは、看護師さんを呼び、調整してもらい続けます。

ホルモン注射による発汗が気にかかるとは言え、普通に暮らすことができます。いらいらせず、リラックスするよう努め、仕事をこなし、旅行などにも出掛けていました。ツアーで九州を訪ねた際、知り合いになったひと回りぐらい年上の会社顧問。当方と同様、前立腺がんの経過観察中で「ホルモン注射をしている」と聞き、親近感を覚えた次第です。

根本治療の選択を迫られる

PSAがゼロ近くなっても、がんが消えたわけではなく、縮小しただけ。ホルモン注射を長く続ければ副作用が強くなる可能性もあり、根本的な治療が必要です。

「そろそろ治療方法を決めなければ」
「手術するか、放射線治療か」

注射を始めて1年が経過した頃、根本治療の選択を迫られることになりました。

パソコン検索や知人からの情報などから、手術、放射線治療のメリット、デメリットを集め、選んだのは宮城県南の病院で臨床がスタートしていたトモセラピー。トモセラピーは、CT(コンピューター断層撮影)と放射線治療器を組み合わせた装置で、治療の度にがんの位置を確認、ピンポイントで患部だけに放射線を照射し、周りの直腸、膀胱など他の臓器を傷付けないようにする療法です。

事前に下半身の型取りをして、治療台に乗って放射線の照射を受ける際、下半身が固定され毎回同じ位置になるようにします。腹部、腰骨に油性マジックで目印を付け、入浴の際など、そのマークが消えないよう注意するよう促されました。

治療はびっしり8週間。土曜、日曜、祝日を除き、毎日行われます。午前10時過ぎ開始のため、自宅から朝7時台のバスで出発し、地下鉄、JR、バスの乗り継ぎ通院することにしました。 

指導されたのは、毎朝の排便、排尿と飲酒をしないこと。膀胱や直腸などの位置にずれが生じ、放射線が当たってしまうリスクを避けるためです。さらに治療1時間ほど前に350~400㍉㍑の水を飲むよう言われ、駅に下車すると、毎日ペットボトルを買うことを習慣づけました。

治療台に乗るのは10分から15分。「うまくいっていますよ」。放射線照射が終わる毎に、お医者さんが画像を示してくれたのは心強い限りです。治療は痛くもかゆくもなく、小用が上手くいかなくなる副作用なども出ませんでした。

早寝、早起き、禁酒、健康生活そのものです。「やればできる」。達成感がありました。会社入社以来、最大の節制生活です。トモセラピーの最終日の翌日がちょうど東京にいる長女一家の引っ越しの日でした。治療が終わり、その足で新幹線に乗り、上京。お手伝いをできたのは幸いです。

現在は街のクリニックで3か月に1度のPSAを測る経過観察中です。放射線治療を終えて6年になりますが、数値は1台を保って何とか落ち着いています。

上手に付き合っていくほかない

前立腺がんは、元々西欧諸国に多く、最近は日本でも急増し、動物性脂肪の食事が関係しているといわれます。男性のがんでは、肺がんに続いて2番目に多いそうです。加齢に伴い罹患率が上昇し、高齢者のがんとされており、祖父、父、叔父、兄らが前立腺がんだと罹患率は高まるデータも。

こうして見ると、加齢と遺伝が要因なのだろうかと考えざるを得ません。治療中、肺がんや食道がんの方たちとお話しする機会があり、がんのうちでも前立腺は軽い方だと認識しています。

PSAの数値が気にならないと言えば嘘になりますが、数値ばかりを気にしていると心が暗くなり、元気が出ません。気長にお付き合いするしかないのでしょう。加齢は宿命であり、誰も避けることはできません。一病息災の言葉通り、前立腺がんとは気を付けながら上手に付き合っていくほかなさそうです。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. 心身を壊してまでする仕事はありません
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. 時代に置かれていくのを感じつつ
5. 平凡な暮らし 大切に
第3章 避けられぬ加齢が進む中で
1. 健康だと過信することなく
2. 焦ることなく気長に
3. はめを外して大ごとに

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