【大学生が記録する3.11】震災と、ふるさと・東松島市野蒜の変化 当たり前を大切に生きる

【大学生が記録する3.11】東日本大震災は、11日で発生から13年を迎えます。「風化」や伝承の危機が議論される中、尚絅学院大学(宮城県名取市)では、当時幼稚園、小学校にいた大学生たちが、ローカルジャーナリストの実践を学ぶ二つの授業で震災を見つめました。自らの記憶を掘り起こし、また被災地の当事者の今を取材し、力のこもる記事を書きました。そして、若者たちは震災を終わらせません。それぞれの言葉で何を伝えようとするのか、シリーズでお読みください。(尚絅学院大学客員教授、ローカルジャーナリスト 寺島英弥)

津波があと少し、階段を上がっていたら

鹿野愛心尚絅学院大学健康栄養学類1年)】「津波が来たぞ―!!」 叫び声が聞こえ、一人の男性が必死に走る姿が家の窓から見えた。2011年3月11日に起きた東日本大震災。当時5歳の私は、ただ母の後ろについて2階に駆け上がることしかできなかった。

ベランダから見た、迫りくる黒い津波、季節外れの雪を降らせる黒い雲。それらを今でも鮮明に覚えている。いつも穏やかで美しかった、ふるさと東松島市野蒜の海が、町のすべてをのみ込んで消し去った。

その日、家には母と生まれたばかりの弟、私と妹、祖父母の6人がいた。午後2時46分。地震で戸棚から食器が落ちて割れる音、家中の物が倒れる音、外で鳴り響くサイレンの音―。今まで聞いたことのない音に驚いたが、涙さえも出なかった。家の前を走る男性の「津波が来たぞ」という声で、家族6人が2階へと駆け上がった。津波は家の中まで浸水し、階段が残り1段のところまで押し寄せた。2階まで津波が来ていたら、あの寒さもあり、助かることはなかったのだろうと今でも思う。

幼心に「命があればそれでいい」

励まし合って一晩を乗り越え、次の朝、皆で外に出た。見えるものすべてが、津波でぐちゃぐちゃにされていた。周りの家はほとんどなくなり、道路の至る所、大きな丸太が転がっていた。家族一緒に避難所のお寺に向かう途中、もう一つの避難所だった野蒜小学校の前で、仕事に行ったままで安否不明だった父と再会することができた。父と祖父が泣いて抱き合っている姿を、初めて目の当たりにした。何かを語ることなく、ただただ泣いていた父と祖父の姿が今でも忘れられない。

父は、津波が引いた夜に一度、車で小学校の近くまで来ていたが、瓦礫の山で通れず、家には来られなかったという。近所の家々が崩壊しているのを見て、私たち家族は助からなかったのだろうと絶望したそうだ。失うものはたくさんあったけれど、「命があればそれでいい」と思えた瞬間だった。

家族一緒に避難所のお寺に向かうことになったが、父に会えてほっとしたからか、その時のことはあまり覚えていない。気づいた時には避難所の中にいて、それからを1週間分の限られた食料と少ない物資を分け合いながら過ごした。

今、新しい高台の街に暮らし

家を失った私たちは、避難所から知人の家、母の実家、仮設住宅と、短い期間に何度も住みかを転々とした。現在は、震災後に高台に造成された住宅街に、新しい家を建てて暮らしている。それまで6年という時間がかかった。昔の野蒜に戻ることはできなかったが、もともと野蒜に住んでいた人たちは皆、新しい住宅街に戻ってきた。

津波による被災の後、JR仙石線とともに高台に移った新しい野蒜の街(野蒜ケ丘)。多くの住民が暮らす=2024年3月7日、東松島市(撮影・寺島英弥)

高台からは新しい野蒜の町を見ることができる。生まれ育ったふるさとは復旧が進み、少しずつ活気を取り戻している。ふるさとは、私にとって記憶に深い思い出がたくさん残っている場所だった。野蒜の浜に海水浴に行ったり、公園で母と妹と遊んだり、祖父母とたくさんお散歩をしたりした。今でも鮮明に覚えている。そんな思い出が詰まったふるさとは、もう元に戻ることはない。悲しさ、悔しさはあるが、東日本大震災という経験があったからこその出会いや、経験もたくさんある。

ふるさとは当たり前にある場所ではない。失ってから気づく美しさ、居心地の良さ、温かさがある場所だ。思い出は自分自身の心に残るが、その場所は永遠に残るとは限らない。だからこそ、ふるさとを大事にしてほしい。失ったものは元には戻らないが、当たり前を当たり前と思わず、今ある幸せを大切に、これからの人生も歩んでいきたい。

文:鹿野愛心(尚絅学院大学健康栄養学類1年)
編集:寺島英弥(尚絅学院大学客員教授、ローカルジャーナリスト)

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