【原亮(東北ニューススクールin宮城野)】仙台市宮城野区の岩切市民センターで2023年11月19日、市民企画講座として連続開催されている「広がれ!スズムシの輪(り~ん)」の第2回の講座が開かれました。講座では「日本の鳴く虫」 と題して東北や全国にいる鳴く虫について講義が行われ、スズムシを愛好する市民から好評の声が上がりました。
日本の文化としての「鳴く虫」
講義では、講師の鈴木理さん(株式会社エコリス)から、万葉集で歌に詠(よ)まれるなど古来から親しまれ、貴族階級では虫をかごに入れたり庭に放つなどして鳴き声を楽しんだり、江戸時代には庶民にも鳴く虫を飼う文化が広がったという歴史について、説明がありました。
鈴木さんは「虫の鳴き声を言語として認識できるのは、日本人とポリネシア人のみ」と話し、虫の鳴き声にはリラックス効果が期待できるという近年の研究成果についても紹介しました。
「鳴く虫」の分布は時代とともに変化している
スズムシのほか、マツムシやコオロギの仲間、ハヤシノウマオイなど、日本に生息する鳴く虫が紹介され、実際の鳴き声の録音を聴き比べが行われました。鳴く虫は、種類によって生息する地域が異なり、近代に作られた童謡「むしのこえ」に登場する虫は、東北では生息しない虫もいるとのことで、鈴木さんからは、東北で現在生息する虫に置き換えた新東北版「むしのこえ」の歌詞も披露されました。
虫が生息する分布は時代とともに変化をしていて、外来種が入ってくる例や南方の虫が北上する例などが挙げられたほか、東北のスズムシについては日本海側で北限が南下している一方で、太平洋側で分布が拡がっている観察結果もあり、温暖化や人の活動の影響など、必ずしもひとつの原因では説明し切れない変化も生じているとのことです。
鈴木さんからは、鳴く虫の文化を継承するためには、在来の身近な種の保護が必要になるかもしれないとの指摘があり、いましか聴くことができない虫たちのオーケストラ演奏を大事にしてほしいとのメッセージが伝えられました。
気づかなかった虫の声
講座の参加者には、スズムシの飼育を行っている愛好家や親子連れの市民など22名が集まり、虫の鳴き声の種類の多様さや、有名な虫でも東北では聴くことができないという点に驚いたという感想が寄せられました。小学生からは「聞いたことのない鳴き声が多くて驚いた。知らなかったことが詳しく知れたので、友だちにも教えたい」と言った声もあり、鳴く虫全般への興味や、東北の虫の生育環境への関心が拡がる場となりました。
また、スズムシの飼育に関して参加者同士が、自分の経験も交えながら活発に意見交換を行う場面もあり、スズムシに対する参加者の高い関心が伺えました。参加者からも「参加者のみなさんがいろいろな思いを持って飼育されていることがすごいと思いました」といった感想も寄せられました。
「すずむしの里づくり」を目指す市民活動
仙台では、古来よりスズムシを愛好する文化があり、江戸時代、宮城野に生息していたスズムシは、その音色の美しさから、将軍家へ献上されるほど有名な存在だったものの、現在では、野生のスズムシを見かける機会はなくなってしまいました。
仙台市では1971(昭和46)年に市民投票によりスズムシが市の虫に制定され、市は1990(平成2)年より、「すずむしの里づくり」を掲げ、杜の都仙台の自然環境を守り、自然で育ったスズムシの音色をまちに復活させることを目指しています。
今回の講座の連携先であり、「すずむしの里づくり」の活動を支える市民団体「すずむしの里づくり実行委員会」は、1994(平成6)年に結成され、現在は18名のメンバーが所属し、事務局を務めている岩切市民センターの館長経験者も、退任後に任意でメンバーとして活動を続けています。
岩切市民センターは例年、多くの市民にスズムシを配付する「スズムシ配布会・交換会」を行っており、センター内にはスズムシの飼育を行う「すずむし室」が設置され、土づくりから丁寧に行われた飼育環境で、スズムシの卵たちが春の孵化(ふか)を待っていました。
幅広い世代に「スズムシの輪」広げたい
こうしたセンターや実行委員会の活動は地域にも浸透を深め、今年は、市内小学校の教員たちにより制作されたスズムシの教材映像が、視聴覚教材の全国コンク-ルで最優秀賞となる文部科学大臣賞を受賞したほか、地元の小学3年生がスズムシのソーシャルディスタンスをテーマに、生育環境と個体数を調べる自由研究を行うなど、スズムシを通じた学びの場が広がっています。
一方で、実行委員会では実行委員会のメンバーの高齢化が進み、今後の活動の継続が課題となっていて、メンバーからは、今回のような講座への参加を通じて、幅広い世代がスズムシや会の活動に関心を持ってくれることに期待を寄せる声がありました。
「広がれ!スズムシの輪(り~ん)」は次回、2024年2月3日(土)に講座の第3回として「スズムシの情報交換会」を行う予定です。参加の申し込みは、岩切市民センターへ電話(022-255-7728)またはセンターの窓口まで。
*この記事は、仙台市の宮城野区中央市民センターとコラボした市民記者養成講座「東北ニューススクールin宮城野」の受講生の制作した記事です。宮城野区を舞台に活動するさまざまな地域密着の市民活動を取材し、発信していきます!他の記事は下記の画像バナーからご覧ください。
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