新聞記者から社労士へ #20 打ち込めるものがありますか

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

驚嘆する旧友の行動力

40代半ばのとき一緒に仕事をした札幌市にある新聞社のNさんから生前遺稿集「笑 Say」(エッセー)と称する本をお贈りいただきました。地方の拠点都市である札幌、仙台、広島、福岡について、4つの新聞社が記者交換してルポなどを行い、各都市の現状や課題などを探る連載企画で、その取りまとめ役をしたのがNさんでした。

その後もNさんとは近況を伝え合うなどしており、50代後半のとき札幌を訪ねた際、早期退職することを告げられました。「定年までまだ結構あるのに」。それから7、8年。贈られた本を読み、疑問は氷解しました。

理科系で英語も堪能なNさんは退職後、リュック一つを背負い、一人で世界中を旅していたのでした。アフリカ、南米、北米、アジア、中東。耳にしたことすらない地まで出掛け、現地の人と接する。少しばかりのお金しか持たない貧乏旅行。そもそも、「人類はどこから来たのか、起源に関心を持っている」というお話しを聞いたことがありましたが。

1泊2000円のホテルでの雑魚寝、水がぷかぷか入って来て身の危険が迫った安運賃での乗船、日本人と見て親切ごかしにお金をだまし取ろうとする国籍不明人。ユーモアたっぷりの文章に、クスクス笑ってしまいました。

普段はひょうひょうとしているNさんのエネルギッシュな行動力に驚嘆しました。同世代で、退職したのは当方より3年程早かったと思いますが、随分違う人生になったと、Nさんをうらやむばかりです。

気持ちを明るく楽しみながら

Nさんのようなケースはそう多くはないでしょうが、退職後の第2の人生に目的、計画があれば、気持ちも明るく、日々楽しめると思います。せっかく手に入れる自由な時間ですから、それぞれの関心、興味により、会社時代とは違った花を咲かせたいものです。

畑仕事、釣り、囲碁・将棋、音楽・美術鑑賞、ゴルフやテニスなどスポーツ活動、野球・サッカー応援、弱者や被災地へのボランティア、地域の探訪・郷土史研究、社会人講座の受講、外国語の習得、外国人への支援・交流。

現役時代にやりたくてもできなかった新しいことに挑戦したり、これまでの趣味に一層磨きをかけたり。恥ずかしがる齢でもありませんから他人を気にせず、臆しないで。

かく言う当方、披露する趣味もないのですが、ぜひやっておきたいのは、計画に縛られない1人旅。その地が気に行ったら何日間か滞在し、また別の地へ。気が向くまま、足の向くまま。若い頃、バスの終点でたどり着いた旅館に頼み込み、布団部屋に宿泊し、旅は道連れと初めて会ったグループに交じったこともあります。日々を離れ、実に愉快でした。

新型コロナウイルスの感染が収束したら、電車やバスに乗って、徒歩や自転車で。大好きな映画「男はつらいよ」の寅さんのような旅です。 

繰り返し見てもその都度変化

そう言えば、今、DVDや有線テレビで昔の映画を楽しんでいます。「男はつらいよ」は、日本各地の昭和の風景が残り懐かしさがこみ上げます。笑い、ちょっと涙し、見ています。温かく、度量が広い寅さん。気に掛かるのは、旅回りの歌手・リリーさん(浅丘ルリ子)です。寅さんとは喧嘩を繰り返しては仲直り。寅さんもリリーさんには、あけすけにものを言い、心の内を見せます。心許せる本当の仲間なのでしょう。寅さんが一歩踏み出せば、いい夫婦になれたのに、残念です。

黒澤明監督の「七人の侍」。実りの秋に野武士たちが決まって襲う村で一大決戦が繰り広げられ、志村喬(勘兵衛)、三船敏郎(菊千代)ら名優が演じます。7人の侍のうち、当方がなれるとしたら誰だろうか。腕が立つ孤高の剣客・久蔵(宮口精二)に憧れますが、とても無理。人情があり、冗談を言って仲間や村人を和ませる平八(千秋実)のようなユーモアも持ち合わせていません。忠誠心が高く、誠実な七郎次(加東大介)には遠く及ばない。考えあぐねながら、何度観たことでしょう。

「ゴッドファーザー」は、アメリカマフィアの抗争を題材に、仕事、家族、苦悩を描いた3部作。裏社会に足を踏み入れファミリーを継いだマイケル(アル・パチーノ)ばかりでなく、その妹のコニー(タリア・シャイア)の変貌ぶりには驚かされます。蓮っ葉だったコニーは年を経てファミリーのことを案じるようになります。人の一生と変遷はこういうものなのか。

同じ映画でも、見るたびに変化し、今まで気付かなかったことを発見します。齢を取り、関心や受け取り方が変わってきたのでしょう。

幸い、まだ新聞や本を普通に読め、今は昭和史関係に凝っています。なぜ日本は戦争に突入していったのか。加藤陽子東大教授の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(朝日出版社)などは、一気に読ませてもらいました。それにしても、「総合的・俯瞰的」との抽象的な理由で、日本学術会議が会員に推薦したにもかかわらず、加藤陽子教授のような方が任命されなかったのはなぜなのでしょう。

30年来下手な横好きで続けている競馬は日曜日の楽しみ。コロナ下でも無観客で開催され、元気をもらっています。血統、調教、持ちタイム、過去の成績、良、重馬場の巧拙、右回り、左回りの競馬場、そして騎手などチェックポイントが多く、それだけ奥深く、ずっと続けていくつもりです。

東北楽天も応援しています。今年のゲームは残り少なくなってきましたが、2位に浮上し、クライマックスシリーズに出場してほしいですね。

こうしてみると、いろいろやることがあり、日々過ごしていけそうです。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. 心身を壊してまでする仕事はありません
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. 時代に置かれていくのを感じつつ
5. 平凡な暮らし 大切に
第3章 避けられぬ加齢が進む中で
1. 健康だと過信することなく
2. 焦ることなく気長に
3. はめを外して大ごとに
第4章 先に退職した者の一言
1. 定年後も働き続けますか
2. 打ち込めるものがありますか
3.寂しいですが元気を出して

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