【続・仙台ジャズノート#17】コロナと戦う仙台のジャズミュージシャンたち

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】2022年4月22日、「仙台いのちの電話チャリティー」と銘打ったジャズコンサートが仙台市青葉区の電力ホールを会場に開かれました。コンサートの正式な名称は「名雪祥代グループwithウイリアムス浩子 ヴァレンタインジャズコンサート-心に響く愛の歌-」。なぜ4月にバレンタインかと言えば、このコンサートは2月に開かれる予定だったのが、新型コロナウイルスのために延期され、やっと開催できたからです。新型コロナウイルスの感染拡大も足掛け3年になり、演奏家を取り巻く厳しい環境は好転する兆しがまだまだ見えません。「仙台いのちの電話チャリティー」は仙台圏では久しぶりの大型コンサートとして企画されました。取材者というよりも、一人のジャズ愛好者として感じたままを報告します。

「仙台いのちの電話」に共感した演奏家が集まる

コンサートに出演したのはサックス奏者の名雪祥代さん、ピアニスト北田了一さん、仙台フィルのチェロ奏者山本純さん、ベーシスト佐藤弘基さん、パーカッションの齋藤寛さん、ゲストボーカルのウイリアムス浩子さんです。仙台・東北を中心に活動している名雪さんらに、名雪さんと親交のあるウイリアムス浩子さんが東京から駆け付けた形。地域のジャズをテーマに取材していると、感性や技術、人柄つながりでさまざまな人的ネットワークが柔軟に形成されること自体がうらやましく思えます。

コロナ禍を乗り越えて開かれた「仙台いのちの電話」チャリティ-「名雪祥代グループwithウイリアムス浩子 ヴァレンタインジャズコンサート-心に響く愛の歌-」=2022年4月22日、仙台市青葉区の電力ホール

「仙台いのちの電話」は自死(自殺)などに追い込まれる人を一人でもなくそうと、40年にわたってボランティアによる電話相談を受けてきました。3時間交代制で年末年始も続いている活動に共感した演奏家たちはほぼ1年前から準備を進めていました。それだけに延期が決まったときの落胆ぶりは、見ていて気の毒になるほどでした。コロナ禍に加えて3月16日には、震度6強を観測した地震によって、東北新幹線が脱線し、不通となりました。東京中心に活動しているウイリアムス浩子さんは、2時間のリハーサルに参加するのに、高速バスで5時間半かけて仙台までやってきたほどです。「人生初のバスの旅」(ウイリアムス浩子さん)。本番を間近に控えてリーダーの名雪さんが原因不明の体調不良に陥ったことも、気になる出来事でした。

コンサートを主催したチャリティ-実行委員会は、座席数を定数(1000)の70%に抑えるなど、新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインに基づく対策をさまざまに実施しました。演奏家サイドが実務を担う「仙台方式」(?)のオンライン配信も「投げ銭方式」で実施されました。

「セットリスト」でジャズを楽しむ

このコンサートでちょっと新鮮に思えたのが演奏曲目や曲順などのデータを記した「セットリスト」付きパンフを渡されたことです。この日のセットリストには演奏者のプロフィールも記載されていました。この連載に着手して足掛け3年。取材現場のほとんどが規模の小さなジャズバーやライブハウスなので、大きなホールでのコンサート、しかも「セットリスト」つきでジャズを楽しむのは久しぶりでした。レコードからCDに移行した当時、それまでレコードジャケットを飾った解説や演奏家紹介などのコンテンツがどんどん縮小したのを逆に行く感じがしました。

「セットリスト」を見ながら感じた感想をあらためて整理、思いつくままにコメントをつけてみると、自分なりの楽しみが見えてきます。個人的な備忘録を兼ねているので、長文になりますが、よろしかったらお目通しください。「セットリスト」があればコンサートを振り返る手掛かりになるし、演奏家のみなさんがコロナ禍-コンサート延期に追い込まれた時間をどんな思いで乗り切ってきたかを実際に感じてもらえるかもしれません。

