【加茂青砂の設計図】踊り継がれてきた「ダダダコ」のリズムで、地域を誇れる歌をつくる

連載:加茂青砂の設計図~海に陽が沈むハマから 秋田県男鹿半島】秋田県男鹿半島の加茂青砂のハマは現在、100人に満たない人々が暮らしている。人口減少と高齢化という時代の流れを、そのまま受け入れてきた。けれど、たまには下り坂で踏ん張ってみる。見慣れた風景でひと息つこう。気づかなかった宝物が見えてくるかもしれない――。
加茂青砂集落に引っ越して二十数年のもの書き・土井敏秀さんが知ったハマでの生活や、ここならではの歴史・文化を描いていく取材記事とエッセイの連載です。

土井敏秀(物書き)】秋田県・男鹿半島西海岸の加茂青砂集落を自慢する曲「加茂の青砂でダダダコわっしょい」をお披露目したのは、その準備に忙しいお盆前日の、8月12日だった。それでも、里帰りした人たちも含め、「盆祭」には違いないと、待ってくれていた人たちがやって来た。

はじめに「加茂の青砂でダダダコわっしょい」を説明します。集落の暮らしを笑顔で誇れる曲がほしかった。地域賛歌である。それには、男鹿半島で踊り継がれてきたダダダコのリズムと、「わっしょい」をセットにするのがいい。「何か」を吹き飛ばすには、2つの言葉のエネルギーがふさわしい。江戸時代末期の乱世に流行した、「ええじゃないか」をほうふつとするように。男鹿市在住のシンガーソングライター・キョータさんに依頼するとすぐに、「いいですよ」が返ってきた。「加茂青砂の自慢」を列記し、手渡して間もなく、曲を聴かせてくれた。明るく、だれもが弾んでいきそうなのがいい。

ⅭⅮを出すために、バックコーラスを担当する合唱団を集落のみんなで作ろう、と呼びかけた。合唱団は2回の練習だけで、レコーディング本番を迎えた(いいのかな)。集落の集会所がスタジオになった。導入部のダダダコの太鼓は、地元出身で「なまはげ太鼓」のメンバー石川慎悟さん(28)=秋田市=が務めた。「僕の太鼓で、おばあさんたちが突然に踊り出したのを見て、胸が熱くなりました」。

95歳、1人暮らし。踊り続けたダダダコの途中で、「若者」2人にカツを入れる。気合十分だね、ヨシエさん(撮影・伊藤智美)

音響技師の塩田整さん(67)=横手市=は県内各地で活動するミュージシャンのCDを数多く手がけてきた。応援の意味もあって、費用は極力抑えているという。今回の仕事は「歴史的なレコーディングに、立ち会えた気がします」と、出す意義を話してくれた。まじめに付け加えた。「音程がそろわないので、かえって合唱っぽく聞こえます」と。

大漁祝いの酒を酌み交わす場面を、急きょ漁師2人の掛け合いで、はめ込んだ。出来上がってみると、客席からも声を合わせて歌う、ライブのような温かな雰囲気に仕上がっていた。

「行商」して歩いたり、喫茶店に置いてもらったり、市内のスーパーマーケットでは鮮魚コーナーで一日中、流してもらった。ほかの店でこれを聞いた客が「スーパーの歌がかかっている」。健康体操の指導者が曲に合わせ、軽体操にもなる踊りの振りを、つけてくれた。小学校で母子のグループが、踊っている映像には、あ然として見入ってしまった。チラシの作成、配布、メディアでの事前PR、フェイスブックでの呼びかけなど、あれやこれやで、8月12日を迎えた。

出演者を含めた約90人が、会場となった旧小学校体育館を埋めた。集落の住民全員が集まると、こんな感じか。♪ジャンジャジャジャーン♪と、演歌で始まったステージは、自称おとぼけマジックにバトンを渡し、さらには、この日がお披露目となる「加茂の青砂でダダダコわっしょい」。配られた歌詞カードを手に、新入り合唱団員もステージに上がり、和気あいあいムードが広がった。

「加茂の青砂でダダダコわっしょい」をお披露目するステージ。入れ替わり自由の合唱団には、新しい顔が混じった(撮影・青塚智寿子)

「ダダダコ」の太鼓が鳴り響くと、日ごろ口うるさい90歳台のバサマたちが、すかさず立ち上がり、踊り出した。その立居振る舞いは、膝や腰の痛みを我慢しているのを感じさせない。曲に合わせる手さばきは、流れるかのよう。踊りが体に染みついている。バサマたちは、みんなのヒロインになった。酔いが回った男たちが握手を求める。笑いと拍手が絶えない。踊りの輪は回り続ける。輪が膨らんだりしぼんだり。時折奇声が上がる。

スタッフに名乗りを上げた、高校3年生のボランティア2人が、おそらく初めて見ただろう光景を、優しい目で、見守っている。女の子が言う。「活気にあふれていて、加茂青砂の方々の絆が感じられます。とても楽しいです」。少しズームアウトして、高校生の姿を入れた踊りの遠景は、「加茂青砂ムラ」に似合っていた。地縁血縁がなくとも、行事を引き継ぐ若い世代が行き来している「ムラ」

踊りがそろそろ終了―のタイミングで、キョータさんが再びギターをかき鳴らした。「ダダダコ」の踊りを支えた太鼓も、まだステージの上。リズムをしっかり刻む。会場全体に歌声が繰り返される。「♪ダダダコわっしょい わっしょい 加茂の青砂で わっしょい わっしょい♪」

この日を楽しんだ、秋田大学名誉教授白石建雄さん(78)は、「男鹿半島・大潟ジオパーク(大地の公園、2011年〝平成23年〟、日本ジオパークネットワークに加盟)」の提唱者である。このジオパークでは、日本列島が大陸から分かれた7000万年前からの自然環境の経緯が、地層で分かる。白石さんは満面の笑みで「打楽器競演から盆踊りへの流れは圧巻でした」と話す。そのうえで、この盆祭は、「男鹿半島周辺では、風車があてこんでいる活性化とは違う活力が生まれている」好例の1つだと位置づける。「私が感じた『楽しさ』には、未来への道筋を垣間見られたことが含まれます」

日本列島の歴史(それも7000万年前からの)を踏まえたうえでの「未来への道筋」。とてつもないことを書いてしまった気がする。この道筋には、どこから手を付けていいのかも、分からない。それでも人は、いつの時代も、地球上のどこでも、小さな祭りの中で、大盛り上がりする営みがあったのに違いない。だからこそ、楽しい祭りを開くことが未来につながる、と夢想する自由があるのだ。

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