【仙台ジャズノート】「WITH コロナ時代」のプラットフォーム

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】「仙台ジャズノート」PART2でも登場していただいたサックス奏者林宏樹さん(37)が自分のスタジオ「sendai music place ROOTS」を仙台市青葉区一番町にオープンさせました。オープン記念にライブ配信があると聞き、出かけました。スタジオは一番町から東北大学の片平キャンパスに向かう通りの地下にありました。ホールは一つのワンルームタイプ。グランドピアノを備え、絵画展や写真展なども開けるような作りになっていました。

林さんは「この通りそんなに広くはありませんが、ピアノもあるので、ジャズだけではなくいろいろなジャンルの発信の場として使ってほしい」と話していました。自分のスタジオを持つのは以前からの目標だったそうです、まったく予想しなかった新型コロナウイルスと重なり、戸惑いもあったそうです。「でも、まあ、それはそれとしてとにかく前に進まないと、何も始まりませんから・・」

ROOTSのオープン記念ライブのために集まったのは江浪純子(ピアノ)、佐藤弘基(ベース)、岸川雅裕(ドラム)、MIKA(ボーカル)のみなさん。いずれも林さんとの付き合いの長いプレイヤーです。「ROOTS」初のライブ配信はヴィンセント・ユーマンス作曲のスタンダードナンバー「Without A Song」で始まりました。固定カメラとスタッフ手持ちのカメラの計2台。音声と映像を切り替えるノートPC担当のスタッフが演奏開始直前まで配信画面を見ながら林さんと打ち合わせていました。手作り感満載のライブ配信。難敵コロナに対して誰も確定的な見通しを語れない中、「とにかく前に」進むことで初めて見えてくる風景を楽しんでいるようでした。


▲スタジオ開設記念で行われた林宏樹さんのグループのライブ配信。スタッフの動きも手作り感いっぱい。ネットの向こうにいるリスナーたちはどう受け止めたのだろうか。(7月12日、仙台市青葉区一番町1丁目のsendai music place Rootsで)

林さんはFacebookのほか、YouTubeに自分専用のチャンネル「はーやんチャンネル」を持ち、ブログ「はーやん瓦版」も独自に運営してきました。情報発信力に富むジャズ演奏家の顔。今回、新たに「ROOTS」が加わることによって林さんの発信力はより強まったように見えます。

「ROOTS」の利用を広く呼び掛け、さまざまな分野の活動の「ROOTS=根っこ」となるような運営を目指すことによって、演奏家、バンドリーダーとしての、より強いネットワークづくりにつながるはずです。新型コロナウイルスは、分野を問わず、従来型の理念や手法では乗り越えられない現実を突きつけています。音楽を業とする音楽家が音楽だけをやっていれば済む時代ではなくなりつつあるのかもしれません。個人で乗り越えるか、チーム力を武器とするか。「ROOTS」を軸に林さんが模索するような独自のコミュニティづくりは、いわゆる「WITH コロナ」時代のプラットフォームとなる可能性があります。

新型コロナウイルスによる感染拡大を懸念するあまり演奏活動をどんどん委縮させるのがおそらく最も好ましくありません。幸い、一昔前と違ってインターネットやデジタル技術を安価に使うことが可能になっています。演奏者独自の専用プラットフォームを目指すことだって可能です。コロナ禍は確かに不本意でありがたくない事態ですが、ジャズ音楽を取り巻く環境が「キャバレーの時代」以来の前提とどう異なるのかを見極めながら試行錯誤する必要があります。

インターネットを活用した動画配信はそうした事例の一つですが、いわゆる三密を避けながら演奏活動を維持する方法として今後も広がるのかどうか、今一つ分からないところがあります。

ライブの様子を聴き手に丸ごと届けるという意味では、テレビやラジオを通じる場合と、それほど違いはありません。むしろ、ラジオ、テレビ時代から見慣れた光景のように思えます。また聴き手として動画配信を利用する限り、古くレコードからCDやDVDを通じて音楽を楽しむのと何ら変わりません。

違いがあると言えば、映像化の段取りやインターネットに乗せる技術が従来より軽くなり、費用の点でも使いやすくなっている点です。林さんのライブ配信には、趣旨に共感する人が金銭的に応援できる「投げ銭システム」も導入されています。この種の演奏家のプラットフォームづくりを充実させるサービスは今後もさまざま現れることでしょう。

動画配信の事例にインターネットで片っ端から当たり、身近な仙台地域で取り組む現場を直接訪ねているうちに重要な事柄に気付きました。それは映像化と送信自体に特別の意味がある場合はむしろ少なく、インターネットの向こうにいるはずの、演奏者の音楽に強い関心を持ってくれている人たちの存在でした。「WITHコロナ時代」をともに乗り越えるパートナーたちが多数存在していることを実感でき、彼ら彼女らとつながろうとする意欲と工夫が演奏家の側にあるかどうかが重要なのかもしれません。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

4.コロナとジャズ
(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ
(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ/作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く
(3)動画配信で活路を開く/ベース奏者三ケ田伸也さんの場合
(4)「WITH コロナ時代」のプラットフォーム
(5)一歩でも前へ/サックス奏者安田智彦さんの場合

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