【ウクライナ人ジャーナリスト特別寄稿】「勝利まで、終わりない一年 」ウクライナ侵攻から一年

プーチン政権下のロシアによるウクライナ侵攻から、2月24日で丸1年が過ぎた。両軍による戦闘は現在も激しく続き、収束はいまだ見えない。国民挙げての抗戦や家族離散、ミサイル攻撃による被災など苦難を背負うウクライナの人々の今の思い、この先に見据えるものとは―。TOHOKU360に寄稿してきたウクライナ人ジャーナリストが伝えてくれた。(原文英語、訳・寺島英弥) 

【アンドリー・バルタシェフ(米ニューヨーク在住)】2023年2月24日を、ロシアとウクライナの戦争が始まってから1年―と誰もが言う。が、ウクライナ人は賛同しない。戦争はずっと長く続いてきたからだ。少なくとも2014年の春から、あるいはもっと早くから(注・2014年は、ロシアがウクライナ領クリミア半島を一方的に併合、東部ドンパス地方では親ロ派武装勢力が蜂起した。ウクライナ紛争と称された)。ゆえに、こういう定義なら賛同しよう。2023年2月24日は、ロシアがウクライナですでに何千人もの命を奪い、何百もの街を破壊しつくした大規模侵略を始めてから1年である、と。  

ミサイル攻撃の衝撃、そして反撃 

私を含めて大半のウクライナ人は、そんな事態が起きようとは想像もできなかった。“兄弟”のような存在と思っていた隣国のロシア人から、真夜中に野蛮な攻撃を受ける悪夢を見ようとは―もちろん、それは軍を指す―。そして、ロシアの市民もまた(プーチン大統領が言う)「ナチス化したウクライナ」とか、ロシアを狙った生物兵器のNATO秘密研究所がウクライナにある、といったプロパガンダの経文を支持しようとは。 

侵略の最初の数時間、ウクライナ人は激しい衝撃を味わった。ロシアと国境を接する東部―私の故郷、ハルキウの街もある―の人々は、その攻撃の最初の被害者になった。そして、混乱とパニック、絶望と恐怖の中で逃げるしかなかった。 

ウクライナの首都キーウの自由広場に突き刺さったロシアのミサイル。バルタシェフさんに最近、現地の友人から送られてきた写真だ(撮影・Volodymyr Chistilin)

そして男たちは、家族をより安全な地域に避難させ、国を守るために戻った。ある者はウクライナ軍に入隊し、またある者は、いわゆる国境警護の部隊に入り。また多くの男女が、市民を生き延びさせるためのボランティア活動を始めた。すべてのウクライナ人にとって、2022年4月24日は決して終わっていない。 

幻の「3日間戦争」で1年を失ったロシア 

戦争の1年の結果を言うならば、ロシアは絶望的に負けているのは明らか。クレムリン(プーチン政権)は、ウクライナの首都キーウを3日間の軍事行動で落とそうと目論んだが、失敗した。彼らが「弱い」と思い込んでいたウクライナ軍が、実際は強く、作戦や動きは抜け目なく、装備も近代化されていると知ったのだ。 

ウクライナの市民たちは「平和」を請う代わりに、自分たちの軍に貢献する活動を始め、それが生きることの意義になった。 欧州の国々もロシア産のガスと石油なしの生活を模索し、前例のない軍事的、人道的な援助をウクライナに提供し、予想を超える結束を示した。その間にロシア人たちは、何万人もの兵士が銃火の中に投げ出された―兵士や装備の質によってでなく、人の数によって打ち勝たんとする無謀な戦術のために。 

ロシアとの戦争が1年を迎えた2月24日、米国ニューヨークでウクライナ人コミュニティが催した大集会。妻ガンナさんと参加したバルタシェフさん

ロシアのプロパガンダも途方もない作り話を生んでいる。「ウクライナの戦士が打ち破り難いのは、秘密裏にNATOの軍人たちが参加しているためだ」とか、揚げ句に「毒のある蚊を生物研究所が生産し、ロシア軍を攻撃させている」とか。 人々の命に関する事でなければ、あるいは映画の中の出来事でもあれば、笑えるだろう。が、それらは(注・逆の立場で)現実に起こることだから気味が悪い。 

そして、あの2月24日は、プーチン大統領が希望したものとは完全に逆の結果を、1年後にもたらした。ウクライナ人はかつてなく強くなり結束した。過去のソビエト連邦の負の遺産だったロシア語―かつてウクライナ人の8割が話した―は、すっかり母国語のウクライナ語に切り替えられた。 

そして、ウクライナ政府とゼレンスキー大統領への国民の支持率は100%に達している。以前は統治者への信認をめぐって問題が絶えなかったウクライナにとって、歴史的な出来事だ。 

ウクライナの人々は(注・ロシアのミサイル攻撃による)電力喪失と暗闇の中でも、そして“ロシア人”なしでも生きることを学んだ。言葉を変えれば今日、過去にないほど、ウクライナ人は勝利することに一心になっており、それを手にするのは疑いない。     

ウクライナと人類の未来 

別の見方をすれば、戦争の1年は、ロシアに対する西側世界の政治を完全に変えた。これまで慎重な態度だった国々ですら、ロシアと袂を分かたないまでも、この「テロリストの国」から顔をそむけようとしている。ウクライナへの軍事支援のパッケージも莫大であり、引き返せない境を越えた国際社会の決意を意味するだろう。 

ロシアには、自ら戦争を終わらせて面子を保とうという選択はない。ウクライナ人は全面的な勝利と、クリミア半島を含めてロシアに占領された領土の完全な回復を必要としており、そこに妥協は一切ない。 

クレムリンはそのことを理解しており、それゆえ、世界で“和平”を取りもとうという活動が生まれていることも分かる。ロシアのマネーで雇われて、「 NATOがウクライナへの武器の提供を止めれば、戦争は止められる」と説く政治団体や公的機関もある。また欧米には、いわゆる“反戦”活動もある。だが事実は、ロシアが得意とする新手の「ハイブリッド戦争」の一端に見える。 

米国ニューヨークのウクライナ語ラジオ局から、同胞の声を伝えているバルタシェフさん(左上)と仲間

もちろん、ここには別の暗黒面もある。ウクライナは疑いなく勝つだろうが、その犠牲の代償はいつ、どう支払われるのだろう。ロシアは、イランや中国の水面下の支援を受けられれば、この戦争を何年でも続けられるのだ。プーチンは、ロシアの国民の生死など気に掛けていない。そしてロシアの国民ちは、抗議の声を上げられぬよう洗脳されている。 

もし、西側の諸国がウクライナへの支援を低減させるようになれば、人類は過去の歴史に例を見ないような、長く破滅的な軍事対立に直面するだろう。そして、この地球上で誰も安全を感じることは決してできなくなる。私たちはそんな事態を必要としているだろうか? 

アンドリー・バルタシェフ(Andriy Bartashev) 
1974年生まれ、ウクライナ・ハルキフ出身。同国で、Kharkiv Radio“Simon”、media-group “Objectiv”、“Region”Broadcasting Company、“1+1 Media TSN”のリポーター、エディター。2014年の民主化運動「マイダン革命」などを報道。その後渡米し、フリージャーナリスト、“Domivka Ukrainian Diaspora Radio”(ニューヨークのウクライナ語放送局)ボランティア・エディター。 

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