【加茂青砂の設計図】人口80数人の男鹿半島・加茂青砂に人々が集うのは

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

【土井敏秀(もの書き)】秋田県・男鹿半島西海岸の一隅「加茂青砂集落」に焦点を当て、連載企画を始めたのは2021年(令和3年)9月だった。2年をかけて最終章・第5部を迎えた。最終回はデジタル図書館開館で締めくくることにしている。書き始め当初から、立ち止まっては考え、時には横道にそれながら、興味を持ったことを追いかけてきた。考えもしなかった展開に、追いすがるのに必死だった。「かもあおさ笑楽校」という架空の「ムラ」を拠点に据えると、時代、男鹿半島西海岸という場所を超えた、新しい出会いが数多く生まれた。

出会いに導かれるように、気づいた。人口が80数人の、統計上消滅が予測されている「加茂青砂の暮らし」に、興味を持っている人たちがいる、と。それどころか、さらに一歩踏み出して、かかわってきてくれている。なぜだろう?海を望み、里山を仰ぎ見るこの集落には、ひょっとして、これからの暮らしの「設計図」が、用意されていたのではないか。ささやかな一枚の設計図。おそらく誰もが、ではないだろう。でも、その設計図を広げると、数字では表せない「手探りであっても、自分で切り開いて生きる」喜びが、見えてくる。それを受け止める人たちが、この時代にしっかりといるのだ。

ほら、こんなところに、生き生きとした花が咲いているよ。そうだった。この連載を始めたきっかけは、加茂青砂の里山で、ひっそりと咲いていたイカリソウの白い花を、見つけたことだった。急がず足を止め、周りを見渡すとさまざまな発見が続いた。平安時代、東北地方に暮らしていた蝦夷が、大和朝廷の侵略に遭いながらも、男鹿半島を含む一帯で「自治」を求めた「元慶(がんぎょう)の乱」があった、江戸時代末期の村勢一覧「絹篩(きぬぶるい)」では、加茂青砂集落が絵図で「加茂村」「青砂村」として、現在と同じ景色で描かれていた……。そんな歴史を紹介するだけで心が弾んだ。

「加茂の青砂でダダダコわっしょい」のレコーディング。バックコーラス、セリフ語りという初めての経験に、みんな楽しんで参加(加茂青砂集会所)

だったら、その設計図を、デジタル図書館という形で残すのがいい。「加茂青砂の暮らし」がジャンル別に紹介され、気軽に訪れることができる。どこかで誰かが、今の暮らしに疲れ、違和感を覚えた時、この図書館でひと息ついてくれるのではないか。デジタルだから「24時間、いつでも開いています」。

想像もしていなかった、この「図書館建設」に弾みがついたのは2023年(令和5年)、加茂青砂集落に次々と人が、外からやって来たからである。慌ただしかった。春、「賑やかし」が登場。男鹿市のシンガーソングライター船橋キョータさんが、オリジナル曲「加茂の青砂でダダダコわっしょい」を抱えて、やってきた。地元を自画自賛する歌で、集落の有志は「ダダダコ合唱団」をにわかに結成、キョータさんのバックコーラスを務めた。勢いは止まらない。CDを制作し販売した。

次いで、秋田県立大学アグリビジネス学科地域ビジネス革新プロジェクトがやって来た。地域コミュニティーの今後を研究するために、加茂青砂集落を対象とした。2023、2024両年度2年間のプロジェクトである。初年度は3年生7人、教員4人が集落の地勢を調査し、住民とのヒアリング調査で、暮らしのありようを聞き取りした。地域の特産品をどう広めていくか―のアイディアを生み出す狙いもあって、山ブドウの樹皮を使ったアクセサリー、海藻のエゴ作りにも挑戦した。

さらには、集落内の耕作放棄地開墾を目的とした体験教室「境界なき土起こし団」を開くと、地元男鹿だけでなく、能代、横手、由利本荘各市などからも「生徒」がやって来た。総勢約20人が開墾作業に当たった。自然農法を学んできた農業齊藤洋晃さん(能代市)、同佐々木友哉さん(藤里町)の指導で、植物由来以外の農薬は使わない、刈り取った草などを堆肥に利用する、出来るだけ手作業で―を基本に、月1回集まることを目標に取り組んでいる。

耕作放棄地を開墾するには、深く掘って、根を取り除くのが必要(男鹿市戸賀加茂青砂)

みんなそれぞれにやって来て、抱いている目標に向かって、スタート台についたばかりである。秋田県立大学のプロジェクトは2024年(令和6年)2月か3月にも、初年度の研究成果を、加茂青砂集落の住民を対象に発表する。合わせて住民との交流会も計画している。集落内の空き家を利用して、拠点になるかどうか、検討に入っている。交流会には、「土起こし団」も住民、プロジェクトへの顔合わせの意味を兼ねて参加したい意向を示している。住民、プロジェクト、土起こし団の3者がそろうなんて、これまた予想もしない展開になった。

集落を担っているのは、今を生きている人間だけではない。暮らしを支えてきた加茂青砂の自然、絶えることなく命をリレーしてきた先祖に、感謝と祈りをささげることも大切だろう。来年4月の春祭りには、学生が担ぐことで神輿を復活させるのはどうか。何年かぶりに集落内に神輿を担ぐ掛け声が響き渡る。「加茂の青砂でダダダコわっしょい」の歌で、踊りの輪ができる。

目新しいことはないだろう。かつてあった営みを、再び思い起こすだけかもしれない。だけど、そしてそこに、生きる喜びを実感できる人たちが集い、また去っていく。世界がどこかでつながっていく大切な一歩を、この加茂青砂集落で踏みしめる。そんな夢見心地でこの連載企画を、とりあえず終える。ありがとうございました。

  • 次回、次々回の2回で最終回になります。内容は、デジタル図書館「かもあおさ笑楽校附属図書館」の案内です。「建設する」時間が必要なため、1,2週間連載を休みます。図書館には、「タイムカプセル」を設置するのですが、そこに収納する「100年後の加茂青砂住民へのメッセージ」を募集しています。
  • doikamo@js6.so-net.ne.jp   までメールの添付資料の形でお送りください。名前(匿名可)、生年月日、暮らしている市町村名の記載もお願いします。

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