茶碗を作ることから始めるお茶会「野点」宮城県村田町寒風沢で開催

【平塚千絵】宮城県村田町小泉地区・寒風沢(かんぷうざわ)の古民家の庭で、参加者がその場で茶碗を作り、焼きあがったばかりの茶碗でお茶会をするイベント「ムラノジ2020」が開かれた。京都を拠点に、全国各地で抹茶と陶芸窯を持参して「野点(のだて)」を開く陶芸家・きむらとしろうじんじんさん(以下じんじんさん)を招いたこのイベント。筆者が実際に体験しながら、主催者にイベントや地域への思いを取材した。

初めて行った寒風沢地区。子どもから大人まで賑わう会場

主催したのは、この地区を拠点に活動をする団体「ブリコラージュ・ソシアル・クラブ」。地域の人たちにアートに触れる機会を提供する活動「かんぷうざわ芸塾」を行っており、今回のイベントもその一環として開かれた。

イベントが行われた寒風沢地区は、仙台市内から車で30~40分ほど、村田町の中心部からは車で約10分ほどの山あいの集落だ。細い山道を上っていくと民家が点在しており、その中の一つが今回の会場となった古民家「ブリコラージュハウス・寒風沢の家」だ。目の前には里山の風景が広がり、時折響いてくる鳥の鳴き声が何とも心地よい。

会場となった古民家(海子揮一さん撮影)
会場から望む風景(武山理恵さん撮影)

あたりの静けさとは対照的に、会場は賑わっていた。まず目を引いたのが、赤いチャイナドレス姿に茶筅を頭につけた長身の男性である。彼こそが、じんじんさんだ。絵付けを終えた参加者の器をリヤカーに乗せたガス窯で焼きながら、合間を見て抹茶をふるまう。

周囲を見渡すと、絵付けに夢中になっている親子連れ、器の焼き上がりを待ちながら周りの山を自由に駆け回ったり、木登りをしたりする子どもたちの姿が見られ、元気な声が響き渡っていた。また、子どもから大人まで、幅広い年齢層のスタッフが、受付や、案内、じんじんさんのサポートなどで活躍していた。生き生きとした表情でテキパキと作業する姿が印象に残った。

人生初の絵付け体験に苦戦

受付を終えると、絵付けする器を選び、釉薬が置かれているコーナーに案内された。色は数種類用意されており、単色でも混ぜても良い。筆者は絵付けが初めてだったので、そばにいたスタッフの女性にアドバイスを受けながら白を選んだ。実際に塗ってみると、釉薬を塗る筆はすぐに乾燥し、色を伸ばすのが難しい。塗っているそばから、塗ったばかりの釉薬が乾いていき、むらができてしまい苦戦した。

絵付けを終えて、器をじんじんさんに託した。出来上がるまでに1時間30分ほどかかるという。それまでの過ごし方は自由だ。周囲を散策し、自然を楽しんでいる様子の人、カメラ片手にイベントの様子や自然を撮影している人もいれば、参加者同士、和やかに会話している姿も見られた。

「社会不安の中、人と連携して何かをする体験を」

なぜ、野点をこの土地で開催したのだろうか。どのような願いが込められているのか。イベントを主催したブリコラージュ・ソシアル・クラブ代表で、寒風沢の住民でもある海子揮一(かいこ・きいち)さんにお話を伺った。

海子さん

ブリコラージュ・ソシアル・クラブは、今回の会場となった「ブリコラージュハウス寒風沢の家」を拠点に、コアメンバー15名で活動している。「普段から様々な価値観の人たちが集まり、創造力を発揮し、寒風沢の自然や文化に触れながら、楽しんで共有できることをしたい」という思いから、2018年に発足した。

主な活動は「かんぷうざわ芸塾」の他、子どもたちの居場所づくりをメインに行う「かんぷうざわ学級」の二本柱で、豊かな感性と多様な社会への理解を育むことを目的としている。今回のイベントは「かんぷうざわ芸塾 野外文化祭」として行われ、コロナ禍の一斉休校以降「かんぷうざわ学級」に通う子どもたちが積極的に関わってくれたという。

海子さんがじんじんさんの野点に出会ったのは2006年。大河原町のえずこホール(仙南芸術文化センター)で野点が宮城県内で初開催された時、運営スタッフの一員としてかかわったのがきっかけだった。場所や、人々と対話し生き生きとした風景が作り出される野点の現場の魅力に惹かれ、以来、2008年から宮城県南各地での開催に携わってきた。その間、リーマンショック、東日本大震災とショッキングな出来事が続いたが、「社会不安の中、人と人が顔を合わせて小さな未来を作り上げていくことが、ライフラインになると感じた」と、多くの人々が関わるこのアートイベントの意義を感じたという。

また、建築家でもある海子さんは、震災で自ら被災したことや、被災地での活動の体験を通して、自然と技術の関係を考え直すことや、新しい災害があったら誰もが身を寄せられ、焚き火をして語り合えるような場所の必要性を痛感したという。そうして5年前に出会ったのが寒風沢の家だった。

今回の開催にあたっては、新型コロナウイルスの影響から、開催や場所選びについてメンバーと話し合いと現地の下見を重ねた。思い入れがある大切な場所で素敵な風景の中、安心して野点を楽しんでもらおうと、団体の拠点を置く村田町寒風沢で開催することに決めた。当日は受付に体温計や消毒アルコールを設置した他、じんじんさんが抹茶を立てるときは、無言のキャラクターの設定にする、茶碗を念入りに消毒するなど他の開催地のガイドラインを取り入れて、参加者が安心して参加できるよう心を配った。

代々引き継がれてきた土地を感じる機会に

目の前に広がる寒風沢の風景を眺めながら、海子さんは「この風景は、自然を切り拓き、守り続けてきた方々の手による造形でもあります。今回のイベントではのんびりと絵付けや、お抹茶を飲んで過ごしながら、土地を守ってきた先人の息遣いを体感してもらいたいという思いがあります」と話した。そして「今後は団体としては、地域の方々の、昔から伝わる知恵を学ぶ機会を作りたい。現代を生きる術として、人間と自然が共存する技術を引き継ぎ、分かち合える場を作っていきたいです。もちろん、野点も続けていきたい」と先を見据える。

焼き上がりが夕暮れ時だったので、夕日を眺めながらの野点となった。手にした茶碗は、触れたとたんに不思議と手になじんだ。不器用ながら、自ら必死で絵付けをしたことで、愛着が湧きあがってきた。

自分で絵付けした写真

里山の夕焼けを見ながら、じんじんさんが点てた抹茶をいただく。寒風沢の自然が作り出す美しさ、ゆったりとした時の流れに身を任せながら、目の前に広がる里山の風景、長年に渡り伝えられてきた、自然と折り合っていく技術など、地域を後世に引き継いでいくことの尊さを感じた。

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