【文・写真/古山裕二通信員=岩手県北上市】「北上市では、鯉のぼりにうなぎも泳がせているらしいと聞いたのですが」と電話で問い合わせたところ、「うなぎだけじゃないよ。なまずも泳がせているんだから―」。なぜ、あの黒い姿のうなぎやなまずが?その疑問の答えは、「北上展勝地さくらまつり」の中にありました。。
満開の桜に彩りを添える300匹の鯉のぼり
毎年4月中旬から5月初旬にかけ見ごろを迎える東北地方の桜。それは、鯉のぼりの季節とも重なっています。毎年満開の桜並木に彩りを加えているのが、北上展勝地の鯉のぼりです。
電話で問い合わせた際、答えてくださったのは「北上川に鯉のぼりを泳がせる会(以下、泳がせる会)」の髙舘博人(たかだてひろと)会長。後日、現地を案内していただきました。
「泳がせる会」は1987年に発足。家庭で使われなくなった鯉のぼりを集め、北上川の上空に泳がせてみようと発案したのがきっかけだったそうです。以降30年近くにわたり、北上展勝地で行われている「さくらまつり」の時期にあわせ実施し、来場者の目を楽しませてきました。川に鯉のぼりを掲揚する取り組みについて、「いまでは各地で行われているけれど、たぶん全国でも最初のほうだったと思うよ」。展勝地へと案内してくださる道すがら、髙舘さんがそう話してくれました。
会場へ到着すると、満開の桜の隙間から色とりどりの鯉のぼりが目に飛び込んできます。川の上に張られた200メートル近くあるワイヤーロープが2列。そこに約300匹の鯉のぼりがひらひらと風に舞っていました。
「うなぎのぼり」と「なまずのぼり」のナゾに迫る
肝心のうなぎのぼりとなまずのぼりはどこに?髙舘さんが指差して教えてくれた場所は、桜並木から最も手前のところでした。わかりやすい位置に掲揚されており、記念撮影している方の姿も見られます。
髙舘さんより提供いただいた「泳がせる会」の20周年、30周年に発行された記念誌によると、まず「なまずのぼり」が1999年に仲間入り。北上市のなまず料理店「喜乃字」さんにあったものを寄付いただいたのだとか。泳いでいるなまずのぼりを見つけると幸せが訪れる、という噂も当時流れたようです。そして「うなぎのぼり」は2006年に加わりました。景気がうなぎ昇りになるよう願いを込め、地元の染物屋さんに依頼した特注品だったそうです。
テレビや新聞などで報道されたこともあり、近隣では知られている存在のうなぎのぼりとなまずのぼり。しかし、観光遊覧船のガイドさんが乗船客に伝えているほかは、とくにこれといった案内などもありません。ときおり近くを通りがかった子どもたちが「うなぎが泳いでいるよ」と上空を見上げたりしていますが、気づかないまま会場をあとにした方もいたかもしれません。
「この鯉のぼりはなくすわけにはいかないし、若い人たちも会に入ってきている。安全にやることが一番。危険がないよう、いろいろなことを引き継いでいかないといけない」と、今後について語る髙舘さん。
毎年、地域一体となり鯉のぼりを泳がせる結束力や実行力、そして少しの遊びごころ。ただ、鯉のぼりたちは主役ではなく、まもなく開園100年を迎える北上展勝地のあでやかな桜並木にそっと寄り添っているようでした。うなぎやなまずたちが泳ぐ北上市の鯉のぼりは、さくらまつりの終わる5月6日まで掲揚される予定です。