【今に息づく伊達文化を訪ねて】③正調さんさ時雨

【連載】今に息づく伊達文化を訪ねて③正調さんさ時雨

【平間真太郎=仙台市】百万都市・仙台の礎を築いた伊達政宗。その政宗によって発展した文化が2016年4月、「政宗が育んだ“伊達”な文化」として、文化庁の日本遺産に認定された。そこには、伊達家の伝統文化を土台に、絢爛豪華な桃山文化を取り入れた斬新さ、海外文化に触発された国際性などが挙げられている。2017年は政宗の生誕450年。注目を集める伊達文化だが、伊達家に伝わる文化芸術はもちろん、それだけでなく伊達家が統治した「藩政時代」に始まる多様な文化は現代に脈々と生き続けている。私たちの身近に息づく伊達文化を求めて、その現場を訪ねてみた。第一回/第二回[/box]

 昨年秋、仙台市の沿岸部に住んでいて津波で被災した80代の男性に取材したときに聞いた言葉が耳に残った。「青年団の集まりでみんなで酒飲むと、必ずさんさ時雨うたったもんだなあ」

宮城県を代表する民謡のひとつ「さんさ時雨」。その起源には諸説あるが、伊達政宗が摺上原の戦いで蘆名氏を破ったことを祝い、家臣らが歌ったのが始まりとも伝わる。さんさ時雨は、昔は祝いの席に欠かせない歌だった。私も小学生のとき、親戚の恒例の飲み会で明治生まれの曾祖父が唸っていた記憶がうっすらとある。いつの間にか歌われる機会が少なくなり、今では思い出話に登場することの方が多いようだ。

さんさ時雨が歌われ、場を盛り上げていた時代に思いをはせていると、「正調さんさ時雨」を受け継いでいる人がいるとの話が耳に入ってきた。正調とは、その字のごとく「(歌い方などで)正しく受け伝えてきた調子」(新明解国語辞典)とある。いったいどのようなさんさ時雨なのだろう。さっそく取材をお願いした。

ゆったりした唄、洗練された舞 

正調さんさ時雨の舞を披露してくれた大町正子(坂東寿正)さん。正調さんさ時雨の舞を受け継ぐ数少ない一人だ(平間真太郎撮影)

 取材場所の若林区にある南材コミュニティーセンターに向かうと、日本舞踊坂東流師範の大町正子(坂東寿正)さんが待っていた。江戸時代から続く唄にあわせて披露される舞は、明治時代の初めに振り付けされたものだ。正調さんさ時雨の舞を受け継いでいるのは、現在大町さんを含めて2人しかいない。

 百聞は一見に如かず。さっそく舞を披露していただいた。ゆったりとした唄の調子。祝いの席でにぎやかに歌われる民謡のイメージとは大きく異なる。舞を見ていると、「優美」「洗練」などという言葉が頭に浮かんだ。城下町仙台の料亭を舞台に受け継がれてきた正調さんさ時雨とはこのような舞だったのかと感じ入った。

昭和天皇にも披露された正調さんさ時雨

ゆったりした調子の唄に優美で洗練された舞。祝いの席などで歌われてきたさんさ時雨とは違った味わいがある(平間真太郎撮影)

 大町さんに正調さんさ時雨を手ほどきしたのは、師匠である故・高橋美津(坂東三登次)さん。高橋さんは、仙台城下の南側に位置する河原町にかつてあった割烹料亭「対橋楼」の養女であり、名妓として知られる。藩政時代、河原町には対橋楼を含む五軒の茶屋が建ち並び、五軒茶屋と呼ばれていた。

高橋さんは1955年(昭和30)、植樹祭のために宮城県を訪れた昭和天皇の前で正調さんさ時雨を披露した。そんな高橋さんの唄と舞は土井晩翠などの文化人に愛された。ある酒席で機嫌を損ねた作家・坂口安吾が、高橋さんのさんさ時雨を見て、すっかりご機嫌になったとの逸話もある。

後世に受け継ぎたい藩政時代の文化

広瀬川にかかる広瀬橋から望む河原町の一角と仙台市街。右側のマンションなどが建ち並ぶあたりにかつて五軒茶屋があった。写真左奥は仙台市中心部(平間真太郎撮影)

名だたる人々に愛され、藩政時代の文化を色濃く伝える正調さんさ時雨。大町さんは、貴重な文化を後世に伝えようと活動している。

仙台青葉カルチャーセンター(青葉区一番町2丁目)で月1回、第一日曜日を基本に講座を開いているほか、河原町に近い市立南材木町小学校や南材コミュニティーセンターで教えている。同小の日本文化クラブでは、歌舞伎や歴史の話などを織り交ぜながら指導。「月1回だけですが、みなさんしっかり踊れるようになるんですよ」と大町さん。伝統文化を発信するイベントにも積極的に出演するなど、後継者の育成につなげようと懸命だ。

「正調さんさ時雨の成り立ちや、民謡と正調との違いなどを知ってもらうことが大切。さんさ時雨が歌い継がれて、『宮城の民謡って何?』と聞かれたときに、多くの人が『さんさ時雨』と答えられるようにしたいですね」

大町さんの連絡先は090-9538-2473。

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