「誰もが原発を語れるように」福島第一原発のジオラマ作り、クラウドファンディングに挑戦中

誰もが原発のことや地域の将来を語り合える場をつくろうと、廃炉作業が進む東京電力福島第一原発のジオラマの製作に取り組む人がいる。元東京電力社員で震災後に一般社団法人AFWを立ち上げた吉川彰浩さんは、誰でも原発のことを理解して話し合えるようなジオラマ作りの資金を集めるため、今月25日までクラウドファンディングに挑戦中だ。

「あれは何?」より「これは何?」手元の模型から、自然と会話が生まれる

福島第一原発のジオラマを使って廃炉の現状を説明する吉川彰浩さん(吉川さん提供)

震災前、現在は避難区域となっている福島県双葉町に住み、東電社員として福島第一原発・第二原発に勤務していた吉川さん。震災後の2012年に退職したのち一般社団法人AFWを立ち上げ、廃炉作業が進む福島第一原発への一般人の視察の機会を定期的に設けるなど、地域内外の一般市民が原発について理解したり話したりできるようにするためのさまざまな活動を展開してきた。

原発について誰にでも分かりやすく理解してもらうために、視察では原発構内の建物を指してその役割を説明したり、紙の資料を使って原発のしくみを説明したりしていた吉川さん。それでも難解な原発について伝え方に悩んでいたある日、思いつきで板と発泡スチロールを使った簡素な原発構内と建屋の模型を自作して説明したところ、参加者から思わぬ好反応があったという。

「今までは質問が出なかったのに、模型になった瞬間に『これは何?』と、模型の建物を指差して質問する参加者が出てきた。実際の建物を指差して『あれは何か?』と説明するよりも、手前にあるもの、手の届くものだからこそ考えやすく、質問が生まれるのだと実感しました」

手応えを得た吉川さんは、100円均一で買った材料でさらに詳しい模型を自作。その後、より詳しく原発を理解できるような精緻な模型を作るため、奈良県のジオラマ製作会社・大和工藝に制作を依頼した。そして2018年、制作に4カ月をかけた縦1m・横1.5mの、縮尺1/2000の福島第一原発のジオラマが完成した。

完成した福島第一原発の1/2000模型(吉川さん提供)

語りにくくなってしまった原発を、地域の人々が再び語り合えるきっかけに

福島第一原発のジオラマは、地域のさまざまな場面で活用され始めている。2018年、浪江町で開かれた双葉郡8町村合同のお祭りに模型を展示したところ、小学生から「この建物は何のためにあるの?」「じゃあこの隣は?」と次々と質問が出るなど、地域の大人と子供が模型を囲んで自然と原発やその敷地の将来について会話する場面が生まれるようになったという。地元の人々だけでなく、修学旅行や研修で福島に学びに来た全国の学生との議論などにも活用されている。

今回吉川さんが挑戦しているクラウドファンディングでは、現在のジオラマに廃炉作業の現状を反映させるための更新にかかる費用、廃炉作業を説明する上で欠かせない2号機の原子炉建屋の模型の制作費用、そして中高生が分かりやすく廃炉について理解できる中高生向けの廃炉冊子の作成費用にかかる合計180万円の達成を目標にしている。

製作を進めている2号機原子炉建屋のジオラマ(吉川さん提供)

吉川さんは「原発の話題は語りにくくなってしまっているけれど、原発を語ることは本来、地域の未来や私たちの暮らしをどうしたいかを考えるということ。今の原発の敷地を、地域として将来的にどういう場所にしたいのか。『子供たちが歩いている場所にしたい』とか『お花畑にしたい』とか、どんな未来をデザインしたいのかという話を、地域の人々が主体的にしていくことが大切です。そのための会話が生まれる材料、分かりにくい原発を理解するための材料として、どこにでも持ち運べるこのジオラマを活用していきたい」と、ジオラマ製作に込めた思いを語る。

クラウドファンディングは https://camp-fire.jp/projects/view/153754 から、7月25日まで。

「ここに暮らす一人として地域の未来を考えていきたい」と話す吉川彰浩さん。自作のコメを育てている福島県楢葉町の田んぼの前で。
「ここに暮らす一人として地域の未来を考えていきたい」と話す吉川彰浩さん。自作のコメを育てている福島県楢葉町の田んぼの前で。(安藤歩美撮影)

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