【水沢美奈子=ニューススクールin雫石】秋田市の中心部から直線距離で約6キロ、「秋田市大森山動物園~あきぎんオモリンの森~」は、日本海を臨む大森山公園の中にある。ゾウやキリン、ライオンやトラ、カピバラやレッサーパンダもいる、親子連れに人気のスポットである。ここで、動物園とアートを融合させようというプロジェクトが進行中だ。
色とりどりのアートでいっぱいの動物園
動物園のゲートをくぐると花壇の中に、今は絶滅したとされるニホンオオカミをかたどったワイヤーのオブジェがある。その先に、お尻をこちらに向けて縦長に並んだキリン・トラ・鷲とペリカンのオブジェが迎えてくれる。このお尻のオブジェの裏側に顔はない。園内のあちらこちらで、その横に看板を付けた後ろ姿の動物たちが誘導役を担っている。「お尻だって愛らしいのよ」と言わんばかりだ。いたるところで色とりどりのアート作品を見られるのも、この動物園の楽しみのひとつである。
生き物のいる場所を軸に、アートに広がりをもたせる
小松守園長によると、プロジェクトの始まりは十数年前。小松園長と秋田公立美術大学(当時は短大)の副学長で、現在は学長補佐を務める渡邊有一さんとが、酒の席で「アートとハートのコラボレーションができないか」という話で盛り上がったことだった。ハートはいのち、つまり動物・生物を指す。
実は、この時まかれた種が芽を出すのは、何年もたってからになる。美大のベ・ジンソク准教授から「園内に学生の作品発表の場を作れないか」という打診があったのがきっかけとなる。当初は小規模な活動だったが、2015年からは秋田市の予算がつき、正式なプロジェクトとなった。
小松園長がこのプロジェクトに懸ける思いには熱いものがある。「動物園を訪れる人々はみんな何かを感じるためにここに来る。(何かを)『感じる』、それはまさにアートそのものだから、動物園とアートはとても近い存在だ。今は学生たちの作品が中心だが、プロの作家が進んで作品を提供してくれる場にしたい」と話し、「動物園を使って、プロ・学生・子どもたちという作り手の層ができることで、生き物のいる場所である動物園を軸に、アートに広がりと厚みができる。いずれは、動物園だけでなく大森山公園全体をアートの森にしたい」と情熱を語った。
園では、子どもたちの写生会や動物の模型をつくるワークショップも開催されている。ここから未来のアーティストが生まれ、動物たちと作品がコラボすることで、さらに大きな感動を与えられるだろう。
生きているいのち・亡くなったいのち、両方をいつくしむ
多くの動物達が生きている動物園はまた、多くの動物達を見おくった記憶をとどめる場所でもあり、こうした記憶をアートで表現する展示もされている。
生まれて間もなく骨折をしてしまい、義足となったキリンの子「たいよう」。義足は負担が大きく骨折から87日しか生きられなかったが、多くの人に命の大切さを教えてくれた。正面ゲート近くに、「たいよう」とその母「モモ」の像が設置され、「モモ」が「たいよう」をやさしく見守っている。
また、イヌワシの「鳥海」は、ひなの時に保護されて動物園に来た。やがて元気になった「鳥海」は、2017年4月に亡くなるまで、47歳まで生きた。動物園で飼われていたイヌワシとしては最長寿の記録である。動物園では、絶滅が危惧されているイヌワシの繁殖に取り組んでいる。そのシンボルだった「鳥海」の姿を永遠に残すため、現在、美大教授で著名なガラス作家の小牟禮尊人教授が、鳥海の頭骨をかたどったガラスのオブジェを制作中である。
亡くなった動物たちも、アートを通じてずっと、訪れる人々に何かを語り続けていく。
*この記事は2018年9月〜10月に岩手県雫石町地域おこし協力隊とTOHOKU360の共催で開かれた「東北ニューススクールin雫石」の受講生が取材・執筆した記事です。東北ニューススクールとは「住民が自らニュースを書く」ニュースサイト・TOHOKU360が東北各地で自分の街から価値あるニュースを発掘し、発信する力を持つ「通信員」を養成するために開催している講座です。