岩手・一関に「つながりの杜」オープン  シンガーの佐野碧さん「誰でも自然と音楽、交流を楽しめる場に」

寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】広葉樹の林に点在するツリーハウスやイベント広場…。仙台市出身のシンガーソングライター佐野碧さんが、祖父母から受け継いだ一関市の里山の森に、温めていた夢の場所をオープンさせた。親子も若者も年配者夫婦も、散策やピクニック、キャンプ、音楽のライブ、イベントを楽しめる。「TSUNAGRI NO MORI(つながりの杜)」と名付けた、誰にでも開かれた私設の公園。お披露目のコンサートでは自作の歌をたっぷりと響かせた。母親の死と娘さんの誕生、共感した仲間との出会いが、命と人と自然がつながる場づくりに実ったという。わくわくする催しを企画していく。 

自然林の広場、市民の音楽でにぎわう 

つながりの杜は、市内の流通団地から近い真柴(ましば)字矢ノ目沢の里山に、11月1日にオープンした。駐車場とオートキャンプのスペースが入り口にあり、キッチンカーや手作り品のマルシェも連なった。木のチップが敷かれた小道をたどると、大きな自然木を生かしたツリーハウス(樹上のコテージ)、グランピングのための大きなテントや炊事場が現れ、一番奥には高い広葉樹にぐるりと囲まれたイベント広場(1ヘクタール)が広がる。 

自然木を生かしたツリーハウス。宿泊ができる=「つながりの杜」

お披露目の日は家族連れや若者、年配の夫婦らでにぎわい、園内の施設を巡ったり、まきわり体験をしたり、散策をしたり。イベント広場の屋外ステージでは、高校生のロックバンドや地元のジャズグループなどが次々に演奏して盛り上げた。 

まき割りに挑戦する親子。グランピングの楽しみだ=「つながりの杜」

母の死と娘の誕生が導いた新しい夢  

トリに登場した佐野さんは、自然木のベンチでくつろぐ市民たちに語りかけた。「ここは自分に還れる場所。自然の木々たちはいつもオープンに受け入れてくれる。だから癒しを感じるのでしょう」、「4年前に母を亡くし、今年、娘を授かりました。そんな命の連なりの中にいます」。そんな場での新しい出会いとつながりに感謝を込めて、新曲の『ゆらり』を歌い上げた。 

〽ゆらゆらゆらゆらり あなたは生まれ変わり その続きを描くために 諦めず 

ゆらゆらゆらゆらり 奇跡のようなこの命 母なる大地にもう一度 息吹を 

自然の木々に囲まれた「つながりの杜」。火がたかれたイベント広場のステージで、佐野碧さんの歌に聴きいる市民たち=一関市真柴

歌われたのは、4年前の12月、65歳で亡くなった母優子さんと、結婚して間もない碧さんが今年2月に授かった長女ゆらさんのこと。ネパールの貧しい村々の支援を人生の仕事にしていた母に、碧さんは大きな感化を受け、自らもネパールを支援に訪ねて歌ってきた。「娘の誕生は、母の生まれ変わりのよう」という碧さんは、一関出身の優子さんから祖父母の財産だった里山も受け継いだ。「この山を、うまく生かしてほしい」という遺言を胸に、温めてきた夢が「つながりの杜」である。 

佐野さんの夢に共感、地元に仲間生まれる 

「歌で人をつなぎたい、つながれる場をつくりたい」思いは、佐野さんの長年の活動のモットーだ。コロナ禍の2020年には東京で無観客の配信ライブ『今伝えたい想い』を行った=参照記事 「新型ウイルス不安」で音楽祭を断念、それでも無観客LIVEで「人と人をつなぎたい」 仙台出身のシンガーソングライター | TOHOKU360=、=同 コロナ禍の「無観客ライブ」で見えた新しいつながりと希望 仙台出身のシンガー・佐野碧さん | TOHOKU360=

新たなプロジェクトが本格的に動き出したのは昨年6月。一関に直接の知人友人はなかったが、優子さんの同級生が里山の隣で木材業を営んでいる偶然があり、その縁でつながる設計士、大工さんも協力者になり、佐野さんに共感した地域おこし協力隊員ら若い仲間たちにも夢の輪が広がった。そうして多くの市民がボランティア同然に力を貸してくれた。 

「シンガーというだけで資金を借りるのも苦労でしたが、幸運にも新しい地域事業として国の補助金が認められ、クラウドファンディングにも応援が寄せられた。不思議な力に後押しされて『つながりの杜』は生まれました」 

「いつでも本来の自分に還る場所」という佐野さん。命と自然のつながりから力をもらい歌う=一関市真柴の「つながりの杜」

現場作業チームのつなぎ役になった設計士の森谷茂樹さん(62)は、「着工が6月下旬。まずの松林を親しい業者たちの協力で拓き、暑い夏も日に10人くらい出て作業をした。伐った木からベンチを作り、チップは歩道に敷き詰め、自然環境を大事に生かせた」と話す。森谷さんは「つながりの杜」の管理人も引き受けた。 

1年を通してキャンプやイベントの場に  

佐野さんは「つながりの杜では、1年を通したキャンプ=参照・TSUNAGARI NO MORI | キャンプ場検索・予約サイト【なっぷ】=をはじめ、誰でも楽しみに集えるイベントを開いていきます」と話す。その一つが「みんなで冬マルシェ」。閑散期の冬のキッチンカーを応援するイベント=来年1月19日(日)=で、たき火で暖まりながら地元の美味な料理、多彩なマルシェを楽しむ。「一関を盛り上げたいので、地元に若者が残るきっかけになる、企業と学生さんのつながりの場もここでつくりたい。そんなふうに月1回のペースで企画を催せたらいいなあ、と思っています」 

ツリーハウスのデッキには、お昼寝用のハンモック=「つながりの杜」

佐野さん自身は来年春にライブを古里の仙台、東京(4月12日)、そして母優子さんとの思い出深いネパールでも予定しており、つながりの杜でも「いつでも本来の自分に還る場所として歌っていきたい」。仙台からも大勢の人が訪れて、二つの古里がつながってほしいと願う。

さの・あおい 仙台市出身。宮城学院大学を卒業し上京、1年後に自身のスタジオを開く。大震災からの故郷再生を祈る『虹色のひとみ』でデビューし、ライブ活動を展開する。2015年のネパール大地震の後、地元の音楽家らと「HIKARI SONG GIFT」を催し、ソーラー・ランタンを贈り続けている。アルバム『NAMIDA』、『夢』、『KARMA』、シングルは『ただある声』、亡き人への手紙を元にした『天国へのラブソング』シリーズの『そばにある笑顔』、『思い出すよ今も』、『大好きだよ一緒だよ』など。新曲『ゆらり』を24年6月、サンミュージックから発売。佐野碧(AOI SANO)OfficialSite

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