【仙台ジャズノート】コロナとジャズ(3)動画配信で活路を開く ベース奏者三ケ田伸也さんの場合

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】ライブやイベントなどの予定が月単位で次々に中止となり、演奏者が何人か集まってリハーサルを行うこと自体、ためらう空気が広がりました。2020年5月25日、政府は東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言を解除しました。宮城県や仙台市の場合、4月29日以降、6月15日現在まで新たな感染者が出ておらず、首都圏などに比べて落ち着いた印象があります。演奏者たちの間には可能な範囲でライブ活動を再開する空気も生まれていますが、新型コロナウイルスへの警戒感は演奏者、聴き手双方に見られ、以前のような活気は戻っていません。

そんな重苦しいムードの中で、ジャズベーシストでインターネットによる動画配信を仕事として手掛ける三ケ田伸也さん(35)の動きは活発です。三ケ田さんは岩手県出身。会社員とジャズ演奏家の兼業状態を長い間続けてきました。元ドラマーでもあり、独学でベースを習得したそうです。

(動画配信の設備チェックする三ケ田さん)

最近、会社を退職し、動画配信の分野で起業しました。起業に踏み切ったのは動画配信の分野が成長すると踏んでのことでしたが、新型コロナウイルスの影響の下、動画配信に対する関心が急に高まったと感じています。

演奏活動を制約された演奏者たちは動画配信という新たな手法によって聴き手との間に新しい活路を開けないかと模索を始めています。異なる場所にいる演奏者がそれぞれ自宅などで演奏したデータを編集ソフトで集約し、ひとつの音楽として聴こえるようにする「リモートセッション」を試みる演奏家も増えています。周囲の演奏家たちがネット配信をさまざまな形で試みるとき、三ケ田さんは配信技術や映像制作やネット配信のプロとして振る舞い、ときにはベース奏者として演奏に加わります。

ベースプレイヤーとして多くのステージをこなす三ケ田さん(中央)

新型コロナウイルスはジャズ音楽にとって特に重要な「コール&レスポンス」の機会をほぼ全面的に奪いました。複数のメンバーが集まる練習やリハーサルを含め、人前でまったく演奏できない以上、演奏者と聴き手の間に意思疎通が生まれるはずもなく、音楽を創造する基盤そのものを強く揺さぶりました。もともと東北をベースに活動してきた演奏家たちは、2011年3月11日の東日本大震災によって演奏活動を封じられた経験がありますが、今回のコロナ禍はさらに長期にわたり、先行きが見通せません。

一連のコロナ禍を振り返りながら三ケ田さんは「確かに厳しい。何とかして以前のように人前で演奏できる環境を取り戻したいと誰もが考えているはずです」と話します。一方、「時代の変わり目」を強く意識しながら、ジャズ演奏者であり、動画制作や配信サービスのプロとしての自分の役割も自覚しています。

「似たようなことが百年前にもありました。コルネット奏者で、サッチモ(ルイ・アームストロング)の師匠格の一人といわれたフレディ・ケッパードです。彼は当時の米国ビクターレコード社からジャズレコードを吹き込みたいという話をもらいながら、それを断ってしまいました」

当時、レコードに記録なんかしたら、自分の演奏を真似される、という警戒心もあったのでしょうか。ジャズはライブで聴く者という考え方が強かったのかもしれません。ケッパードさんは、歴史的なジャズレコードの演奏者としての名誉を自ら放棄してしまったわけです。時代の変化を受け止めるのは、なるほど容易ではありません。

三ケ田さん自身は「動画配信に乗せるジャズ音楽は、デジタル処理によるごまかしがどうしても含まれます。情報量の点でライブの豊かさとは比較になりません。音楽としてのジャズの本当の魅力はライブでしか得られない」と考えています。それでも動画配信を重視し、音楽仲間のネット配信に協力しているのは、ジャズ音楽を、これまで聴く機会のなかった人たちに知ってもらう必要があると考えるからです。

「自分の関心に応じて、いわゆるYouTuberのコンテンツに夢中になっている人たちが大勢います。仮にそのすぐ隣に魅力的なジャズコンテンツを動画の形で置くことができれば、若い世代やジャズから遠ざかっている人たちをジャズライブにつなぐきっかけになるはずです」

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

4.コロナとジャズ
(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ
(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ/作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く
(3)動画配信で活路を開く/ベース奏者三ケ田伸也さんの場合
(4)「WITH コロナ時代」のプラットフォーム

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