【寺島英弥(ローカルジャーナリスト・名取市在住)】東北中央道って、ご存じだろうか。相馬市から阿武隈山地を横断し、福島市を経由して奥羽山脈の栗子峠を越えて米沢市を結ぶ新ルート。このうち相馬~福島間の自動車専用道路が今年4月に開通した。東日本大震災の後、太平洋岸の被災地を支援する復興道路、また内陸への避難道路として、およそ10年、完成を早めて造られた道だ。そればかりでなく、東北の海と山をつなぐ新しい観光道路としても魅力がいっぱい。相馬出身の筆者が、地元の友人たちと米沢へ秋のドライブに出てみた。
魅力2倍の新観光ルート
わが古里、相馬は海の街だ。震災の津波で浜は大きな被害を受けたが、福島県浜通りで有数の漁港をはじめ、景勝地・松川浦と旅館街、原釜・尾浜海水浴場が復活し、海の土産物店「浜の駅 松川浦」も昨秋にオープンした。待ち望む復興は、大勢の観光客に再び来てもらってこそ。ようやくコロナ禍が落ち着いた秋からの誘客に、相馬商工会議所会頭の草野清貴さん(75)も期待を懸け、その視線は山の彼方に向く。
「東北中央道が米沢までつながり、山形の人たちに、相馬の浜に来てもらえたら。夏の海水浴だけでなく、公式ビーチバレー場があり、松川浦の大洲公園の散策、サーフィンも楽しめる。素晴らしい朝日、夕日の眺めも、宿泊して楽しんでほしいね」
新たな夢も描けるようになった、と草野さんは語る。「大型船が寄港、停泊できる相馬港に大型クルーズ船を誘致し、バスで相馬と米沢をつないで、海と山の景観と特産の味、歴史の魅力を、一日の往復で満喫できる観光ルートを開拓したいんだ」
草野さんの提唱する、海と山、魅力2倍の「一日往復の旅」を実際にやってみようではないか―。相馬在住の友人たちに声を掛け、10月のある週末、米沢までドライブした。
あっという間の時間感覚
車を出してくれたのは、相馬の名所の一つ、ビートルズ・マニアのカフェで知られる「中村珈琲店」オーナーの桜井茂紀さん(65)と妻一枝さん(4月27日の『福島県沖地震、地元発の耐震工事が守った築75年の相馬市「ハイカラヤ」』参照)。2人の音楽仲間の池田精一さん(同)も参加した。
市中心部にある店の駐車場を出発したのは午前9時25分。街はずれの相馬インターチェンジ(IC)から東北中央道の相馬福島道路に乗って一路、西に向かう。時速は70~80キロ。前後の車はまだまだ少なく、順調に霊山IC(9時38分)、伊達桑折IC(10時2分)を過ぎ、福島ジャンクション(JC)から1区間だけ東北自動車道を経由して、福島盆地の桃畑の景色の中を大笹木ICで再び東北中央道に乗る。
道は奥羽山脈に分け入り、栗子トンネルを通って米沢市に入る。スキー愛好者におなじみの栗子スキー場、米沢市営スキー場が車窓を過ぎ、やがて盆地の風景が広々と開けた。10時40分、目的地の米沢中央ICに到着。相馬からの所要時間は1時間15分、道は快適で景色の変化を楽しめ、あっという間という時間感覚だった。
謙信公に敬意を表し
ICそばの道の駅「上杉の城下町 米沢」に車を止めて一服だ。入ってすぐ目に留まったのが、米沢エリアの名所、名店、観光地などの写真入りの「まちナビカード」が壁一面に並んだコーナー。来訪者たちが写真をあれこれと品定めしては、一枚一枚、選んでゆく。
筆者もカードを手に取ってみると、米沢牛レストラン「ドリンク1杯無料」「ランチタイム100円引き」、酒造資料館「高級酒試飲一杯サービス」、小野川温泉の旅館「ご宿泊料金10%OFF」、上杉伯爵邸「食後のコーヒーか抹茶サービス」、観光果樹園「ぶどう狩り お土産10%OFF」、老舗酒店「米沢名産うこぎ茶1本進呈」―。裏面にはミニ観光情報、連絡先、アクセス地図があり、誘客効果抜群のアイデアだと思った。
そこからまず地元の歴史散歩を楽しもうと、旧米沢城址の上杉神社に足を向けた。戦国の英雄にして米沢藩祖、上杉謙信に敬意を表して参拝し、謙信様の雄姿の銅像と念願の記念写真。大正ロマンあふれる上杉伯爵家邸宅の庭園を散策。隣に立つ立派な市立上杉博物館では豪華絢爛な国宝「上杉本 洛中洛外図屏風」(織田信長が謙信に贈った)や、名君上杉鷹山(9代藩主)の伝記ドラマ映画もたっぷり楽しめた。
米沢牛の味と赤湯のブドウ
時計は13時。「ちょっと奮発して米沢牛を味わおう」と、当地で知られたレストラン「金剛閣」へ。筆者が食したのは、米沢牛鍋肩ロース定食(3080円)。ツヤツヤのお肉が鉄なべで煮えてゆく様を目で楽しみ、柔らかな歯ごたえ、舌でとろけるような味わいを満喫した。友人らは特上すき焼きセットを注文。そちらもうまそうだった。
デザート、コーヒーでゆっくりして14時半。三つ目の目的地は、米沢からちょっと北に足を延ばして南陽市赤湯。名産のブドウ畑に囲まれた老舗の果樹卸店。大きな倉庫いっぱいに採れたてのブドウが並べられ、本場ならではの品種の豊富さにびっくりし、選ぶのが大変。筆者は友人夫婦お薦めの「ゴルビー」という大粒のブドウを味見し、その濃厚な甘さにびっくり。旬の季節は終わりだったが、土産に買い求めた。
東北の新しい交流へ
そこから米沢に戻り、再び東北中央道を一路東へ。相馬着は17時だった。まだ米沢の魅力のほんの一端だが、たった一日のドライブでこれだけの旅ができた。米沢の人も、同じように相馬の浜に旅してほしい。秋の松川浦の旅館、食堂は震災後、いまが季節の「はらこめし」、相馬名物「ホッキめし」をはじめ、海の幸をふんだんに生かした「復興チャレンジグルメ」創作に取り組み、のぼりを立てて来訪客を待つ=食べる | 相馬市観光協会オフィシャルサイト (soma-kanko.jp)=。コロナ明けの秋。東北の東と西、そして南と北の地域を結ぶ新しい観光交流が広がれば―。
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