「モンゴル茶ってなんだろう?」から出会った、モンゴル歌姫の豊かな未来への奮闘

小林稔(東北ニューススクールin宮城野)】「モンゴル茶ってなんだろう?」そんな素朴な疑問から始めた、モンゴル茶のイベントの取材。そこで出会ったのは、豊かな未来を夢見て母国の児童教育に奮闘するモンゴルの歌姫の姿でした。

「モンゴル茶」から学ぶ文化や生活

私は、モンゴルと聞くと、大草原、遊牧民、ゲルと呼ばれるテントを思い浮かべます。そして、チンギス・ハーン、元寇等の中世の世界史を彩る東アジア草原の大陸的な勇ましい遊牧民文化を思います。2023年10月25日、さいわい多文化お茶会(生活文化から知る多文化理解)の一講座として「モンゴルのお茶とくらし」が仙台市幸町市民センターで開催されました。

平日にも関わらず女性を中心とした11名の方が参加する中、講師ボルジギン・イリナさんの話に耳を傾けました。中国・内モンゴル自治区出身のモンゴル人女性のイリナさんは、親族が音楽一家であり、イリナさん自身も7歳から歌と踊りを始め、中国の音楽大学声楽科で学んだプロの声楽家で、舞踊家でもあります。そして、モンゴル民謡「オルディン・ドー」の歌手です。

モンゴル茶は「ツァイ」といい、麹菌を入れて発酵させた中国茶を煮出し、牛乳を加え、さらに塩を振り温めた飲み物です。モンゴルの家庭では当たり前においてあるお茶で、人が集まるキッチンやリビングに鍋のままあるそうです。牛、馬の世話を終え家に戻り一息つく時に飲み、食事の際に飲み、学校が近くにある家の子供であれば帰って食事前に飲むとか、取っ手のないお椀に入れて好きなときに自由に飲むお茶です。しかも、牛・羊の肉や、バターを入れたり、おやつや食事の際のスープにもなる万能な飲み物(お茶?)です。冷たいものはなく、温かくして飲むらしい。イリナさんは、モンゴル茶に砂糖を入れ甘くして飲むのが好みだと話してくれました。

私もイリナさんに作って貰ったモンゴル茶を飲ませて頂きました。ミルクティーに似たような味に思えましたが、塩味で整えられているのか、こちらの方があっさりした印象でした。イリナさんを通じて、モンゴルの家庭でごく当たり前に飲まれているモンゴル茶とその飲み方を知ることができ、題目にある「生活文化から知る多文化理解」に役立ちました。

学校建設と音楽を通じ、モンゴルへの支援続ける

ボルジギン・イリナさんは、2000年、日本の民謡や民族舞踊を学ぶために来日し、仙台を中心とした活動を行いながら今年、24年目を迎えます。来日まもなく、宮城教育大学教育学部幼児教育課程専攻で民族舞踊が専門の恩師に学ぶ中で日本の小学校を訪れた際、日本の小学校教育に触れて児童教育にも興味を持ち、故郷の内モンゴル自治区にも日本のような学校を作りたいと考えたそうです。そして日本にいる自分が内モンゴル自治区の子どもたちに支援できることは、モンゴル民謡の「チャリティーコンサート」の収益を小学校の建設費に当てることだとイリナさんは言います。私は「モンゴルのお茶とくらし」も気になりますが、イリナさんが支援活動する「内モンゴル自治区の小学校」に興味を持ち、後日そのお話を詳しく取材させてもらうことにしました。

講師のボルジギン・イリナさん
講師のボルジギン・イリナさん

イリナさんによると、モンゴル人は、中国の内モンゴル自治区に約500万人、モンゴル国に約300万人おり、合わせて約800万人います。現在のモンゴル人には、草原に住む遊牧民の人、町に住む人がおり、子どもたちの中には、家の近くに小学校がないため勉強したくともできない子や、小学校に通うため遠く親元を離れ自立を促される子がいます。そして、苦労して通学しながらも、零下40°の極寒の冬ともなると牛、馬を死で失い、生活に困窮し学費を払えない家庭もあります。

