いじめ自死事件の遺族支援に奔走「当事者の声で現状変えたい」仙台の田中幸子さんに聴く 

寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】『父親は真実の追求を訴え続けている』。8月12日掲載の記事『亡き妻と娘の名誉を取り戻したい 「いじめ自死」の真実を訴える父親の5年』 の冒頭。真相究明を仙台市に求める父親の記事は、多くの読者の目に留まり、投稿も寄せられた。この事件など市内外で相次ぐ「いじめ自死」の当事者支援を行っている人が地元の自死遺族、田中幸子さん(74)。学校、教育委員会など「組織」を相手に、弱い立場にある遺族の代理人や第三者委員会の委員を引き受けている。08年に結成した「全国自死遺族連絡会」でも代表世話人を務め、「当事者の声で自治体や国を変えたい」と語る田中さんをインタビューした。 

この事件では、田中さんの支援を得た父親の要望で「市いじめ問題専門委員会」が19年に発足。3年9カ月の調査の末、答申は「いじめ重大事態の判断が妥当」としたが、知りたかった「娘と妻はなぜ死なねばならなかったか」には触れず。相手の児童と保護者に学校(と市教委)がどう対応したのか、学校の責任はどうか―はうやむやに。父親は市教委に再調査を要望したが、今年5月、郡和子市長は「必要ない」と記者会見で明言し、父親との面会でも「議論は尽くされた。判断は変わらない」と突っぱねた。答申後、第三者委員会の非公開会合の報告書が市教委から父親に提供されたが、家族側の詳細な記録と照らし、学校提出の資料に「虚偽記載」と思われる記述が頻出。父親はそれらを公表し「再調査を」と訴え続けている。 

再調査求める署名活動に市民の後押し

―なぜ市長は、かたくなな姿勢を取り続けていると考えますか。市議会からも「娘と妻を亡くした遺族がいじめと死の因果関係を知りたいのは当たり前。いじめられた側をなぜ冷酷に追い詰めるのか 」と批判する意見が相次ぎました。 

「学校と市教委は、人事と仕事で交流する『一家』。その面子を守りたいのでしょう。結局、身内は身内を裁けないのです。でも、明らかに虚偽のある資料を基に答申を出したのですから、当事者は黙っていることはできない。間違いがあるのだから、正しい資料を作り直し、再調査をしてほしい、と訴えているのです」 

―再調査を求める署名集めの活動もされましたね。反応はどうでしたか。 

「1万2893人分の署名が集まりました。地下鉄の勾当台公園駅などで『事実を知ってほしい』とチラシを配りながら署名を呼び掛け、多くの人が共感、支持を寄せてくれました。市長に直接手渡したかったのですが、6月27日、受け取ったのは市のこども若者局長でした。それ以後、市の反応はまだありません」 

「私たちはいま、再調査を文部科学省に要望しています。『新たな事実が発覚』した場合は再調査をする―という、いじめ防止対策推進法のガイドラインがあります。それに沿った再調査がまっとうなものだと考えています。当事者のお父さんは『妻と娘の名誉を取り戻すまで、決して諦めない』と話しており、どこまでも支援を続けます」 

「志ある多くの人が集い、全国どこでも無償で支援を引き受ける団体ができたら」と語る田中さん=仙台市宮城野区の事務所
「志ある多くの人が集い、全国どこでも無償で支援を引き受ける団体ができたら」と語る田中さん=仙台市宮城野区の事務所

第三者委員会の在り方に問題は

―田中さんは、いじめ自死の当事者を各地で精力的に支援されていますね。 

「はい、寺岡小だけでなく、宮城県内では仙台市南中山中、折立中、県立工業高で、遺族の代理人や第三者委員会の委員になりました。亘理町吉田中の生徒のいじめ自死事件では現在も委員を務めています。全国自死遺族連絡会に直接の依頼があった、埼玉県の南浦和中、都内の私立高校の生徒の自死遺族も支援しています」 

―寺岡小の事件をみても、第三者委員会の在り方に問題はないのでしょうか。 

「第三者委員会では、市教委と遺族が推薦する委員がそれぞれ3人出ます(さらに委員長が置かれる)。そこでも、市教委寄りの意見は優勢になりがち。遺族の訴える『真実』を予断なく受け止め、公正に考えてくれる人が委員にならないと、当事者の話がねじ曲げられる恐れが現実にあります。相手は『組織』ですから、信頼できる仲間が必要です。いじめ自死の事件が相次ぐほど、委員のなり手が求められます」 

「弁護士、人権委員、教育学の先生、精神科医…。私は(全国自死遺族)連絡会の活動で15年、遺族たちの支援と共に、専門家との研究会や意見交換の活動を続けてきました。そこで培った人脈から、協力してくれる人をお願いします。そこまでするのが代理人の役目なのです」

根底には今も根強い自死への偏見

―しかも、第三者委員会の議論はほとんどが非公開ですね。 

「第三者委員会は、教育委員会が設置します。でも、身内を守りたいのが人情であり現実。だから非公開なのでしょうし、その都度、何が議論されたのか公表もされないし、報道もされず、市民には伝わらない、分からない。ある委員会で当事者の聞き取りをする機会があり、出席した校長はその場で、『親の夫婦仲も、子どもとのコミュニケーションも悪い』『家庭の教育に無関心』『親子げんかが多く、信頼関係がない』といった発言をしました。親が学校に相談した内容も、小さな話が拡大されたり、親の側の問題にされたり。『親の愛情が薄いから子どもが死んだ』という発言さえ聞いたことがあります。自死は個人の問題でなく、社会のさまざまな要因に根差すーと自殺対策基本法にもあるのに、偏見はまだ教育現場にさえあるのです」 

―どうすれば、変えていけると思いますか? 

「第三者委は密室でなく、別個の独立した組織になり、公開されるべきだと思います。そして、地域に戻った元記者やジャーナリストにも仲間になってほしい。ひたすら『事実』を追求してきた彼らに、真っすぐに質問し、記録し、報告書を書いてほしいと願います。そんな、志のあるいろんな職能の人が集い、全国どこででも、無償で支援をする団体ができたらいい。報道の人たちにも、わがこととして問題を掘り下げてほしい。当事者の訴える真実を各地から、地域や社会に伝えることが、現状を改革する一歩だと思います」

いじめ自死問題で全国をつなぐ支援ネットワークを

―いじめ、子どもの自死が増える現実に、自治体や国も変わらねばなりませんね。 

「何よりも大事なのは、誰よりも現実を、痛みを知る当事者の声が、自治体や国の取り組み、対策にもっと反映されることです。私たち自死遺族は、自分たちの声、体験を政策に生かそう―を目標に、長い運動で内閣府、厚生労働省の委員会や有識者会議に委員を送るまでになり、自殺対策基本法の大綱見直しの議論にも関わりました」

「いじめ自死の問題では、旭川の女子中学生いじめ凍死事件のような悲劇が相次ぎ、当事者の子どもたち、家族が全国に増え、また支援活動は各地に生まれているのに、それを一つにつなげる全国ネットワークがありません。当事者の声を大きな力に変える運動が必要。地元の県や地元市町村の対策づくりの委員会にも、ぜひ当事者が勇気をもって参加してほしい」 

たなかさちこ 2005 年に警察官だった長男を自死で亡くし、翌年、仙台に自死遺族の分かち合いの場「藍の会」、08年に全国自死遺族連絡会を設立。内閣府、宮城県、仙台市、角田市の自殺対策の委員を務めている。連絡先は、090(5835)0017=24時間の相談電話も=。ホームページ『 一般社団法人 全国自死遺族連絡会 (zenziren.com)

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