【続・仙台ジャズノート#19】たまにはフュージョン気分

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】エレクトリックでパワフルなライブになるのではないかと期待して会場に向かいました。2022年5月29日、仙台市青葉区のジャズバー「モンドボンゴ」。筆者の(現在の)好みもあって、ふだんは電気系の仕掛けの少ない、アコースティックなジャズを聴く機会が多いのですが、今回は「エレクトリックなライブを」と特に企画されたそうです。

いつにも増して特別感漂うライブに出演したのは、菊田邦裕(リーダー、トランペット)、林宏樹(サックス)の2人を江浪純子(ピアノ)、黒瀬寛幸(ベース)、黒瀬理知(ドラム)のリズム陣が支えるセット。特に黒瀬寛幸さんのエレキベースと実弟の理知さんのドラムは野外や比較的規模の大きなホールでしか聴いたことがありません。ジャズバーの比較的狭い空間の「黒瀬サウンド」がどう聴こえるのか興味津々。ふだん、アコースティックなピアノで聴く江浪さんも、この日はエレキピアノを楽しそうに弾いていました。

正直言って菊田、林の二人が音楽的な志向が非常に広く、フロント(常に前面に出てメロディやアドリブを担当するプレイヤー)としての力は頭に入っていました。黒瀬兄弟が強靭なリズムワークでその場を支配することも、狭い会場でもあり、十分想像できました。江浪さんは、最近のセッションで、いかにも難しそうなアレンジの曲をこなすのに、左手のリズムを強く打ち出すスタイルを聴かせてくれたのを思い出します。

右端がピアノの江浪純子さん

ストレートなジャズを演奏するときは、もっとバランスのとれた奏法を披露してくれますが、そのセッションでの演奏はとても推進力に満ちたもので、バンド全体をグルーブさせる迫力を感じさせました。「本当はファンクのような音楽が合っているかもしれない」と口にするのを雑談で聞いていたこともあって、この日の出来栄えは期待に違わない水準でした。

印象的なシーンは幾つもありましたが、最も驚いたのは黒瀬寛幸さんのスゴ技。黒瀬さんは日本でも有数のベーシストで、弦を叩いてリズムを刻む「スラップベース」の奏者として知られています。今回は室内のためやや遠慮していたのか、スラップシーンは少なめでした。

その代わりに驚かされたのがあのスゴ技です。ハービー・ハンコックの大ヒット曲「カメレオン(Chameleon)」の演奏中、ソロプレイヤーのアドリブを終えてテーマ(主題))に戻る直前に「ブルルルルルル・・」としか聞き取れないフレーズを一瞬、入れてきました。まるで聴いたことのないフレーズでした。誰でも知っているテーマの心地よさにひきずられて、聞き逃した人も多かったかもしれません。

高度な技を連発する黒瀬寛幸さん(右)。左がトランペットの菊田邦裕さん

演奏後、黒瀨さんに直接問い合わせると、あれは、1分間に四分音符120の速さで32分音符を弾いたんだそうです。試しに口で32分音符をうたってみると分かりますが、人間業ではありません。口ではうたえないほどのフレーズを正確に打てるようになるために「1ストロークで4つの音を出す技術を使っている」点にあるそうです。指で弦を1回弾くたびに4つの音を出せるようになる技術なんでしょう。

黒瀬さんは「日本では恐らくわたししかできないけれど、実際の演奏では使うところがあまりないんです」と笑っていましたが、楽器や曲の仕組みを隅々まで研究し、練習する先に、果たして出会えるかどうか分からない水準のスゴ技でした。ストレートなジャズの世界から足を伸ばしてみる楽しみがあらためて分かったような気がします。

パワフルなドラミングで支配する黒瀬理知さん(右)。手前左がサックスの林宏樹さん

この日の主なラインナップは以下の通り。ファンク、フュージョンの代表曲として知られる曲が中心でした。

マイ・レディ(My Lady:The Crusaders)
ストラップハンギン(Straphangin’:The Brecker Brothers)
カメレオン(Chameleon:Herbie Hancock)Summertime

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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