【加茂青砂の設計図】 都会に演奏に行くのではなく、男鹿半島に「聴きに来てもらう」意味とは

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

土井敏秀】山に入って、自分の確かな居場所を得た佐藤毅さん(47)には、どうしても踏み出せない、いや踏み出さない方がいいだろう、1歩がある。「コメの収量は今年、ちょっと増えそうですが、『お金』にはしたくないです。1株1株、1本1本を時間かけて、丁寧にやったもんだから、愛情がこもっている気がするんです。そのコメを何かのお礼に誰かにあげるのはいいんです。その米を材料に何かを作るのもいいんです。値段がつくのがちょっと……売ることができないんです」

1年中、水を張ったままの水田だからか、昨年刈った後の株から春に、再び芽を出した。2株あった(男鹿市五里合琴川)

小さく小さく、それぞれに作っていく。耕作放棄地を手作業で掘ると、昔に掘った溝が分かるし、自然そのものがどこに向かおうとしているのか、何を手伝ってほしいのかを確かめながらできる。画一的ではなく、それぞれの環境に合わせる。「組織を作るとやりづらい。自分で考えなくなってしまうから、何もできなくなるんです」

「私の周りだけじゃないと思うなあ。都会に住むのがいやになった人たちは多いですよ。自給農業+ワインの輸入という夫婦も東京から引っ越してくる予定です。『移住促進』を目的に、行政も都会でイベントを企画したりしていますが、1回参加して分かったことがあります。そういったイベントに来る人は、話を聞くだけで、移ってはこないですね。やはり、個人的なつながりで、実際の現場を見にきて、環境を確かめて決める人がいいんです」

毅さんの周りに集まる人たちも「森へ帰ろうとする人」なのかもしれない。その人たちとの交流で、毅さんの自信は深まっていく。「森へ帰る」意味が将来を見据える。

佐藤毅さんの田んぼでは収穫期、足踏み脱穀機や、もみ殻を風で飛ばす唐箕(とうみ)も大活躍。なので、これは昔懐かしい農作業風景ではありません(男鹿市五里合琴川)

「水のことひとつ考えるだけでも、いろいろなことを知ることができます。杉の木1本がどれだけ水を吸い上げるか、分かります?驚きますよ。だから木1本1本は、すごいエネルギーを蓄えているんです。どう利用していくかをこれから考えていきます。木を切るとその場所に、光が入る、光が当たると、その周辺がどう変化していくかも、見ていて興味深いです。山は活用しないと、例えばソーラーパネルだらけにされてしまう。ソーラーパネルを山の上に設置するためには、農地では使えない強力な除草剤をまくなど、危険です。知らないうちにやられてしまいます」

その心配は、ソーラーパネルではなく、風力発電の方からやってきた。まだ計画の段階だが、大きな力で立ちふさがる。毅さんの「森に帰る」生き方が少しずつ共感を広げてきた、その目の前にである。

毅さんを、コントラバスの演奏家として知っている人は、多いだろう。閉校した加茂青砂小学校(加茂青砂ふるさと学習施設)で開いたイベントでも何度か演奏した。コントラバスを、いとおしく抱きかかえながら弾く姿に、ひとりのお婆さんが、はなったセリフ「私はあの楽器になりたい」は、「名言」となった。

「コントラバスを弾くことも、地元以外の演奏をほとんど断るようにしている。せっかくいいところに住んでいるのに、なんでよそに行かなくちゃいけないのだろう。演奏しに行くのではなく、聞きたい人には来てもらう、というのがいい。ここでしか聞けないやり方にしたい。勉強、練習、稽古などアートでもスポーツでもいいのですが、それをやるためになぜ、都会に行かなくちゃいけないのか。そんなことも考えます。この環境を離れることで、大事な何かを見逃してしまわないかと、大げさに言えば、心配になるんです」

野外イベントで、「専門の仕事」コーヒーを入れる佐藤毅さん。見つめる男の子の目が真剣そのもの(秋田県八峰町・手這坂)

暮らしの中のひとつひとつの気づきが、命を豊かにしてくれる。代々培ってきた暮らし方を、未来の世代に伝えていく。互いに顔が見える範囲でささやかに営む暮らしは、森に帰ることで見えた、柔らかで明るい兆しといえた。男鹿半島への陸上風力発電所建設計画は、その兆しを「守るべき暮らし」に、変えた。堅い決意が必要になった。

初夏に、店を夜間営業(午後6-10時)する「ホタルカフェ」も今年は、より強いメッセージ性を持つ。毅さんが暮らす、五里合琴川地区に毎年夜、淡い光とともに姿を現す、ヘイケとゲンジの2種類のホタルの群れは、この地で暮らす思いを一層、奮い立たさせてくれる。ホタルが包み込む世界に、これからの生き方を見出した人たちを、つないでいく。

「ホタルカフェ」は今年、月の満ち欠けの関係で、6月29日~7月6日,7月18日~24日の2回に分けて、開くという。カフェはコロナ禍で2年間休んだが、今年は多くの仲間が、それぞれの趣向を凝らしたメニュー提供や、イベントも行うという。 (つづく)

環境配慮書を読む①4倍のウルトラマンが12人建ち並ぶ?

「(仮称)五里合風力発電事業」(日本風力開発、本社・東京)は、大型陸上風力発電計画である。大型ってどれぐらいなのか。そこを読むことから始めよう。

まずは広さである。男鹿市の総面積は24110㌶で、そのうち男鹿国定公園は8156㌶。計画が立てられているのは、公園には食い込んでいない。総面積から公園面積を引いた15954㌶内である。事業実施想定区域は約283㌶、区域の中で風力発電機設置予定範囲は約171㌶。よく比較される東京ドーム(約4.7㌶)と比べると、想定区域では約60個分、予定範囲は36個分となる。秋田市の八橋陸上競技場(約3㌶)だと、それぞれ、94個,57個分である。

そこに最大で12基の発電機が立つ。1基の羽根(ブレード、3枚セット)を回転させた(ローター)場合の高さは、最大で172㍍。私の身長で言うと、およそ10人が「組体操」で立ち上がった高さになる。予定地の南東にあり、360度の景観が楽しめる寒風山(354㍍)のほぼ半分である。東京ドーム3個分の広さに1基ずつ、計12基が立ち並ぶ。数字が多くて、頭の中がクラッときた。だって、男鹿に帰ってきた際、「あぁ寒風山だ」と見上げると、だよ、その半分の高さの人工物が12基も立っている?んだよ。何回か検算してしまった。まだ不安である。「計算間違っているよ」と、指摘されたらどうしよう。

「ほんとかな」気分を払いのけるために、ウルトラマンで想像することにしてみる。歴代33タイプが登場した中で、初代ウルトラマン(1966年=昭和41年)の身長は40㍍である。172㍍なら4.3「人」分。みんな器用に肩車しながら助け合って、立っている。最も背が高いウルトラマンゼアス(60㍍,1996年=平成8年)でも、3「人」弱が必要である。そんな「人」が12「人」も、いるわけだ。

大型なのは分かった。すげえな、とも思う。だけど、立っているだけでは、怪獣が日本海から攻め上ってきても、助けてはくれない。身長50㍍のゴジラが暴れていても、風が強く吹けば超低音でうなるばかり。発電の能力はあるのだが、「地元消費」には回されないらしい。その場で力を発揮するわけではない。700㍍しか離れていない所に暮らしていたら……。想像したらもっと、クラクラしてしまった。

計画予定地の地図2種類(仮称・五里合風力発電事業に係る計画段階環境配慮書より)

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