「キャバレークラウン」のあった旧仙台市電通り。店のすぐ前に市電の停留所があった。向かって左に見えるのが通称「クラウンビル」。道路幅員も当時とは変わっている。

【仙台ジャズノート】回想の中の「キャバレー」 (5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】クラウンで雇ってくれたのは「TALK NOISE(トークノイズ)」というバンドだった。バンド名は和製英語だろうが、「音楽はノイズだ」的に受け取れば、何となく洒落た感じがなくもない。少人数の編成によるジャズバンドの自在な雰囲気をよく表していると言えないこともない。テナーサックスにベース、ギター、ピアノ、ドラムの編成だった。

キタザワさんというベーシストがバンマス(バンドマスター)で、月額4万円なりの給料を払ってくれた。当時、国立大学の授業料が年間1万2千円。貧乏学生にはありがたい収入だった。そのかわり、日曜を除く毎晩、午後6時から午後11時までが就業時間で、体調がすぐれないからと休むなんて許される雰囲気ではなかった。直接言われたわけではないけれど、バンドの空気自体がいかにもプロっぽかった。

あの4万円という給料は当時の相場から見てどんなものだったんだろうか。見習いドラマーの域を出ていないのは分かっていたし、授業料も払わずに教えられることの方が多かった。仮にバンマスにピンハネされていたとしても文句はないのだが、タレントでミュージシャンのエド山口さん(モト冬樹さんの実兄)がYouTubeで運営している「Oh!エド日記」によると、「岩本功二とムーディスラティーノ」のベーシストとして最初に雇われたときに「幾ら欲しい?」とバンマスに言われ、「4万円くれ」と頑張ったそうだ。エド山口さんは見習いよりも3歳年上。同世代の先輩といっていい。比較にはならないが「あの4万円はそういうお金だった」のかと感慨深い。

ちなみに「Oh!エド日記」にはベンチャーズからグループサウンズ、昭和歌謡などを軸とする山口さんの音楽経験がたっぷり盛り込まれている。同じ時代の空気を吸った音楽好きにはおすすめ。

「キャバレークラウン」のあった旧仙台市電通り。店のすぐ前に市電の停留所があった。向かって左に見えるのが通称「クラウンビル」。道路幅員も当時とは変わっている。
(「キャバレークラウン」のあった旧仙台市電通り。店のすぐ前に市電の停留所があった。向かって左に見えるのが通称「クラウンビル」。道路幅員も当時とは変わっている)

音楽を演奏することが楽しかったし、バンドの先輩ミュージシャンとのあれこれがとても楽しかった。宮城県庁の近くにあった野外音楽堂で、在仙のジャズバンドが一堂に会する音楽イベントを開く話が持ち上がった。下手っぴーなドラマーにも声がかかり、緊張のあまり夜も眠れない日が続いた。このイベントは当日未明から豪雨のため中止になったが、ジャズ音楽を広めたいと願うミュージシャンたちの思いがぎっしり詰まっていた。

今にして思えば、今年で30回目を迎えるはずの仙台の定禅寺ストリートジャズフェスティバルやジャズプロムナードなど、すっかり恒例となった音楽イベントの先駆けでもあった。ジャズフェス、ジャズプロムナードが実際に実現するまではさらに20年という時間を要する時代の話だ。

「店が終わってから、酒を飲み足りないときは、みんなで鼻をつまんでヨーイドンした」などと語る猛者がいるかと思うと、スイングジャズの四分音符の長さやタイミングについて延々と解説してくれる師匠もいた。昼間はお茶の販売で稼ぐダブルワークのお父さん(テナーサックス)は、仕事着のままリハーサルに駆け付けていた。美人の奥さん(たぶん)が迎えにくるピアニストはなんだかえらく大人に見えたものだ。卒業後、新聞記者の道に入ると言ったら「あいつら自分ではなにも生み出さない。人のふんどしで仕事する。しっかりキモに命じろ」と言ってくれたのも、この人だった。自分より若干年長のギタリストは1日中、ジャズに浸っていたのではないかなあ。昼間、家に遊びに行くと、ウェス・モンゴメリーやケニー・バレルなどのレコードを大音量でかけていた。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

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