【加茂青砂の設計図】「4年でできたこと」男鹿市の耕作放棄地をシャベルひとつで開墾

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、99人が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

土井敏秀】「山には、行く必要があるんです。山はいつ行っても、行くたびに発見があります」。佐藤毅さん(男鹿市五里合琴川)が、そう強調できる「証明書」は本人の体調である。「山で仕事をした後、ほかの仕事、例えばパンを焼いたり―をすると、疲れます。でも逆に、ほかの仕事をした後に山に入ると、全然疲れないんです」

どの季節でも、「発見の喜び」と次々と出合える。「冬だとですね。積もった雪が、音を吸い込んでしまうのでしょうね。静けさに包みこまれます。立ち木や笹竹が、雪の重みで倒されているところを見ると、昔の道の形が見えることがあるんです。あぁ、あんなとこを、カンジキはいて通っていたんだなあ、と想像が広がります。冬でも元気良く鳴く鳥だっているんですよ。よく響きます」

山の奥で、みんなで楽しく田植え。子供たちの歓声が周りの林にこだまする(男鹿市五里合)

「田んぼは年中、水を張っています。春先にその氷が解け始めたタイミングで、ヤマアカガエルが鳴き始めます。『えっ、まさか』の、ぴったりのタイミング。すると、カエルを狙って、タカの1種のサシバが戻ってきます。冬の間どこに行ってるんでしょうね。不思議なもので、耕作放棄地を開墾すると、サシバが近くの林に巣を作ります。さらに奥を開墾すると、巣はそっちの林にも作ります。生態系のバランスが、うまくできてるんですね。大型から小型までいろんな鳥を見ること、聞くことができるんです」

「新しい芽吹きの春は、山桜の咲き始めがいいなあ。でも、咲く前もいいです。水の中をのぞけば、トウホクサンショウウオも見つけられます。モリアオガエルの交尾まで、目に飛び込んできます」

毅さんの「山」は、最も近いところで、焙煎所から歩いて15分ぐらい。『田んぼをやろう』と、2018年(平成30年)5月、最初のシャベルを入れた、記念すべき場所である。聞いて気付いた。ほんの4年前のことではないか。農耕者としては、まだまだ初心者と言っていいかもしれない。その人が「自信があるように見えますか」と聞ける「自信」をにじませている。山が成長を促したのだな、と納得できる。

ランチタイムは鍋を囲んで。誰もが食欲旺盛(男鹿市五里合)

話を戻そう。毅さんが初めて耕したのは、借り受けた面積4.5アールの耕作放棄地。耕運機を使おうとしたが、すぐ埋まってしまい、掘り出す時間の方が余計にかかったという。カヤの根などを掘り出す、水路を作る―みんなシャベルでの手作業をひとりでやった。今では、ここで作ったコメで家(夫婦2人と小学生2人の4人家族)の1年分を賄えるようになった、という。繰り返しになるが、素人が4年で、である。

次に耕したのは、さらに上った奥の耕作放棄地で約8アール。「ここは今年、友人夫婦がやります。この人は微生物が大好きで、土に愛情を持ちすぎかもしれません。糸状菌(酵母)を増やそうと、持ち歩いているほどです」。去年開墾したのが、もっと山を上ったところにあって、約8アールの広さ。去年はライ麦や大豆を植えたが、今年は田んぼにし、11日に仲間で田植えを終えた。「水を入れっぱなしだと、雑草が生えないし、イトミミズが、土をふわふわにしてくれるんです。トラクターで土を上下させると、下の土の中の雑草の種が出てきて、雑草だらけになってしまう。切り倒したヨシなんかを踏み固めておいた方が、微生物が育つ環境にもなるし、いいと考えてやっています」

男鹿半島の水は、山がため込んだ水で、植物の有機物をたくさん含んでいる。山の奥の方から、下の方に流すために溝を掘る。溝は高さを調整しないと、うまく下流に流れない。ユンボ(パワーシャベル)で掘ろうとすると、ユンボが通ったところが踏み固められてしまう。「大規模にやるわけではないので、手をかける。コンクリート(U字溝など)の溝は、水路を止めてしまう。栄養分などが、土の中を行き来できなくなってしまいます」。毅さんには最早、「素人」という言葉は、禁句である。(つづく)

エッセイ「開墾について話そう」③

男鹿市のJR男鹿駅前の「チャレンジ広場マーケット」に借りた、「屋台の店舗」は2週目も、話題を提供することができなかった。「開墾できる耕作放棄地があります」の呼びかけは、関心を呼ばなかった。今時、見向きもされないだろうな、とは思っていたが、やはり空振りだった。30歳代の父親が「私もちょっと畑、始めたんです。家の裏庭の隅っこですけど。開墾なんて、とてもとても」と、話してくれたのがせいぜいだった。

男鹿市役所「男鹿まるごと課」前に設置された縦覧スペース

実はこの日、姑息にも家の畑からハーブを何種類か、ミニセットにして、持ってきた。ローズマリー、タイムなど数本ずつ1袋100円、別袋でコリアンダー(パクチー)。料理好きの人が興味を持ってくれないかなあ、と期待した。それをきっかけに、ベランダガーデンを楽しむ→週末だけでも、畑作りにいそしむ→耕す→開墾してみたい―という流れをもくろみ、声をかけたのだが……。「私、料理できないんです」「友達に、ですか? 私、友達いません」。最初に、営業トーク撃退法を身につけた人に、出会ってしまった。

とりあえず、挫折しました。加茂青砂集落の耕作放棄地を耕してもらおう、耕すことをきっかけに、この集落を交流の場にして、にぎやかな暮らしの「芽」を育てられないか―は、別の方向から切り開かないと、口先だけで終わってしまう。出直しを図るしかありません。

などと考えていると、「(仮称)五里合風力発電事業」(日本風力開発、本社・東京)が突然のように公表され、その「計画段階環境配慮書」が6月23日まで、男鹿市役所などで縦覧されることを知った。会社のホームページでも読むことができるが、印刷できない。市役所の窓口に出かけた。行ったのが14日、5月24日から縦覧されているが、希望者は私が4人目だという。こういう場所を訪れるのは初めてだが、あまり来ないものなのだなあ、そういうものなのか、という感想だった。会社宛ての意見書は23日が締め切りなので、それはそれとして出しますが、次回からこのコーナーで「メモ『環境配慮書を読む』を掲載します。「開墾を話そう」の出直しが、図れるまでです。

これまでの連載

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