パルム・ドールに「パラサイト」 韓国映画生誕100年に華添える/カンヌ国際映画祭レポート(6)

【齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)=フランス・カンヌ】5月25日の夜、授賞式が行われ、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が韓国初のパルム・ドールを獲得、韓国映画生誕百年の記念の年に大きな華を添えました。ポン・ジュノ監督を始め、去年コンペに『バーニング』を出品したイ・チャンドン監督、『オールド・ボーイ』がハリウッドでリメイクされたパク・チャヌク監督、独特の映画作りで我が道を行くホン・サンス監督など、個性的で実力のある監督が揃っている韓国映画がこれまでパルムを獲っていなかったのが不思議なくらいです。

パルム・ドールのポン・ジュノ監督

批評家から高い評価を受けて映画祭の前半を引っ張ったペドロ・アルモドバル監督の『痛みと栄光』は、主演のアントニオ・バンデラスが男優賞に終わり、またしてもアルモドバル監督がパルムを受賞することはありませんでした。バンデラスは壇上で、この賞はアルモドバル監督に与えられたものと発言していましたが、その通りだと思います。映画祭で受賞するには、実力以上の何かが必要なようです。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが審査員長の今年は、ベテランには賞は行かないだろうと予想していたのですが、やはり、セネガルのマティ・ディオップ監督、フランスのラジ・リ監督という2人の新人が高い評価を受けました。

『アトランティック』は、セネガルから太平洋を渡ってスペインに出稼ぎに行く若者たちを乗せた船が沈み、恋人を失って悲しむ娘の元に、彼の亡霊が戻ってくるという幻想的な作品で、批評家からも高く評価されていました。『レ・ミゼラブル』もそうですが、移民の問題が隠れたテーマになっています。

私が好きだったのは、脚本賞を受賞したセリーヌ・シアマ監督の『炎の貴婦人の肖像』。18世紀中頃のブルターニュ地方の島に、貴族の娘の肖像画を描きにきた女流画家が、その娘と恋に落ちてしまうのですが、身分の違いとジェンダーの壁があって、悲恋に終わるというストーリー。フランス映画ならではのミニマルな描写で格調高く描いていて、久しぶりにフランス映画らしいフランス映画を堪能した気がしました。

受賞結果

コンペティション部門

パルム・ドール:『パラサイト』監督ポン・ジュノ

グランプリ:『アトランティック』監督マティ・ディオップ

監督賞:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督『ヤング・アフメド』

審査員賞:『レ・ミゼラブル』監督ラジ・リ

     『バクラウ』監督クレベール・メンドンサ・フィロ&ジュリアノ・ドルネルス

男優賞:アントニオ・バンデラス

    『痛みと栄光』監督ペドロ・アルモドバル

女優賞:エミリー・ビーチャム

    『リトル・ジョー』監督ジェシカ・ハウスナー

脚本賞:セリーヌ・シアマ

    『炎の貴婦人の肖像』監督セリーヌ・シアマ

スペシャル・メンション

    エリア・スレイマン、『天国に違いない』

短編部門

パルム・ドール:『我々と空の間の距離』監督ヴァシリス・ケタトス

審査員スペシャル・メンション:『モンスター・ゴッド』監督アグスティーナ・サン・マルティン

ある視点部門

ある視点賞:『エウリディセ・グスマオの目に見えない人生』監督カリム・アイヌス

審査員賞:『火が来る』監督オリヴァー・ラクス

演技賞:キアラ・マストロヤンニ『212号室』監督クリストフ・オノレ

監督賞:カンテミール・バラゴフ『ビーンポール』

審査員特別賞:『リベルテ』監督アルベール・セラ

審査員の心からの賞:『兄の妻』監督モニア・チョクリ

      『クライム』監督マイケル・アンジェロ・コヴィーノ

審査員スペシャル・メンション:『ジャンヌ』監督ブリュノ・デュモン

カメラ・ドール部門

カメラ・ドール:『我々の母たち』監督セサール・ディアス


国際映画批評家連盟賞

コンペティション部門:『天国に違いない』監督エリア・スレイマン

ある視点部門:『ビーンポール』監督カンテミール・バラゴフ

監督&批評家週間部門:『灯台』監督ロバート・エッガース

エキュメニック賞

『隠れた人生』監督テレンス・マリック

グランプリのマティ・ディオップ監督
男優賞のアントニオ・バンデラス
女優賞のエミリー・ビーチャム
監督賞のダルデンヌ兄弟
審査員賞のラジ・リ監督とプロデューサー
審査員賞、クレベール・メンドンサ・フィロ(左)とジュリアノ・ドルネルス両監督
脚本賞のセリーヌ・シアマ監督
短編パルム・ドールのヴァシリス・ケタトス監督(右)とスペシャル・メンションのアグスティーナ・サン・マルティン監督
カメラ・ドールのセサール・ディアス監督(左)と審査を担当したカンボジアのリティ・パン監督

第72回カンヌ国際映画祭レポート

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【齋藤敦子】映画評論家・字幕翻訳家。カンヌ、ベネチア、ベルリンなど国際映画祭を取材し続ける一方、東京、山形の映画祭もフォローしてきた。フランス映画社宣伝部で仕事をした後、1990年にフリーに。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。労働者や経済的に恵まれない人々への温かな視線が特徴の、ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」なども手掛ける。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)、「奇跡の海」(幻冬舎文庫)、「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書もある。

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