「私も、家の近くに自分の目指す就学先がなく、希望を叶えたものの親元を離れたさびしい幼少期を送りました。日本に来て、児童教育にも興味を持った私は、在日の音楽家仲間で行うチャリティーコンサートを行うことで、モンゴルの子どもたちを支援できないかと考えました」

イリナさんは2002年、チャリティーコンサートの収益金と寄付金を内モンゴル教育委員会を通じて内モンゴル自治区の学校に送る支援活動を始めました。その後、教科書を送る教育支援よりも、就学の機会を作るために教育環境を整えることが大切と考え、学校を建設することによる教育支援を始めました。2006年、中国政府の協力(双方で450万円づつ)を得て、800人の子どもが通う「きぼう学校」を、2010年には「第2きぼう学校」を建て、授業を開始しました。

2009年からは日本、モンゴルの文化や民謡を双方の国に紹介する「音楽は人と人を繋ぐ」活動を開始し、モンゴル国にも活動の場を広げました。具体的には、モンゴルの小学生を主とした子どもたち約50人を、日本に招いて交流し、同じように日本からも子どもたちがモンゴルに行き交流を深める活動を年2回程行っています。今年7月には日本の子どもたちがモンゴル国の首都ウランバードルに行き、音楽を通じ交流しています。また、チャリティーコンサートの収益金を砂漠の草原化を目指す植林活動にも生かすことにも試み、「みやぎ緑の架け橋プロジェクト」として活動しています。

イリナさんの豊かな未来を夢見て奮闘する「音楽は人と人を繋ぐ」活動は、支援する場と共に、活動内容も広がっていくのがよくわかりました。そして、これからの世代を繋ぐ活動にも益々注目されていくことでしょう。

取材後記

2023年11月23日、「音楽で繋ぐ文化交流コンサート」が、かくだ田園ホール(角田市民センター)で行われ、私も家族を連れ参加させてもらった。イリナさんのモンゴル民謡、馬頭琴というモンゴルの弦楽器の演奏を始め、尺八、三味線の伴奏による日本の民謡、舞踊が17曲で行われた「音楽は人と人を繋ぐ」のチャリティーコンサートだ。私は、当日イリナさんから購入したチケットを持ってくることを忘れてしまった。そのことを話すと、受付の若い女性は「いいですよ」と会場へ入れてくれた。イリナさんは、「2010年、あの子が小学生だった頃、モンゴルに行って以来の付き合いです。」と教えてくれた。

イリナさんは、2023年11月5日角田市で開催された阿武隈リバーサイドマラソンにも参加され完走している。ところで、小さい頃「モーちゃんが来るから寝なさい。」と大人に言われたことはないだろうか。「モーちゃん」とは何だろうと思いながらもすっかり忘れていた。インターネットの発達した今、大人になり「モーちゃん」を調べたら、蒙古襲来のことを指しているのがわかった。そういえば、九州から遠く離れた仙台・善応寺(仙台市宮城野区燕沢)にも「蒙古の碑」と呼ばれる板碑がある。モンゴルと日本は、最近のモンゴル力士の大相撲での活躍より昔から繋がりがあり、今も続いているのだ。

文化の異なる人と人を音楽で繋ぐボルジギン・イリナさんのコンサート、精力的で、周りの人を引き付けるイリナさんの活動を応援したくなった。来年2月には東京、横浜でもコンサートを行う予定だそうだ。この記事は、後日2023年11月25日ホテルラウンジでの取材を含めまとめたもので、お忙しい中、快く取材に応じてくれたイリナさんに感謝の意を表す。

*この記事は、仙台市の宮城野区中央市民センターとコラボした市民記者養成講座「東北ニューススクールin宮城野」の受講生の制作した記事です。宮城野区を舞台に活動するさまざまな地域密着の市民活動を取材し、発信していきます!他の記事は下記の画像バナーからご覧ください。

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