新聞記者から社労士へ #11 見たい 聞きたい 知りたい

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

小心者のカレンダー

退職して会社勤め時代と大きく異なるのは、収入が減るのと、自身で使える時間が有り余るほど出てくることでしょうか。

有り余る時間については、小心者ですから、できるだけ用事を作って日程を手帳に書き込み、月の半分ぐらいが埋まると安心しておりました。顧問先数社を最低1回訪問、社労士会の相談業務が3回、労働審判が1~2回、研究会や研修会の参加、たまに舞い込むスポットの仕事。これに友人との昼飯会や飲み会が加わります。ときには、新聞の告知欄を見て興味がある講演会などをチェックし、足を運んでいました。

日課としては、自宅を起点に小1時間の散歩コースを3つ設定し、春夏秋は夕刻に、冬は昼に歩きます。周辺には公園がたくさんあり、緑の樹木が生い茂っています。季節によって白いモクレンの花が続く道をゆっくり歩いたり、桜のある公園のベンチで休憩したりします。

なるべく体を動かそうと、朝と夕にラジオ体操第1、第2。1回7分30秒、計15分ほどですが、首や体を大きく回すだけでも、ちょっとは違うかも知れません。

学生、独身の頃を思い出しながら

そうこうするうち、学生時代や入社したての独身の頃、1人夜汽車に乗って知らない土地を訪ねたり、気の合った仲間と東北の山々に登山したりしたことを思い出し、年に3度ほど旅に出掛けるようになりました。日常生活を忘れさせてくれる旅。自由、解放感。新型コロナウイルスの感染拡大で、今はとてもそんな気分になれませんが。

以下は、一昨年夏のアメリカの旅について触れた雑文です。

<アメリカ東海岸の旅>

いつも何処かで戦争をして来たイメージが強い超大国アメリカ。特にトランプ大統領が就任して世界はやけに騒々しくなったと感じています。あまり好きになれない国で、一度も行く機会がなかったので、ニューヨーク、ワシントン、それに独立記念館や自由の鐘があるフィラディルフィアの3都市を巡るツアーに参加しました。

最終日のニューヨーク。友人と地図を片手に炎天下の中、5時間ほど歩き足の裏が熱くなりました。人の波が続きます。身長2㍍、体重100㌔を超える黒人、ターバンを巻いたインド人、声の大きい中国人、南米などからの移住民、多民族が入り混じった国です。街角にはホットドックやピザ、アイスクリームを販売する屋台が多数並び、働いているのは、ほとんどが有色人種。チケット売り場やセキュリティーに当たる人も同じです。白人は管理、事務系。格差社会の一端を見た気がします。

ニューヨーク・タイムズスクエア街を行き交う人の波。世界各国の人が入り混じる=2018年7月

アメリカは「大きい」「広い」「高い」が特徴でしょうか。歩き疲れ、ピザ屋に入り、友人とビール、オムレツと、各々野菜、キノコのピザを注文すると、女性店長が「ピザはどちらか1つの方が良い」とアドバイス。出て来たピザは直径20㌢以上あって皿をはみ出し、2人で半分も食べられません。

そう言えば、昨夜泊まったホテルのベッドも大きく、166㌢の小柄な身にはもったいない限りです。両腕を存分に広げられる幅があり、奥行きは2㍍を優に超えているでしょう。あまりに広いベッドで、神経が高ぶったのか寝つきが悪くなりました。

高速エレベーターで一気に67階まで上って、マンハッタンの高層ビル群を眺める「トップオブロック展望台」。料金は税を含めて39ドル11セント。当時の為替レートで約4500円。コーヒーでも付いているのかと思ったら、約20分眺めて帰ってくるだけ。旅行客が病気や怪我をしたときの医療費も高いようです。「病院に診てもらうと目の玉が飛び抜けるくらいですよ」とガイドさん。 

9・11テロ以来、セキュリティーはより厳しく、何処に行っても手荷物検査。ハンカチや財布類まで出さなければなりません。ワシントンのホワイトハウス前には、数台のパトカーが張り付き、屋上にはスナイパーも常駐。空から大統領の警備に当たるヘリが上空を駆け回り、物々しさを感じました。「百聞は一見に如かず」の旅でありました。

1粒で3度美味しい

旅は、1粒で3度美味しく味わう楽しみがあります。

1度目は、行く先の下調べ。と言っても、難しいことは頭に入らなくなっていますから、パソコンでガイドブックや小説、新書などの類を検索し、近くの図書館分室に予約、借りて参ります。「こんなこともあったのか」。調べ出すと、いろいろな発見があるものです。関連する古い映画などを会員登録しているレンタル店で探し出す楽しみもあります。

現地を踏んで歴史や風土、文化、食に触れるのが2度目の美味しさ。例えばトルコの旅。モスク(礼拝所)からその日の礼拝時刻を知らせる「アザーン」が響きわたり、眠い目をこすりながら目が覚めました。夜明け前の4時、5時頃、イスタンブールでも地方都市でも。街中ですれ違う女性たちは、顔を隠すヒジャブを巻いています。「ここはイスラムの国でした」。

トルコの第4の都市ブルサのモスク(礼拝堂)に参集したヒジャブを着けた女性たち=2019年7月

楽しい人との出会いもあります。ツアーには79歳と80歳の男性がそれぞれ1人参加。ホテルの庭でベリーダンスを熱演する女性とリズムを合わせ楽しそうに踊っていました。齢を取っても、「かくありたい」と元気をもらった次第です。

帰った後が3度目です。雑文を書いたり、撮影した写真を整理したり。旅行先のテレビ番組などは見逃しません。新たな関心が湧き起こることもあります。バチカンの礼拝堂にあるミケランジェロの「最後の審判」とカンボジア・アンコールワットの壁画「天国と地獄」。悪行を重ねた人間の行き着く先のすさまじい世界を見てしまった感じです。頭の片隅にもなかった死後の世界。

当方は、長野県生まれで、宮城県大崎市(旧古川市)育ちの田舎者。見たり、聞いたりするのが大好きです。初めて知って驚くことも度々です。少しばかりのお金より記憶の方を残そうと、見知らぬ地との出会いを大切にして参りました。

会社勤め時代の出張を含め、47都道府県中、徳島、愛媛、高知の四国3県と九州の佐賀県に行ったことがなく、コロナが収束したら訪ねるつもりです。旅好きとしてはこの時期になぜ、「Go To トラベル」キャンペーンか疑問です。人がごちゃごちゃいるインドや、謎を秘めたロシアも計画していましたが、両国はコロナ感染者数が世界第3、4番目。もう実現することはないでしょう。

ともあれ、当方も生活スタイルの修正を考えざるを得なくなりました。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. まずは働きがいのある職場環境
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ

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