 【第1部】

  1. I’II Remember April
    「4月の思い出」。誰もが好きなスタンダード。季節にふさわしい。ただし名雪さんによると、「秋になって春の楽しかったことを思い出している歌」とのこと。名雪さん自身のアルトサックスで吹くテーマが明るくて心地よい。北田さん、しょっぱなからノリのいいアドリブ。個人的にはドラムがどんと入ってほしいのだが、齋藤さんのパーカッションはさすがにスイングしています。低音部を支えてくれる弘基さんの太いサウンドが頼もしい。
  2. A Wish(Valentine)
    ウイリアムス浩子さん登場。一気に「時間差バレンタイン」のムードが高まった。A Wish(Valentine)はウイリアムスさんのアルバムに収められている曲。アルバムタイトルになっています。ピアノとのデュオ。北田さんのボーカルとのデュオは初めて聴きました。
  3. My Funny Valentine
    優しいメロディのスタンダード。ピアノとのデュオから楽器だけの演奏に移行。速めのラテンタッチが心地よい。
  4. Fly Me To The Moon
    「私を月に連れて行って」。今回はよく知られているメロディの前に「前振り」(バース)がついて贅沢に。原曲は「In Other Word(言い換えれば)」というタイトルだったんだそうです。英語の詩を見ながらオンライン配信で聴き直しました。チェロという楽器は心から安心できるサウンド。クラシックは音数が多すぎて胸が苦しくなるので苦手だけれど、チェロ独奏の録音はずいぶん聴いています。本当にすごい。
  5. 朧月夜
    春の夜に月がかすんで見える情景。北田さんのアレンジ。「日本の原風景を描写した美しい日本語を大事にしましょう」とウイリアムス浩子さん。ここでも、ボーカルとユニゾンするチェロのサウンドが感動的です。チェロの後にベースソロがゴリゴリと入るあたり、ジャズ好きの密かな弱みをがっちり突かれました。
  6. My Favorite Things
    三拍子の名曲。好きなものをどんどん繰り出していくと自由へと行き着くというコンセプトは、こんな世の中だからこそ響きます。あの映画(サウンド・オブ・ミュージック)の、自由に向かって国境を越える名場面を思い出します。「Night And Day」同様、ウイリアムス浩子さんの「ささやき」からエネルギッシュな「叫び」まで、歌い手としてのパワーを感じます。ボーカル、ソプラノサックス、チェロのアンサンブルが素晴らしい。チェロってほんとドラマティックな楽器。いや、もちろん腕前の問題ですね。名雪さんはウイリアムス浩子さんのアルバム「MY ROOM side3」(2014-2015)に参加し、ソプラノサックスでこの曲を演奏しています。オンライン配信も利用して聴き比べました。配信があるのはとてもうれしい。距離はだいぶありそうだけれど、筆者世代にとっての必須プレイヤー、ジョン・コルトレーン(サックス)とも比較してみなければ。

【第2部】

  1. Suite
    名雪さんのオリジナル。「コロナ禍で活動自粛を余儀なくされたときに書いた曲」。「レクイエム(鎮魂歌)」「エレジー(哀歌)」「コンアニマ(魂、心持って生き生きと)」「グランディオーソ(堂々と)」の4パートから成る。厳しい状況だけど、前を向いて進もう、という気持ちをこめたそうです。「延期」がなければこのコンサートは成立しなかったという証の曲でもあります。
  2. 星影の小径(ほしかげのこみち)
    美しい日本語。ちあきなおみさんが大ヒットさせた。大好きです。
  3. グッバイからはじめよう
    佐野元春さんの曲。これもボーカル、ソプラノサックス、チェロのアンサンブルが見事です。
  4. All The Things You Are
    スリリングで、疾走感たっぷり。こういうジャズを聴いてジャズが好きになった。そんなことを思い出させる曲です。北田さんのソロが素晴らしい。「心のときめきがそのままサウンドになったようなアレンジ」(ウイリアムスさん)は北田さんの手によるものです。
  5. Mona Lisa
    「ほほえみ一つに会いたくて世界中の人がやってくる」(ウイリアムス浩子さん)。新型コロナ、戦争・・とあまりに理不尽な今だからこそ心にしみる。しっとりと。ナット・キングコールの大ヒット曲として知られます。
  6. Night And Day
    コール・ポーターの作詞作曲。フランク・シナトラで知られるジャズのスタンダード。中盤のボーカルとアルトサックスの魅力的なユニゾン、掛け合いからラストの盛り上がりへ。こんなにエネルギッシュな曲だったんだ、と再確認。
  7. What A Wonderful World(アンコール)

最後に、厳しい状況だからこそ、自分が最も大切だと思うことを懸命に探り当て、それ(A Wonderful World)を次の世代に渡すべく前を向いて進む必要があるのですね。そんな思いにさせられる、心の底から温まるコンサートでした。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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