井戸の奥の「まほろば」 京都の劇団が震災をモチーフに演劇上演

7月22日、『せんだい演劇工房10-BOX』で、京都を拠点に活動する劇団『烏丸ストロークロック』による演劇短編、『まほろばの景』が上演された。在仙の俳優を迎えて、地域の枠をこえた試みとして創作された同劇。作中で登場する井戸は、被災地で聞き取りを続けてきた『せんだい3.11メモリアル交流館』の田澤紘子さんの話から着想を得た。

「瓦礫の中から見つけた自宅の井戸を見つめて『なんか夢みたいだな』と、あるおじいさんが言ったらしいのですが、それを聞いてどう捉えていいかわからなかったんです」と、作・演出の柳沼昭徳さん。

仙台で震災をモチーフとして扱うことに怖さもあった。一週間という短い期間での創作。台本が完成したのは上演前日の夜だった。

「臆していると何も語り合えなくなる」

役者と演出家、徹夜で続いた稽古。繊細なディテールを積み重ねる先に掴めない何かを掴もうとする。もっともっと、井戸の奥に手をのばすように、もっともっと、・・・もっと。

物語のクライマックス、井戸をこじ開けた弟は、その奥底、水面のきらめきの中に神楽の面を見出す。

どんどんどん、からかっか、どどんどどん、からかっかっ・・・、どんどんどん、からかっか、どどんどどん、からかっかっ・・・・・・

劇団の被災地取材に協力したメモリアル交流館の田澤さんは、劇の鑑賞後、言葉をつまらせハンカチで目を押さえた。

「昨日お話をうかがったお年寄りが『昔はよかった』とおっしゃっていて。じゃあその方の今ってどういうものなんだろうって・・・」

被災地の現実を目の当たりにしてきた田澤さん、言葉にならない思いが物語に重なった。
言葉が唇を伝うとき、取りこぼしてしまう思いの多さゆえ人は、歌い、踊り、描かねばならない。物語が終わって舞台上に残ったのは、淡い淡い救いの予感。 割り切れない現実を前に希望を語る言葉を失っても、何かを創造し、表現することによって私たちは、手をのばすことができるのだ。井戸の奥のまほろばへと。

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