高校生が知らない世界を取材して学ぶ、地域の魅力。仙台・宮城野区「まいぷろ」に潜入取材した

布田剛(東北ニューススクールin宮城野)】高校生が地域の魅力を取材して記事を作成し、情報発信するプログラムが仙台市宮城野区中央市民センターで行われているという噂を聞きつけ、筆者は現場に潜入取材を敢行した。筆者の所属する団体でも、市民が地域の魅力を取材して情報発信する講座を開催したことがあり、大人でもなかなか難しい取材や記事作成に高校生がどのように取り組んでいるのか興味があったのだ。その実態やいかに?

宮城野区をフィールドに高校生が地域の魅力を発信!?

11月4日土曜日の午後、会場である宮城野区中央市民センターの会議室に向かうと、入り口には大きく取材中の若者のイラストが描かれた「まいぷろ」の看板が参加者を迎えていた。これがこのプログラムの名称で、Miyagino Young PROgramから取って「まいぷろ」である。まいぷろを通して高校生たちは取材と記事作成について学び、実際に地域を取材して記事を書き、できあがった記事はTOHOKU360にウェブ記事として掲載されるとのこと。東北ニューススクールとも同じようなフレームとなっている。

まいぷろの看板。若者のイラストが親しみやすい雰囲気を出している

やや早めに会場に着いたが、すでにほとんどの高校生は席についてまいぷろが始まるのを待っていた。この日参加した高校生は男子2人、女子9人の11名。この日は今年度4回目のまいぷろで、担当する中央市民センター職員の小野耕一さんによると、すでに取材を終えているチームも2チームあるとのこと。高校生は全部で5チームで、震災メモリアルタクシー、保護猫シェルター、メディア、環境の4チームに分かれていた(残り1チームはこの日欠席)。

取材の心得とノウハウをプロが伝授

まいぷろ第4回のメインは「取材・記事をつくる」と題した講義で、講師はTOHOKU360の編集デスクであり、河北新報の元記者の佐藤和文さん。佐藤さんによる講義は前回に続いて2回目とのことだが、本物のプロを前に高校生たちも少し緊張気味に見えた。

この日は11人の高校生が参加した

取材を終えている保護ネコ、タクシーの2チームから「取材はとても緊張した」「質問をあまり多く持っていっていなかったのですぐに質問が尽きてしまった」という感想があったことを受けて、佐藤さんからは最初に取材における心構えの話があった。「取材は相手に働きかけて引き出す場。その場で何を聞きたくなるかが勝負のしどころ」「取材を通していろんな人に会えるが、普段の生活ではなかなかそんなことはない。取材がどういうことかを噛み締めながら記事の仕上がりにいければいい」

まさに!と思う一方、筆者にとってはここが取材の場なので若干緊張の汗がにじむ。高校生たちも、取材の大先輩の講義を神妙に聞いていた。

TOHOKU360編集デスクの佐藤和文さんによる取材・記事作成の講義

佐藤さんによる講義のあとは、チームごとに打ち合わせの時間だ。取材が終わったチームは記事作成に向けて、取材がこれからのチームは取材をどうするかについて話し合う。

取材先はプログラムの中で元々決まっていたり、候補があるわけではなく、高校生が取材したい対象を見つけて、市民センターの職員から先方に取材を打診するとのこと。中には取材を断られるケースもあり、メディア、環境の2チームは取材先自体がまだ決まっていなかった。そこでこれらのチームには市民センターの職員も入り、取材先候補をどうするかの作戦会議といった様相だった。

打ち合わせ中の環境チームに、筆者もおそるおそる近づいて話を伺った。環境チームは尚絅学院高校の1、2年生3人のグループで、学校でSDGsについて学んでいることもあり、環境問題に関心があるのでこのテーマを選んだとのこと。残念ながら当初取材希望だった某大手企業のアポは取れなかったが、1年生の宮城春咲さんから「取材によって、知らなかったことを聞けるのはいい経験になると思う」と前向きな言葉もあった。

取材という出会いを噛み締める

すでに取材を終えているチームはさすがに取材のエピソードも豊富だ。タクシーチームは宮城野高校2年生4名のチームで、震災のことに関連した取材先を調べていたところ、被災地を案内する語り部タクシーの存在を知り、取材先に選んだという。取材では実際に語り部タクシーに乗車し、被災地を案内してもらった。

震災の当時は4歳で、記憶は鮮明ではない。語り部のドライバーさんから震災後3日分の朝刊を見せてもらったことで、被災の生々しさが感じられたことや、車に積んでいた震災の写真集と今の風景を見比べることで、復興がどう進んだか見えてきて印象的だったということを話してくれた。

チームごとに記事作成や取材先についての打ち合わせを行った

一方、取材することの難しさもいろいろ感じたようだ。タクシーチームの三浦愛華さんによると、次に何を訊こうか話を広げるのが難しく、取材の質問もだんだん尽きてきて最後の方は取材と関係ない話をしていたとのこと。

「今度復興マラソンがあるので、ドライバーさんがその話とか。明日ですよね。ずっと震災の話だけしているとネタが尽きちゃうからそういう話を振ってくれたんだと思います」

思わぬ話の展開に、私もその話題に続けた。「そうなんですね。ところで私、復興マラソンにエントリーしてるんですよ」

「え、そうなんですか! 私たち明日、給水のボランティアやるんです」

ちょっとした偶然とささいなエピソードだけれども、ついさっきまで見知らぬ誰かだった高校生と私、そして私は直接には会っていないタクシードライバーさんとが少しつながった瞬間だった。取材の本論とは関係のない話かもしれない。しかし、一期一会になるかもしれない取材の現場で、大切なのは案外こんなことなのかもしれない。

まいぷろ第4回が終了し、高校生たちが帰った後のがらんとした会議室で、参加した高校生の変化について小野さんに伺った。去年までの例で言うと、取材を経験するかどうかで高校生もだいぶ変わってくるとのこと。取材した成果が記事となって多くの人の目に触れ、読まれることで、高校生が活動の意義を実感し、自分たちの自信にもつながっていくそうだ。

12月の中間発表を経て、取材を終えたチームは記事作成に本格的に取り掛かる。取材という出会いを噛み締めて高校生が書く記事は、きっと読み手の心に響くものがあるだろう。自分も高校生に学んで、いい記事が書けるようにしようと思いながら帰途についた。

*この記事は、仙台市の宮城野区中央市民センターとコラボした市民記者養成講座「東北ニューススクールin宮城野」の受講生の制作した記事です。宮城野区を舞台に活動するさまざまな地域密着の市民活動を取材し、発信していきます!他の記事は下記の画像バナーからご覧ください。

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